第九話 内乱8
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「ようやく来たわね、ニゲラ。さあ、戴冠式を始めましょう。」
ニゲラ殿下を見た王妃様の第一声です。
……状況分かっていますか、王妃様?
そもそも、今の王妃様の立場はどうなっているのでしょう?
利害関係が一致して、完全にフリュイテ侯爵と協力関係にあるのなら、この状況はまずいはずです。
首謀者の元まで攻め込まれたのでこの内乱は失敗で、ニゲラ殿下を国王にするどころではありません。
ここから一発逆転を狙うなら、私たちを排除してニゲラ殿下を取り込む必要があります。
逆にフリュイテ侯爵達に脅されて協力させられているのならば助かったことになりますが、まずは内乱を終わらせることが先でしょう。
ここは内乱とは無関係であることを主張する場面だと思います。
王妃様としては実の息子のニゲラ殿下に王位を継いでもらいたいのでしょうが、このどさくさで王位に就けても絶対に後で面倒なことになります。
どちらにしても、今の発言はあり得ません。
ガザニア先輩も何と返してよいか分からなくて困っています。
フリュイテ侯爵達も王妃様を扱いかねているように見えます。
王妃様用に色々と購入しようとしていたのだから懐柔しようとしていたことは間違いないのですが。
ここで前に出て王妃様に向き合ったのがニゲラ殿下でした。
「母上、話すことは多々ありますがしばらくお待ちください。この者たちとの決着を付け、この騒動を収めないことには落ち着いて話すこともできません。」
「あら、そうなの? 手早くお願いね。」
王妃様、軽い!
まあ、王妃様がフリュイテ侯爵達のことを何とも思っていないことはよくわかりました。
それから、ニゲラ殿下はフリュイテ侯爵の方に向きました。
「お前たちの計画は潰えた。国王陛下は救出済みで、既に王城の門は開き兵も入っている。これ以上無駄な抵抗はやめて投降せよ。」
さて、どう出る?
ここまで攻め込んだ私達ですが、謁見の間の外に締め出した私兵が入ってこれなくても、人数だけならまだ向こうの方が多いです。
私たちを無力化してニゲラ殿下を確保すればまだ勝ち目はあるとみるか、それとも……
「私たちの目的が達する見込みはなくなりました。投降します。」
あら、あっさりと負けを認めました。
最後まで粘るかと思ったのですが、随分とあきらめがよいです。
フリュイテ侯爵は何やら魔道具らしきものを手に取りました。
「フラワーガーデン王国解放軍の全軍に告ぐ。直ちに戦闘を止めて投降せよ。我々は負けた。おとなしく投降した者に対しては、ノースポール・フリュイテの名において助命の歎願を行おう。」
どうやらあの魔道具はマイクだったようです。
王城内にフリュイテ侯爵の言葉を放送したのでしょう。
王城にはその手の仕掛けがあると聞いたことがあります。
「今回の件はすべて私の責任で始めたことだ。どうか他の者の命は助けてほしい。」
そう言うと、フリュイテ侯爵は懐から出した小瓶の中身を飲み干し、そのまま倒れました。
どうやら、毒をあおったようです。
言ったとおりに助命嘆願だけはきっちりやってから逝きました。
随分と潔いです。
残された貴族たちと私兵も、困ったような顔でおとなしくしています。
とりあえず問題なさそうなので、このまま監視するだけにとどめておきます。
外に出た国王陛下が命じれば国軍も動くので、そのうち衛兵とか近衛兵とかがやってきて連行して行ってくれるでしょう。
残る問題は……
「それじゃあ、ニゲラの戴冠式を始めましょうか。」
「いえ、母上。この場で今すぐは無理です。現国王が健在なのですから、まず王太子になって国王陛下の公務を補佐しながら経験を積み、国王の職務が務まると認められてから王位を譲り受ける必要があります。」
「なんだか面倒ねぇ。先に国王になってしまって、後から王命で手続きをしてしまえば早いのではなくて?」
「現国王陛下が健在ですから、勝手に王を名乗り王命を出しても誰も従いません。それでは国王になることはできないのです。」
「ならば、フロックスを先に殺してしまえばよいのです。」
「それでは王を名乗る前に逆賊とみなされます。無理をすれば国が乱れ、やはり王とは認められないでしょう。」
何でしょう。
奇妙な母子の対話が始まりました。
ニゲラ殿下がいつになく真面目です。
生母に対する息子としてではなく、一国の王子として対応している感じです。
一方の王妃様は……アレです。
控え目に言っても、国のことを考えているようには見えません。
何と言うか、よくわからない理屈で自分の都合だけを押し通そうとしているようです。
他人を説得しようとする言葉が欠片もありません。
王妃様が幽閉されるに至った理由がわかった気がします。
こんな話し方では、王妃として公の場所に出せません。
実の息子であるニゲラ殿下の前だからかもしれませんが、今のニゲラ殿下は公的な態度で国益に関わる話をしています。
つまり、王妃様は公私の区別ができていません。
その主張は聞いていて頭がくらくらするような内容です。
これでは王妃としての公務は務まりません。
何も喋らずに突っ立っているだけ、も無理っぽいです。
この非常時でもマイペースに自分の都合だけを押し付けようとする人です。
場をわきまえるとか空気を読むとかできないのでしょう。
あ、フリュイテ侯爵がやけに潔かったり、その仲間の貴族たちがおとなしいのも王妃様が原因かもしれません。
自分たちの正当性のよりどころにしようとした王妃様がこれでは絶望しかありません。
この王妃様では傀儡にすらできません。
王妃様を説得しようとして会話にならずに挫折したのではないでしょうか。
この王妃様の話を一日中聞いていたら頭がおかしくなりそうです。
「ニゲラ……あなたまで私の邪魔をするのね。」
そして、ニゲラ殿下でさえも説得に失敗しました。
ニゲラ殿下としてはこれまでになく正論で、様々な角度から説き伏せようと苦心していましたが、結局何も通じませんでした。
「もういい。こんな国いらない。私は帰ります。誰か、馬車を用意しなさい!」
そんなことを言われても、誰も動きません。
王妃様はこの状況でそれが通ると思っているのでしょうか?
……思っているから言っているのでしょうね。
あ、ニゲラ殿下が動きました。王妃様の前に立ちふさがります。
「母上、あなたの帰るべき国はここです。もう他にはないのです。」
「うっ」
ニゲラ殿下、王妃様に当身を食らわせました。
そこまでやりますか。
気絶して崩れ落ちる王妃様をニゲラ殿下が抱き留めて、そっと横たえます。
それからしばらくして、謁見の間にも兵士がやってきました。
国王陛下が命じれば国軍も動けますし、要人の人質が解放されたことで待機していた衛兵も遠慮なく攻め込めます。
お義兄様達が確保していた複数の門からなだれ込んで一気に王城内を制圧したそうです。
フリュイテ侯爵の放送が功を奏したのか、大きな抵抗はなかったようです。
謁見の間にいた貴族たちや私兵も抵抗することなく拘束され、連れていかれました。
王妃様は、気絶したまま運び出されていきました。
そのまま幽閉生活に戻るのでしょう。
フリュイテ侯爵の遺体も運び出されました。
主犯の一人ではありますが、責任を取る形で自決しましたし、遺体は丁重に葬られるのでしょう。
最後に国王陛下もやってきました。
……ちょっと早くないですか?
王城内の敵対勢力を完全に制圧する前に入ってきちゃってますよね?
兵士と一緒になって突入してきていませんか?
まあ、国王陛下にとっては自宅に帰ってきただけですから文句も言えませんけれど。
それと、王妃様が運び出されたことを確認してから謁見の間に入ってきましたよね!?
まあ、色々とありましたが、内乱騒ぎはどうにか終わりました。
王城内の後片付けとか、捕らえた人たちの処遇とか残っていますが、そこから先は私の仕事ではありません。
体力も魔力も余裕がありますが、なんだか精神的に疲れました。
やっぱり就職先として、王城の仕事は避けたいですね。
・ノースポール
誕生日:2月4日
花言葉:自分に誠実




