第十話 それぞれの未来
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王城を占拠した内乱騒ぎは、二日目にして終了しました。
騒動の舞台はほとんど王城内で完結していて、王都に住むほとんどの一般市民は事件が起こったことさえ知らずに終わりました。
最初から無理のある計画だったのでしょう。
王城の占拠と同時に主だった貴族宛に送られた声明は、すべて無視されました。
犯行に加わっていた貴族たちの実家も含めて動きませんでした。
もう少し粘って成功の見込みありと判断されたら賛同する貴族家が現れたかもしれません。
ただし、王妃様を直接知っている貴族は絶対に認めることはないだろうから、失敗すること自体は最初から決まっていました。
けれども、そんな杜撰な計画でも、王城を占拠するところまでは成功してしまいました。
これは大問題です。
杜撰な計画でも王城を乗っ取ることができると証明されてしまったのです。
警備の見直しやら何やらで王城は大騒ぎになった……はずです。
実のところ、王城内でのドタバタは、ほとんど伝わってきません。
まあ、警備体制の見直しの詳細なんて公開できる情報ではありませんが。
それ以前に、内乱騒ぎそのものをもみ消そうとしているようなのです。
今回の一件、はっきり言って国の恥です。
フリュイテ侯爵を筆頭とする、政治的にも軍事的にも大した力を持たない若い貴族達の手で王城が陥落してしまったのです。
この事実が他国にでも知られたら、国が舐められます。
つまり、「フラワーガーデン王国なんて簡単に落とせる」などと思われてしまうのです。
いきなり戦争を仕掛けてくることはなくても、外交で強気に出てくる国が増えることになります。
それは困るので、事件そのものを隠蔽したのです。
普通ならば隠しおおせるようなことではありません。一時は国王陛下が人質になっていたのです。
けれども、あまりに早く解決してしまいました。
いくらでも隠しようがあります。
完全になかったことにはできなくても、他国から舐められるような肝心な部分だけ誤魔化せれば問題ありません。
事件は隠蔽され、関係者は口を閉ざしました。
何か必要があって言及する場合でも、内乱ではなく騒乱とか騒動とか言います。
そうした隠蔽工作の影響か、犯人に対する処分は甘くなっているようです。
本来ならば国家反逆罪として一族郎党に罪が及ぶところを、今回は本人だけの処罰にとどめています。
また、主犯は自決したフリュイテ侯爵一人とされました。
共犯扱いとなった他の貴族たちは罪を一等減じられ、死罪だけは免れました。
貴族として未来は閉ざされましたが、実家は無事なので家族仲が悪くなければそれなりに暮らしていけるでしょう。
だめなら、ただの平民として一からやっていくしかありません。
一方で、フリュイテ侯爵家に関しては無事にはすみません。
当主自ら内乱の首謀者になったのですから。
内乱に関わらなかった家人にまで処罰は行われませんでしたが、フリュイテ侯爵家に対しては処罰が行われました。
それは、次期フリュイテ侯爵を選ぶ権利の剥奪です。
現在、フリュイテ侯爵領は引退した先代のフリュイテ侯爵が領主の代理を行っていますが、新たな領主を立てることは許されていません。
何か功績をあげた者が次期フリュイテ侯爵として封じられるか、フリュイテ侯爵不在のままフリュイテ侯爵領が王家直轄地になるか。
フリュイテ侯爵の血縁者が跡を継ぐことはないでしょう。
実質的に御家取り潰しです。
それでもやらかしたことに比べれば十分に温情ある措置です。
貴族以外、フリュイテ侯爵に雇われた私兵については、雇われて命令されただけということで重い罪には問われませんでした。
フリュイテ侯爵の最後の助命嘆願が利いた形です。
それでも完全に無罪放免とはならず、王都からの追放が命じられました。
元々王都の外から来た者たちがほとんどなので、実質的に無罪放免です。
ただし、王城を占拠中に命令を無視して狼藉を働いた者に対しては相応の罰が与えられましたし、内乱とは別に余罪のある者はそのまま逮捕されました。
質よりも数を優先して集めた私兵だけに、逮捕された者は多かったようです。
内乱騒ぎの後始末も一段落して、それからさらに月日が過ぎました。
さすがにゲームで描かれている期間は過ぎています。イベントはもう打ち止めでしょう。
ニゲラ殿下は王太子になりました。
内乱を収め、王妃様を再び幽閉したことが大きく評価されたようです。
ニゲラ殿下が王位を継いだ時に王妃様が解放されてしまうのではないか? という点がニゲラ殿下の王位継承に反対する勢力の大きな理由でしたが、ニゲラ殿下は自らの行動でその疑念を払拭した形です。
カルミア様は、ニゲラ殿下の婚約者を継続中です。婚約破棄も断罪も暗殺も回避しましたから順当な結果です。
近いうちに王太子妃になるでしょう。
最近は王太子になって公務の増えたニゲラ殿下を補佐する仕事で忙しいそうです。
ニゲラ殿下の面倒を見続けなければいけないのは大変そうですが、最近は殿下もちゃんと人の話を聞いてくれるそうです。
この国の将来は、カルミア様にお任せしました!
ローレルは近衛騎士団に入団しました。
今では任務としてニゲラ殿下の護衛についています。
学生時代とあまり変わらないように見えますが、学生時代はあくまで学友として共に行動していたにすぎません。
現在は給料をもらって護衛をしています。
騎士団員としては新米ですが、能力的には最初からトップクラスです。
いずれは、親の七光りではなく、実力で近衛騎士団団長の地位にまで上り詰めることでしょう。
その時にニゲラ殿下とローレルの関係が、今の国王陛下と騎士団長のようになっているかは分かりません。
ただ、最も信頼できる護衛としてニゲラ殿下に長く仕えることになることは間違いないでしょう。
ガザニア先輩は王城で働いています。
ラバグルト公爵家は武門の名家ですが、武に特化した感のあるベスビアス侯爵家とは異なり政治志向の強い貴族です。
将来王妃となるカルミア様と併せてガザニア先輩か政治家として頭角を現せば、ラバグルト公爵家の将来は安泰でしょう。
ガザニア先輩ならば、実家の後押しとか関係なく、実力で出世しそうです。
血統主義のガザニア先輩ではありますが、それは平民や血統的に劣る者を虐げてよいという考えではありません。
ガザニア先輩の考えは、由緒正しい血統の者は祖先に恥じないように責任をもって行動しろと言う、ノブレス・オブリージュのような思想です。
分かり難いんですよ、先輩。
学生時代の三年間、ガザニア先輩の言動を見ていてなんとなく理解しました。
ガザニア先輩の取り巻き的な人の中には、完全に勘違いして「血統の良い人間が偉い」と解釈している人も多いのではないでしょうか。
ガザニア先輩はこれからも出世すると思うので、そのあたりの啓蒙もしっかりとやって欲しいものです。
ケールは家業に精を出しています。
イントリーグ家は色々と特殊なので、学園卒業後はそのまま家業に携わっています。
イントリーグ家の表の家業は王家御用達の大商人です。
その商人としての仕事が内乱を終息させる決め手になったのだから、ケールの功績は大きいものがあります。
裏の家業については知りません。
ただ、跡取りであるケールが無関係でいられるはずがありません。
イントリーグ家の裏家業は、犯罪者を取りまとめて王都の治安を裏から支えている側面があります。
ある種必要悪なので、ケールには頑張ってもらいましょう。
アスター先生は……何も変わりませんね、この人は。
相変わらず学園で教師をやっています。
光魔法の素質を持つ生徒はめったに入学しないので、普段は神学の授業のみを受け持っています。
学園の教師の中でもかなり暇な部類に入るのではないでしょうか。
ただし、学園の行事がある時には医療班として強制参加です。
私が卒業した分、学園唯一の治癒魔法の使い手としてアスター先生に負担がかかります。
まあ、私が入学する前の状態に戻るだけなのでどうにかなるでしょう。
そして、私は就職しました。
職場は、学園に併設された研究機関、そこに新設された農業研究所になります。
はい、場所的には学園の敷地内です。仕事の内容も、園芸部の活動の延長線上になります。
所長は、カルミア様です。
今後、カルミア様は王太子妃、王妃となって公務が忙しくなっていくでしょうから、研究所の仕事はあまりできないかもしれません。
それでも、名目上の所長はカルミア様になります。
私の他にも元園芸部員の卒業生が何人かが研究員として所属しています。
ちょうど、園芸部で開花した植物魔法の使い手の就職先ができた形です。
学園の敷地内であることを利用して、園芸部の後輩を支援したり植物魔法の使い手の指導をしたりして、代わりに優秀な学生を卒業後研究所にスカウトします。
園芸部から農業研究所への人の流れは今後も続きます。
ただし、農業研究所に優秀な人材を集めて終わりではありません。
学園に併設された研究機関は、有用な研究成果を必要に応じて国内に広めることもその役割の一つです。
成果を上げた植物魔法の使い手が貴族や民間の業者に引き抜かれたり、品種改良した農作物や関連する農業技術を自領に持ち帰ることも想定内です。
人の入れ替わりの激しい研究所になりそうです。
私は転職する予定はありませんが。
私の仕事は、他の人のサポートが中心になります。
植物魔法による育成を光魔法で加速する、園芸部で行っていたことです。
その他いろいろとやりますが、裏方の仕事です。
引き抜きの対象となるような目立った仕事ではありません。
それに、光魔法の使い手として、私は国の管理下にいます。
別に、平素から監視されていたりすることはありませんが、勝手に転職したりどこか遠くに行ったりすると問題になります。
治癒魔法はともかく、光の攻撃魔法を国外に流出させたりしたら大変ですからね。
さて、学園を卒業してゲームの期間はすでに終了しています。
卒業後に発生するイベントの中でも最大の、ニゲラ王子ルートの内乱も変則的な形で発生してしまいましたが、被害を最小限に留めてどうにか終わることができました。
もう、ゲームのイベントは完全に打ち止めです。
ニゲラ殿下も王太子になったので、今後内乱を起こす心配もなくなりました。
カルミア様も無事生き延びました。
想定外のことも多々ありましたが、最初に考えたゲームのイベントによる悲劇を避けることはほぼ達成したと考えてよいでしょう。
もう、ゲームのシナリオもイベントも気にする必要はありません。
むしろ、ここがゲームの世界であることも、前世の存在自体も忘れてしまった方がよいのかもしれません。
前世の記憶に覚醒してからずっと、ゲームにおける悲劇を避けるために奮闘してきました。
でも、もうよいのです。前世の因縁は断ち切られました。
ここからが、今生の、この世界における本当の人生の始まりと言ってもよいでしょう。
この世界で生きていくための生活基盤、仕事も社会的な立場も手に入れました。
前世に囚われることなく何でもできます。
……あ、やっぱり恋愛は無理です。
私の魂は相変わららずおっさんです。殿方に興味はございません。
このあたり、思いっきり前世を引きずっています。
かといって、女子相手に恋愛するのもなんか違うと感じます。
仕方ないので、恋愛は諦めます。
その代わりに何をするかと言えば……お仕事?
うーん、今の仕事も社会に貢献するし、学園の後輩を助けることにもなるし、悪くはありません。
ですが、異世界に転生してすることが、仕事人間になるではなんだか釈然としません。
そこまで忙しい職場でもないし、仕事以外の活動を行う時間くらいは確保できます。
何より、今の私は日々の生活で手いっぱいの貧しい平民ではなく、曲がりなりにも貴族です。
この世界では、文化、芸術、学術等の直接収益を得にくい一部の分野では、貴族の支援がないと立ち行かないこともあります。
貴族や大金持ちの道楽で進展する分野も存在する、という意味でも余裕のある人は仕事以外にも何か活動すべきだったりします。
そんな事情もあって、道楽として行う分には貴族らしからぬ活動でも割と大目に見られるのだそうです。
そのあたりを踏まえて、私は何をしましょう? 何をすればよいでしょうか?
うーん、すぐには思いつきませんね。
おいおい考えていきましょう。
急ぐ必要はありません。
私の人生はこれからも続くのですから。
これにて完結となります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




