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25話 紛失①


 コンビニで買い物を済ませて帰宅した。


 老神綺沙も一緒だ。相変わらず「イトコくん、イトコくん」と連呼してくる。俺と汐彩が従姉弟だという嘘を信じているからだ。騙しているようで彼女には悪いが、本当のことは明かせない。


 正直、老神綺沙のことは苦手だ。いつものようにオモチャにされるのはゴメンなので、俺はさっさと自分の部屋にこもった。何度かドア越しに誘われたが、宿題があると言い張ってやり過ごした。


 それでも夕食は三人一緒とならざるを得なかった。


 汐彩の料理が食卓に並ぶ。「きょうはこれを食べにきた!」などと言ってはしゃぐ老神綺沙。ちなみに彼女の両親は法事のため、日曜日まで帰ってこないらしい。


「「「いただきます!」」」


 五目飯、三つ葉のすまし汁、鶏唐、だし巻き卵、野菜サラダ。どれも美味しい。


「ヤバっ。汐彩さんの五目飯、本当に美味しいです」

「この前、怜己くんがまた食べたいって言ってたから」

「嬉しいな。覚えててくれたなんて」

「あたりまえじゃない。喜んでもらいたいもん」


 続いて、だし巻き卵を一口。


「微妙な甘さ加減、俺の好みにドンピシャです」

「でしょ、でしょっ」

「でもどうしてピンポイントでわかったんですか」

「いつも怜己くんの反応を確認してるから」

「感激です。作ってくれるだけで、大感謝ですのに」


 拗ねたような声が聞こえてきた。


「ちょっと、あのさ……。一応、あたしゲストなんだけど。おいてけぼり?」


 そうだった。老神綺沙がいるのを忘れていた。


「老神さんも話に加わってくればいいじゃないですか」

「そうよ。綺沙もいろいろ話そうよ」

「あんたらが二人だけで不可視の結界作っちゃってるんだから、入り込めるわけないじゃない」


 えっ、そうか? そこを無理矢理にでも入り込んでくるのが老神綺沙だと思っていたのだが。


「じゃあ老神さん、何か話をしてくれませんか」

「話をしろと急に言われても」


 考え込んだので、話題を見つけてやった。


「ところで、髪留めというかリボンみたいなもの……老神さんが付けているの、きょう初めて見ました」


 笑顔を見せる老神綺沙。


「シュシュのことね。学校外では、たまーに付けてるけどね」

「それ、色もいいですし、柄もお洒落です」

「先週買ったばかりなんだ」


 ここで汐彩に視線を移す。


「汐彩さんによく似合いそうです」

「そうかな。あたし、シュシュって似合わない気がして」

「いいえ。似合いますよ、絶対」

「なら、試しに買ってみようかな」

「今度二人で買いにいきましょうよ」

「怜己くんが選んでくれるの?」

「ぜひぜひ選ばせてください」


 老神綺沙が俺と汐彩を交互に指差す。


「ほら、そこ! また二人だけの世界に入って!」


 さっきのやり取りは、もちろんワザとだ。汐彩もそれをきちんと理解し、俺に合わせてくれた感じだった。


「ごめーん、綺沙。ちょっと意地悪してみちゃった」

「老神さんの反応が可愛らしかったもので。すみません」


「もー、二人とも! こーなったらヤケ食いしてやるんだから。でも、うまっ、本当にうまっ。ん……ゴホっ。ゴホゴホ。お水ちょうだい」


「綺沙ったら、急いで食べるからよ」

「俺、水、持ってきます」



 五目飯はまだたくさん残っており、老神綺沙が明日の朝食用に半分持ち帰ることになった。


 汐彩は五目飯をタッパーに詰め、古新聞紙で包んだ。それを輪ゴムで留めて老神綺沙に渡す。


「なんかさ、汐彩。古新聞で包むって、おばあちゃんっぽくない?」

「怒るよ?」

「だって~」


 このあと俺と汐彩とで、老神綺沙をバス停まで送っていった。




 翌日、汐彩が泣きそうな顔をしていた。


「どうしたんですか。バタバタしてるみたいですけど」

「ないの……。大切なものをなくしちゃって」

「いったいどんなものですか」


 大切なものと聞いて、貴金属や宝石の類をイメージした。ところがそうではなかったようだ。


「一枚の絵よ」

「えっ、絵画? そんなの持ってたんですか」


 しかし汐彩は首を左右させた。


「誤解してるかもだけど、立派な絵とかじゃないの。チラシの裏に描かれたもの。でもあたしにとっては、それが宝だったから。なくしたら一生後悔する」


 なるほど。思い出の物とか、誰かの形見とかか。


 しかも汐彩の話によれば、それを挟んでいた新聞紙も思い出の物らしい。地元の記事が載っていたそうだ。


「そういえば、きのう老神さんに渡した五目飯。古新聞に包んでいましたよね」


 汐彩は慌てて部屋に戻っていった。

 しばらくして、顔面蒼白となって部屋から出てきた。


「どうしよう。新聞紙、間違えたみたい。部屋を掃除したとき、古新聞の置き場を替えてたから……」


 パニックのあまり、冷静さを欠いているようだ。


「落ち込むのは早いですよ。まだ無事かもしれません」

「そうね。聞いてみないと」


 汐彩が老神綺沙に電話をかける。

 しかし彼女の顔に、絶望の二文字が刻み込まれた。


「嘘……もう捨てたって? 今朝のゴミ出しに?」




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