43話 帰宅
頭がボヤッとしている。きのう寝つくのがかなり遅かったせいだろう。汐彩も本当はまだ眠いのではなかろうか。
遅めの朝食後、ソファーに並んで座った。夕べと同じく配信動画を一緒に見るためだ。今回はホラー要素ゼロのほのぼの系。
寝不足な食後に見る映画であり、わかっていたのだが……やはり熟睡一直線だった。
目を覚ますと、映画はすでに終わっていた。
肩に汐彩の体重がのしかかっている。
ぐっすり眠っている。いたずらしたくなるほど可愛い寝顔だ。
それよりも大変なことになっていた。
汐彩と手を握り合っていたのだ!
これって……俺が無意識に握ったのか? それとも汐彩の方が寝ぼけて? あるいは寝ぼけていたのではなく、彼女が意図してのものだとか? まあ、それだけはありえまい。
とにかくこの状況だが――。
このまま握り続けていたいのは山々だが、もし汐彩が目を覚ましたら大変だ。言い訳のしようがない。これがきっかけで避けられてしまうのが怖い。
もったいないが、すぐに手を放すべきなのだろう。信用されているのだからそれを裏切ってはならない。
名残惜しくもそっと手を解いた。柔らかな感触はまだ残っている。また繋ぎたい気持ちをグッと呑み込んだ。
汐彩が目を覚ます。
「あっ。あたし眠っちゃった。映画は……終わっちゃったかぁ」
「俺も同じく途中までしか見られませんでした」
「そーなんだ。じゃ、今度また一緒に見よっ」
「はい、また。ところで汐彩さん、コーヒー飲みません? いま淹れてきますけど」
「ありがとう。でも、そろそろスーパーへ買い物に行こうと思って」
「だったら俺が行ってきます」
「ううん、大丈夫。ちょうど今、お散歩したかったところだから」
「そういうことでしたら、買い物はお願いします」
汐彩はスーパーへと出かけていった。
その間なんにもしないのは気が引けるので、俺は水回りの掃除を始める。キッチン、風呂、洗面所に続き、最後のトイレ掃除を終えた。
ピンポーン
客だろうか? 玄関へ向かう。
ドアが勝手にガチャッと開いた。
ということは汐彩が帰ってきたのだろう。
しかし開いたドアの向こうに立っていたのは、美少女ではなく中年の男。
その顔をよく見てみる。
「なっ!?」
父だった――。
「よう。元気だったか、怜己」
「きゅ……急に帰国だなんてどうしたのさ」
「急に? メールで何度も知らせたはずだぞ」
ふだんの連絡はメッセージアプリのみだ。メールなんてほとんどチェックすることがない。着信があっても、ほぼすべて広告メールだからだ。
「そうだったんだ。ごめん、見てなくて」
「ちゃんとチェックしてくれよ」
怒った口調ではなかった。
ふだんから父とは不仲ではない。かといって仲がいいわけでもなかった。父は良くも悪くも放任主義だ。怒られたり褒められたりすることはあまりなく、あったとしても素っ気ない感じだった。
「義母なら買い物に出かけてるけど、そろそろ戻ってくるんじゃないかな」
一瞬、父は目を見開き、真顔になった。
「ええと、誰が買い物に?」
「だから義母だよ、義母。お義母さんと言った方が良かった?」
「怜己……」
「な、なんだよ」
「美鈴が買い物に行っていると?」
美鈴? 美鈴って誰だよ。
自分の妻の名前を間違えたのか。
あんたの妻は汐彩だろ。汐彩!
前の義母の名前を間違えたのなら、俺は気にならなかっただろう。だが汐彩の名前を間違えたのは許せなかった。
「おい!!」
俺は怒りのあまり、気づけば父の胸ぐらを掴んでいた。
玄関のドアがまた開いた。
「怜己くんっ」
汐彩だった。いま帰宅したようだ。
「汐彩さん、コイツはクズだ。こんなヤツとは即刻、離婚した方がいい!」
「怜己くん、ごめんなさい」
「なんで汐彩さんが謝るんですか? 悪いのはコイツじゃないですかっ」
ワケがわからない。




