34話 学食
南牧かりんや緋吹茉夏たちが立ち去ったあと、何事もなかったかのように、蟹沼冬牙とランチを食べ続けていた。
ところが緋吹茉夏が戻ってきた。右側の空席を挟んで一つ向こうに座る。ここから立ち去ったはいいが、六人全員で座れるところがなく、彼女が戻らざるを得なくなったのだろう。
俺としては、南牧かりんが来なかったことにホッとしている。
てか、緋吹……。近くに座るのはいいが、俺にガンをとばすのはやめてほしい。昭和のヤンキーか。
「じっとこっち見て……。俺に何か用?」
「田中ってさ、かりんに手を出そうとしてたんだって? 身の程を知ったらどう? かりんは中学んときから男子に大人気なの。田中なんかじゃ見向きもされないから」
南牧かりんに人気があることは聞いている。けどさ……。
「別に、手ぇー出そうなんて思っちゃねえよ」
「さっきだって、ワザワザかりんの隣に座ってきたじゃん」
「たまたまだ。気づかなかったんだ」
「あー、しらじらしい。いいこと? 田中ごときに可愛い子や綺麗な子は相応しくないの。田中が隣に座るのを許されるのは、小汚い子だけっ」
ルックスがどうのとか、まるで自分は『小汚い子』に含まれないって言ってるように聞こえるが、そうなのか? 緋吹は小汚いとは言えないかもしれないが、他人のことを馬鹿にできるほどでもないと思うぞ。
それに……。
「なあ、緋吹。それって柚乃のことをディスってる? 柚乃が小汚いってことか? しょっちゅう俺の隣で食ってるんだが」
緋吹は般若のような顔をする。
「柚乃は例外!」
「都合が悪いと例外かよ」
「うるさいっ。田中の隣はブスが座ればいいの!!」
そんな言葉をよく口にできるもんだ。ブスだとか小汚いだとか……。周囲からも何様だと思われるぞ?
ここで俺と緋吹の間に座ってくる者がいた。
「ブスでごめんなさい」
左隣で冬牙が「おっ!」と言ってのけぞる。
いま座ったのは汐彩だ。
もちろん汐彩も俺と同じく弁当を持ってきていないので、学食にくる可能性はじゅうぶん高かったわけだ。
外見について騒ぎ立てていた緋吹は、校内トップクラスの美貌を前に絶句した。
汐彩が俺に小声で……。
「ごめんなさい。他に席が見つからなくて」
普段は同居のことがバレないようにと、バスの時間もずらして登校しているのに……。でもまあ、このくらいは大丈夫だろう。他に席がないようなので仕方ないことだし。
「いえ、どうぞ」
冬牙が緊張の面持ちで頭をさげる。
「こんにちはッス。蟹沼冬牙です」
「こんにちは。あなたたち三人組を屋上でときどき見かけるけど、仲が良さそうで微笑ましいな~って思ってるのよ」
冬牙は鼻穴を広げ、顔を真赤にさせて硬直した。
おーい。いまのは『いつもウチの子がお世話になっています』とかの軽い挨拶の言い換えでしかないからな?
俺は冬牙よりも先に食べ終わった。
それを見て冬牙が急ぐ。
「ゆっくり食べりゃいい。待っててやるから」
「おう。わりぃな」
冬牙は箸のスピードを戻した。
ここで汐彩がペースをあげる。
なんだ?
しばらくして冬牙が平らげる。
同時に汐彩も食べ終わった。
「んじゃ、出ようぜ」
俺は冬牙とともに席を離れる。すると汐彩も食器トレイを持って立ちあがった。
食器やトレイを返し、学食を出る。
なぜか汐彩もここにいる。目を細めて微笑んだ。
「途中まで一緒に。ねっ」
「はあ」
と返事してしまったが……。
いや、いや、いや。隣に座っただけではなく、こうして廊下まで一緒に歩くだなんて。もしヘンな噂が立ったらどーすんのさ。同居や親子関係までバレるきっかけになるかもしれないのだ。
冬牙が汐彩に並ぼうとすると、汐彩はさりげなく冬牙から離れ、俺の隣へと回った。俺が真ん中になって歩く。俺としても、汐彩にはあまり冬牙の隣を歩いてほしくなかった。
「きょう久々にお弁当持ってこなかったけど……。学食に知っている人がいて良かった~。一人で食べるの寂しいから。でも、お邪魔だったかな?」
すかさず答えたのは冬牙だ。
「お邪魔だなんて全然です! むしろ、ご一緒できたことに感激してます」
汐彩がこっちをチラリ。俺も答えなければならないようだ。
「俺も別に……構いませんけど……」
冬牙が肘で小突いてきた。
「なんだよ、その上から目線的なのは」
そんなつもりじゃなかったのだが。ここは言い直しておくか。
「汐彩さんにさえ問題がなければ、喜んでご一緒したいです」
もしいろいろバレた場合、大変なのは俺ではなく汐彩なのだから。
「良かった。じゃあまた一緒に食べようね」
本当にそんなことを言って大丈夫か?
教室に戻った。
あとから遅れて緋吹も戻ってきた。
冬牙が彼女の席へと歩いていく。
「緋吹っ、きょうはお前のおかげだ! サンキュー!!」
彼女はぽかんと首をかしげるのだった。




