28話 少女①
日曜日、靴を買いにいった。家から結構遠いものの、激安で売っている店があるのだ。
店の前で知っている顔を見かけた。クラスメイトの八込悠斗だ。
「よう」
声をかけると、彼が顔をあげた。学校外で会ったためだろうか、少し驚いたようすだった。
「ああ、田中かぁ」
おや?
八込は小さな女の子を連れていた。ついさっきまで気づかなかったが、彼女が小柄だったため視界に入らなかったのだろう。
小学生の妹だろうか。仲がいいもんだ。思わずほっこりしてしまった。
「へえ、可愛い子じゃないか」
「……」
何故か気まずそうに目をそらす八込。
女の子は目を見開いていた。
小さな顔が真っ赤になる。
「は……はあ? い、いきなりナンパですか! そういうの困ります」
逃げるように去っていってしまった。
どうしたのだろう。
「俺、なんか悪いこと言ったか」
「田中なあ……。いきなり『可愛い』ってなんだよ。初対面なんだろ」
「それがいけなかったのか。小動物っぽくて、つい声に出てしまったんだが。八込の妹……じゃなかったのか?」
「バカ言え。同い年だぞ。中学のとき同じクラスだったんだ」
なっ!? 小学生じゃなくて高校生だったのか。幼い顔立ちだったし、背も低かったから、てっきり……。
「でも『可愛い』って性的な意味で言ったんじゃないし、悪口でもないだろ」
「だとしても、その言葉はセクハラになり得るぞ」
「ごもっとも。俺、やらかしたぁ」
今後は気をつけるべきだ。
翌日の月曜日――。
いつもは三人で弁当を食べていた。しかしきょう蟹沼冬牙は学校を病欠。庭坂柚乃と二人だけとなる。互いに目を合わせた。
「きょうどこで食う?」
「うーん、屋上にしよっか」
すると……。
「だ、だったら拙者らと……食おう……でござる」
三膳院がすぐそこに立っていた。額には汗をかき、やや赤面しながら柚乃に視線を向ける。
ああ、コイツ、緊張すると何故か『ござる口調』になるんだった。
「三膳院がああ言ってるが、柚乃はいいか?」
「うん、別にいいけど」
話は決まった。三膳院の連れとして、酒光と八込もついてきた。八込はきのう靴屋の前で会ったヤツだ。
屋上に汐彩がいた。仲間たちと一緒に食べている。きょうは老神綺沙がいないようで、ちょっと安心した。このまま現れないでくれ。彼女は何かと絡んでくるので苦手だ。
汐彩がこっちに気づいた。瞬きで無言の挨拶を交わす。
意外なことに、柚乃も汐彩と会釈を交わしていた。
「えっ、柚乃。汐彩さんと仲良かったのか?」
「ちょっとだけ知り合い。その程度かな」
いったい、どこで知り合ったのやら。
俺たちは汐彩たちからあまり遠くないところに座った。
新たなグループがやってきた。俺たちの近くを通り過ぎていく。その中の一人が立ち止まった。
「あっ、あなたは!!」
高い声を響かせた。こっちに指を向けている。
誰だ?
すぐにその顔を思い出した。というより、その小さな身体は忘れもしない。靴屋の前で八込と一緒にいた女の子だ。
制服を着ているためか、きのうほど幼く感じなかった。ぎりぎり中学生くらいには見えるかもしれない。
俺を一睨みすると、仲間に声をかけた。
「皆、急いで離れて!」
ぷいっと頬を膨らませ、去っていく。
あからさまに避けられてしまった。
三膳院と酒光が心配する。
「おい、ちょっと。どうしたんだ」
「田中、何があった」
妙な誤解をされては困る。
「きのう街で偶然、八込を見かけたんだよ。そのとき一緒にいたのが、さっきの子だったんだけどさ……」
八込が途中で口を挟む。
「待て。俺もあそこでたまたま出くわしただけだ。中学が同じだったから、ちょっと立ち話してたっていう」
「ふーん……元同級生ね。あの子と普通に話せるなんて、純粋に羨ましいな」
酒光がぽつりと漏らした言葉に、俺は素で驚いてしまった。
「え? お前、あんな感じなのが好みなのか?」
ああいうロリっぽさ……俺にはまったく響かないが、ちゃんと需要はあったってわけか。
「うるさい。で、結局、田中はきのう何をやらかしたんだ?」
酒光がムキになっている。俺からの問いには答えたくなかったので、話をそっちに戻したいのだろう。まあ、いいけど。
「きのう会ったとき、てっきり八込の妹だと思ってさ。それでつい『可愛い』って言ったんだ。ほら、ちっこいし、小動物的な感じだし。でもそれが不快だったみたいだ」
「怒るのは当然。外見を褒めるのはセクハラだからな」
きょうの酒光は攻撃的だ。
「わかってる」
ここで三膳院が間に入ってきた。
「確かに面と向かって言うべきではなかろう。だが彼女のこと、可愛らしく思っている者が大勢いるのも事実」
「やっぱりそうなのか?」
そんなふうに酒光が確認すると、三膳院は溜めを作ってから首肯した。
「うむ。というか驚いた。まさか知らなかったとは。何を隠そう彼女は……すぐそこに座っている田中汐彩さんと同じく、我が校の『四天王』の一人なのだ!!」
あの子も四天王? 俺の義母や老神綺沙とはベクトルがまったく異なるが、ああいうのを崇拝する層は少なからずいるってわけか。
三膳院が話を続ける。
「彼女の名は南牧かりんちゃん」
すると酒光が話に食いつく。
「おお、あの子が南牧かりんさんか。名前は聞いてたが……。うん、四天王っていうのは納得だ」
三膳院がニヤリ。
「ただし四天王の中で最弱……ゴホッ、ゴホッ。すまない、いまのは失言だった」
八込と酒光の鋭い目が三膳院を睨んでいた。




