30話 会合①
駅前のバス停で下車した。
すぐそこに、知っている顔が三つ。蟹沼冬牙、庭坂柚乃、それから同じくクラスメイトの緋吹茉夏だ。いつもの三人組に緋吹が加わるのは初めてのことだ。
小洒落たパスタ店に入った。緋吹が予約してくれていたそうだが、どうしてわざわざそんなことを? 少し気合が入りすぎな気もする。
店員に席まで案内された。
ところが……。
「なあ、緋吹。八人用の席ってなんだ。俺たち四人だろ」
「あ、言ってなかったんだ」
緋吹の視線に、柚乃が首をすくめる。
「ごめん、怜己と冬牙に言ってなかった。あと四人ほど来るって」
「まあ、いいけど。で、誰が来るんだ?」
柚乃が視線を転送。緋吹が答える。
「あたしの中学んときの友達が一人と……その友達が三人。友達以外はあたしも初対面なんだ。◯△高校の生徒」
なんだそりゃ。てっきり、同じクラスの誰かだと思ったのだが。緋吹の友達とその友達ってことは、緋吹の知らない人もくるってわけだ。
「男子は大勢の中で俺と冬牙だけか? だとしたら居づらくなるな」
「ううん。来るのは男二人、女二人」
「つまり俺たちも含めて、男女が四対四か」
「そうなるね」
ふと思った……。
「なんかさ、合コンって感じだな」
初対面全員が異性というわけではないので、厳密には違うのだろうけど、あまり変わらないのではないか?
「面白そうでしょ」
「俺、そういうの好きじゃない。なんで初めからそう言わなかった? 知ってたらわざわざ来なかったんだが」
緋吹一人を責めるのも心苦しかったので、柚乃を睨んだ。
「あたしも知らなかったし。茉夏、どういうこと?」
「ごめん。◯△高校の友達から相談があってさ。合コンみたいのやってみたいねって。だけど互いに男子の友達がいなくて。だったら、男子の友達がいる女友達を介してならば、合コンじゃなくとも……それっぽい食事会ができるかなって」
だから緋吹は柚乃を利用したのか。
その柚乃が緋吹に不満をぶつける。
「あたしに頼まなくても、クラスの男子に直接募集をかけたら、喜んで参加する人いたと思うけどな」
「誰でもいいってわけにはいかなかったから。ほら、田中と蟹沼だったら割と……。一応、四天王だし」
ん……四天王? 汐彩と何か関係のあることか?
しかし冬牙の解釈はこうだった。目を輝かせて言う。
「田中汐彩さんや老神綺沙さんと同様に、まさか……俺と怜己も四天王って呼ばれてたのか。知らなかったぜ。まあ、なんとなくそんな気がしないでも……いや、なんでもない。とにかく田中汐彩さんや老神綺沙さんと同じ土俵に立ってるんだな」
しかし柚乃が冷たく返す。
「待って。それ誤解だから」
「ち……違うのか」
残念そうな冬牙。ぶっちゃけ俺もちょっと期待したのだが、現実は厳しいものだ。
「四天王って呼ばれ始めたのは本当。だけどあくまでもクラス内でってこと。しかもうちのクラス、レベルは学年内で最弱って言われてるし。少なくとも、あの三人とは雲泥の差があるってこと」
まあ、それでもクラス内のベスト四なら喜ぶべきなのだろう。
冬牙が柚乃に顔を近づける。
「クラスの四天王の話、知ってたんだったら、なんで教えてくれなかったんだ」
「だって、冬牙たちが調子に乗るからに決まってるじゃん。親友の痛々しい振る舞いを見たくなかっただけ。あたしとしてもフォローできなくなるだろうし」
「せ……正論。俺なら調子に乗ってただろう。ただ、これから先……調子に乗るかもしれないけどな」
「だから乗るなって言ってんの」
緋吹はあらためて俺たちに謝罪した。
まあ、いいだろう。とりあえず、ここは緋吹の顔を立ててやろうじゃないか。いまさら他校生との食事会を拒否できないだろうし。
しばらくして四人組の男女が現れた。
面子がそろったことになる。
さっそく席替えをさせられた。俺の隣には他校の女子Aが座った。冬牙の隣には他校の女子B。
なんだか本当に合コンっぽくなってきた。
でも合コンって、オワコンになったとか聞いたことあったぞ?
それはともかく、緋吹のために一肌脱ぐと決めたのだから、少なくとも嫌な顔を見せるわけにはいかない。他校の皆にも失礼なことになるし。
女子Bは真面目そうな人だ。冬牙の苦手なタイプじゃないかと思ったが、冬牙はちゃんと話を盛りあげている。とりあえず問題はなさそうだ。
おっと。他人の心配をしている場合じゃない。余裕がないのは、むしろ俺の方だ。初対面の女子相手に話題を探すのが難しい。ガチな合コンじゃないにしても、それなりに会話を弾ませなくてはなるまい。
しかし案外なんとかなるものだった。これは女子Aが喋りまくってくれたおかげだ。
「どうも。◯✕って呼んでください。あなたは? へえ、怜己くんっていうんですか。ここから敬称ナシのタメ口でいいですか? やったー。あたし、お菓子作るのが大好きで、この前はザッハトルテに挑戦したんだ。 <中略> あっ、あたしばっか喋っててごめんなさい。怜己相手に喋ってると楽しくなって。つい、止まらなくなっちゃった。エヘヘヘ」
いやいや、謝ることはない。聞くだけで良かったのでラクだった。それにしても、よくこんなに次から次へと話題が出てくるな。
汐彩との穏やかな時間や、柚乃との気を使わない沈黙とは、ぜんぜん違うものだった。
そろそろ食事会終了の時間になる。当初の話だと、食後は街で遊んで帰るってことだった。
向こうの皆も一緒なのか? 嫌な人たちではないのだが、俺としてはここで終わりにしてほしい。他校の人々との交流を広げたいなんて欲求はないし、女子生徒の友達を増やしたいなんて欲求もない。
もし俺一人が帰ったら、きっと冬牙と柚乃は怒るだろうな。緋吹も恨むだろうな。他校の皆だって、きっと気を悪くするだろうな。でも帰りたい。
スマホにメッセージが届いた。
老神綺沙からだった。




