31話 会合②
俺と冬牙と柚乃は、他校生たちと食事会をしていた。柚乃の友達である緋吹茉夏が主催したものだが、男女の人数がちょうど四対四の合コンみたいなものだった。
食事が終わりかけた頃、俺のスマホにメッセージが届いた。老神綺沙からだった。
『これナイショね。いま汐彩たちと一緒に……』
汐彩と一緒? 気になった。
老神綺沙に返信する。
「一緒になんですか。点々じゃ、わかりません」
『合コンにきちゃった』
合コン――?
汐彩が合コンに?
嘘……だよな。
合コンってオワコンなんだろ?
もう廃れてるんだろ?
ちゃんと廃れてくれよ。
「そんなことがナイショですか」
平静を装ったメッセージを返信。
汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに?
『あれれ。思ったより反応が薄い』
「どーでもいいことですから」
汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに? 汐彩が合コンに?
『場所は駅前街道のカラオケ店』
「そーですか。楽しんできてください」
『もっとビックリするかと思ったのに』
「ハハハ。しませんよ」
駅前街道の……。
うん、ここから近い店だ。行こうと思えば行ける。
行ったところでどうしようもないかもしれないが、真偽を確認したかった。
立ちあがった。口を開きかけたちょうどそのとき、緋吹も立ちあがった。
「田中、ちょっといいかな?」
「いや、待ってくれ。皆に話したいことがあって」
「後にして。こっちが優先」
半ば強引にトイレ近くまで連れ出された。
睨みつけるような緋吹の目。
「まさか田中、帰るなんて言わないよね?」
見抜かれたか。
俺、顔に出てたのか。
「悪いけどそのつもりだ」
「却下。あたしの顔、潰さないで」
緋吹が被害者ぶって何を言う?
騙し討ちしたのはそっちだろ。
俺はエセ合コンが始まるなんて知らなかったんだぞ。
俺自身の言葉に、ふと思った。
騙し討ち……。
もしかして汐彩も騙されて?
少し冷静になった。
「いいぜ。帰らないでおく。でも次はカラオケでいいか。駅前街道の店で」
「うん、オッケー。その店で構わない。その代わり、もう帰ろうなんて思わないこと」
テーブルに戻り、緋吹が皆に提案。
反対する者はなく、あっさりと話は決まった。
パスタ店を出て、カラオケ店へと向かう。
俺は気安く話せる柚乃の隣を歩いた。
「そういえば隣にいた子、怜己にグイグイきてたね」
女子Aのことだろうが、グイグイきていたか?
「単によく話す人ってだけだろ」
「端から見た限りだと、猛烈なアプローチだったけど」
そんな感じだったかな。
カラオケ店に入る。老神綺沙によれば、汐彩がここで合コン中だとのことだ。
今さらだが……来てしまった。俺、何考えてるんだ? やっぱりキモいよな。これじゃストーカーと変わらない。
バチンと背中を叩かれた。
緋吹の手だ。
「なんで田中がしょぼくれた顔してんの? アンタがここを希望したから、皆も同意したんじゃん。てことで一番手」
マイクを渡された。しゃーない。
歌は苦手だが、なんとか歌い終えた。
二周目がくる前に、トイレ行きを装って部屋を出た。
各部屋のドア窓を覗いてまわる。
こんなことをしていていいのだろうか……とは思いつつも、やはり汐彩のことが気になって仕方なかった。
いた!
ある部屋のドア窓越しに発見。
汐彩の姿がちらっと見えたのだ。
だが……。
なんだよ、この部屋。女子だらけじゃないか。少なくとも合コンなんかじゃない。あのメッセージは嘘――老神綺沙にからかわれただけだったらしい。
くっそ、騙された。腹立つなあ。
だが同時にホッとした気分だった。
部屋に戻んなきゃ。
引き返そうとして後ろを向くと、そこに老神綺沙が立っていた。
「あれれ、イトコくん? このお店に本当に来ちゃったんだ」
ずいぶんと愉快そうに目を細めている。
「た、たまたまですよ。俺の友達がこの店が好きみたいで」
「なーんだ、偶然だった?」
老神綺沙がドアを開けた。
俺の手をぎゅっと掴み、無理やり部屋に引きずり込む。
その場にいる女子たちの視線を集めた。
当然、汐彩の目も俺に向いていた。手にしたグラスを止めたまま、俺がいることに驚愕しているようだ。
「あたしの従弟を偶然見つけたんで、拉致ってきちゃった。えへへへ。うちの学校の後輩でもあるんだ」
なんで俺が老神綺沙の従姉なんだよ。それ設定が違うぞ。アンタの前じゃ、俺と汐彩が従姉弟ってなってるんだろ。
いつもならば、瞬きで汐彩と秘密の挨拶を交わしていたところだ。しかしそんな余裕はなかった。汐彩とは目も合わせられなかった。
女子たちがワーワー騒ぐ。
「わぁ、綺沙の従弟くん!?」
「かわいいっ」
「男の子の後輩くんかぁ、羨ましい」
「だよね。うち、女子校だから……」
老神綺沙の手を振り払った。
「仲間が待ってますんで失礼しますっ」
部屋から逃げた。
俺たちの部屋に戻ると、ちょうど柚乃が歌っていた。
手前の空きスペースに腰をかける。隣は女子Aだった。
「怜己、汗かいてどうしたの?」
正面の冬牙が笑う。
「トイレ行ったんだよな? もしや間に合わず……大を漏らしたとか?」
「アホ。ちげーよ」
「あたしが歌ってるのに、うるさーい!」
柚乃に怒られた。
しばらくして老神綺沙から、またスマホにメッセージが届いた。
『さっきはよくも逃げてくれたにゃ?』
「あの状況、誰だって逃げますよ」
『あたしの弟を皆に自慢したかったのに』
おいおい、さっきは従姉弟って設定だっただろ。
女子Aがスマホを覗く。
俺は画面を見せまいと、角度を傾けた。
「ん? 誰との会話? カノジョさん?」
「いいや。極悪非道の不良先輩」
「きゃはっ。昭和のヤンキーみたいな?」
「そう、そんな感じ」
ここで歌い終えた柚乃に、皆で拍手を送った。
すると老神綺沙から、またもやメッセージ。
『イトコくん。あたしピンチ』
嘘つけ。
「どーしました?」
『汐彩に睨まれてる~』
いい気味だ。
「あなたが原因では? 何やらかしました?」
『何も。でもお店にイトコくんがいたの、あたしのせいって疑ってる』
あんたのせいです。
「偶然って、言い続けたらいいじゃないですか」
『言い続けたんだけど、信じてもらえなくて』
「きっと日頃の行ないのせいですね?」
『ぐぬぬぬ。なので正直に本当のことを話した』
嫌な予感。
「汐彩さんに何を?」
『イトコくんがここにいるのは、あたしが呼んだのではなく……』
「続きをどうぞ」
『たまたま合コンで来てるだけって』
はあ!? 何を言ってくれやがった。
でもなんでわかった? 老神綺沙に見られたのか。
いや、これは合コンじゃない。見られたとすれば誤解だ。
だとしたら……。
汐彩はどう思ったのだろう。




