26話 紛失②
汐彩が大切にしていたチラシ裏の絵は、もうゴミに出されてしまったらしい。
落ち込む汐彩の様子を見ていられなくなった。
今度は俺が老神綺沙に電話をかけた。
「イトコくん、どうしたの?」
「今からそちらの方へ向かおうと思いまして」
「えっ、あたしんちに来るの?」
「いいえ、家までは行かないです」
ゴミ集積所の場所さえ教えてもらえればいい。もうこの時間だと、ゴミの回収車に積まれていった後かもしれない。ただ、最後まで足掻きたかった。
「ああ、それならあたしがゴミ捨て場を見に……って言いたいところだけど、いま忙しくて手が離せなくて。でも用事を済ませたら急いで行ってみるから」
「ありがとうございます。助かります。一応、俺も向かいますんで」
俺と老神綺沙とで、どちらが現場に到着するのが早いか。
場所を聞き、電話を切った。
汐彩も一緒に行きたがっていたが、俺は断ることにした。
「バスを待つより自転車の方が早いんで、一人で行ってきます。汐彩さんは家で待っててください」
自転車を漕ぐ。
途中でスマホが鳴った。
老神綺沙からだった。
「ゴミ捨て場に来てみたんだけど、やっぱりもうゴミなくなってた」
「そうですか……。わざわざご確認ありがとうございました」
「ううん、家から近いし」
やはり遅かったようだ。
もうやれることはないのか。
いいや、まだある。
「ところで老神さん。きょうが古紙の回収日だったんですね?」
「燃やすゴミの日よ」
それ、本当は駄目なんじゃ?
「可燃ゴミの日でしたか、わかりました。じゃあ、また今度」
「うん、バイバイ」
電話を切った。
続いてスマホで検索。
ゴミ回収車が向かう先は……?
見つけた。可燃ゴミの清掃工場を特定。
急いでそこに向かった。
現場に到着。さっそく立ち入りの許可を求めた。
ところが安全管理や衛生上の理由から、立ち入りを許可してもらえなかった。
嘘……だろ?
大切なものなんだ。汐彩の宝物なんだ。何がなんでも取り戻さなくちゃならない。
事情を丁寧に説明した。
息を切らし、汗だくになりながら何度も頭をさげた。
それが俺にできることのすべてだった。
しかし首を縦に振ってもらえなかった。
俺としては食いさがるしかなかった。
粘って粘って必死に頼み込む。
結局、門の外へ連れ戻されてしまった。
どうにかならないのかよ。
何かいい方法ないのかよ。
くそっ、俺、なんて無力なんだ。
途方にくれるしかなかった。
汐彩の泣きそうな顔を思い出した。
そうさ、もう一度……。
だって諦められっかよ。
ふたたび門の正面に立つ。
「怜己くん。やっぱりここだった」
この声……?
振り向くと汐彩がいた。
「やっぱりって。どうして?」
「ここだと思ったからよ」
清掃工場に来ようとしたことは、老神綺沙にも言わなかったが。
「だからどうしてそう思ったんですか」
「なんのゴミの日かを確認してから電話を切ったって、綺沙が言ってたから」
「えっ、それでわかっちゃったんですか」
汐彩が小さく笑う。
「あとは……まあ、最近は怜己くんのことがわかってきたというか、あたしお母さんだからね」
俺も小さな笑顔を見せながら言う。
「とりあえず汐彩さんは、ここで待っててください。俺、見つけてみせますんで」
そう。絶対に諦めるものか。
門へ向かって歩き出す。
すぐに守衛が走ってきた。
「事情はじゅうぶんわかりますが、さっきも言ったとおり入場は許可できません。お気の毒だけどね……」
すると背後から。
「もういいよ、怜己くん。帰ろう」
「でも……」
「絵は諦めるから。もうじゅうぶんだから」
じゅうぶんなんて嘘だ。だったら、あんな泣きそうな顔するはずがない。
「何言ってるんですか。俺、絶対なんとかしますから」
よっぽど大切なものだったはず。
意地でも見つけてやる。
するとここで――。
「あ、電話……」
汐彩がスマホをとる。
「綺沙、どうしたの?」
しばらく話を聞き、電話を切った。
虚ろな目で放心状態の汐彩。
「どうしました?」
おそるおそる尋ねてみた。
じっと俺を見つめる。
「絵、見つかったって。捨てたと思ったけど、まだゴミの一部がキッチンに残ってたって」
見つかった――朗報だった。
「良かったじゃないですか!」
「うん」
汐彩の目から涙がこぼれ落ちた。それを隠すように俯く。彼女のおでこが俺の胸元に。泣き止むまでしばらくこのままでいた。
汐彩が顔をあげる。
「怜己くん、無駄なことさせちゃってごめんなさい」
「大切な絵が無事で何よりです」
「うん。ありがとう」
守衛に頭をさげる。
「申し訳ございませんでした。ご迷惑をおかけしました」
守衛の手が肩をポンと叩く。
守衛も笑みを浮かべていた。
「良かったじゃないですか」
あらためて彼に頭をさげた。




