24話 先輩
ある金曜日の夕方、コンビニ前でバッタリと中学時代の知り合いに会った。
「久しぶりじゃねえか」
彼はバスケ部の一年上の先輩だが、普段から素行の悪い問題児だった。なので、できれば二度と顔を合わせたくなかった。しかし会ってしまったのだから仕方がない。とりあえず挨拶しておく。
「あっ、先輩。こんにちは」
先輩は女子を連れていた。二人そろって派手な髪に派手な服装だった。その意味ではお似合いな感じだ。案の定、俺に絡んできた。
「なんだ、その服。だっせー恰好だな」
「はあ」
「そんなんじゃオンナも寄ってこねーだろ」
「はあ」
相手は先輩なので逆らえず、肯定を繰り返すしかなかった。
「てことはまだ童貞か。ハハハ」
「はあ」
「普通、中学んとき卒業するもんだぜ」
「はあ」
それ、普通じゃなくて少数派だと思うが。
だいたい、後輩相手にマウントを取って楽しいか?
連れの女子も笑いながら言う。
「うわっ、童貞? キモっ」
こっちから言わせてもらえば、アンタの恰好の方がよっぽどキモいからな。
先輩がこっちに蔑んだ目を向けながら、その女子に言う。
「コイツ、童貞だってよ。教えてやってくれねえか」
「タイプじゃないから無理ぃ~」
「だーよな」
二人で爆笑する。
なんなんだ、コイツら!
タイプじゃないのは、お互い様だろ。
コンビニから女子が出てきた。
先輩が手をあげると、手を振ってきた。
どうやら彼女も先輩の連れだったらしい。
女子二人が並ぶ。どちらも派手でケバケバしい。メイクを落としたときの素顔がまったく想像つかないほどだ。
先輩が得意そうな顔で二人を紹介する。
「こっちが今カノで、こっちが元カノだ」
今カノと元カノの二人を一緒に連れているのか。
まあ、仲がいいことに越したことはないだろう。
すると先輩の今カノが言う。
「ちなみに、先月まではあたしが元カノで、そっちが今カノだったんだけどさ」
なんとも節操がない。
「羨ましいだろ? 両手に花だぞ」
ぜんぜん羨ましくなかったが、一応「はあ」と返事をしておいた。
「ところで田中。こんなところで何やってたんだ?」
「人を待ってまして」
先輩が眉根を寄せる。
「野郎なんか待ってて楽しいか? 虚しくならね?」
「それが……今回、たまたま女性なんです」
「お前、話がちげえだろ。オンナも寄ってこねえんじゃなかったのか」
ああ、面倒くさい人だな。浮いた話はなくとも、異性の友達ぐらいはいるさ。まあ、きょう連れているのは友達じゃないけど。
「いや、いま待ってる人はカノジョでもなんでもありませんので」
「だと思ったぜ。それに、どうせブスなんだろうな」
いったい、なんなんだ?
俺のことならばまだしも……。
たとえ仮にブスだったとして何が悪い?
先輩の今カノが顔を覗き込む。
「あれれ。この子、怒っちゃったみたいだよ」
「悔しかったら、ブスなんざ連れて歩くの、やめりゃいい」
また女子が一人、コンビニから出てきた。
今度は俺の連れだった。老神綺沙だ。
俺を見つけてこっちにやってくる。
「この人たち、知り合い?」
「中学のときの先輩と、その今カノさんと元カノさんです」
ブス発言を繰り返していた先輩が、目を丸くしている。
「へ……へえ。なかなか綺麗な子、連れてやがるじゃねえか」
さっきの威勢のいい声はどこへやら。
驚くのも理解できる。老神綺沙は校内で四天王のうちの一人と呼ばれているのだから。
だからといって俺が胸を張ったり、先輩にマウントを取り返したり、なんてできるはずがない。老神綺沙は俺の友達でもなんでもないのだから。
「まさか田中のカノジョじゃ……?」
「違います」
きちんと否定しておいた。
老神綺沙の名誉のためにも。
ところが彼女は、ぎゅっと腕を組んできた。
「そう。まだカノジョじゃないんだな」
またこの人は悪ふざけを!
「まだって言い方、なんですか」
「じゃあ、もう? きゃっ」
肩に頬をすりすりしてきた。
「ちょ、やめてください」
「いひひひ。やめなーい」
しょうがない人だ。
一方、先輩は先輩で口をあんぐりと開け、絵に描いたような間抜け面になっている。
ここでまた一人、コンビニから女子が出てきた。
彼女も俺の連れ――田中汐彩だ。
これまた校内で四天王と呼ばれる者の一人だ。万人を魅了するような整った目鼻立ちは、まさしくその称号にふさわしい。
長い睫毛に縁取られた瞳が俺を探す。その何気ない動作ですら、計算された彫刻のように美しく輝いていた。
こっちへやってきた。
すごめた顔を老神綺沙に近づける。
「怜己くんから離れなさい。それセクハラだから」
絡みついた老神綺沙を、引き剥がしてくれた。
田中汐彩が現れたことで、先輩の顔はますます驚いたものになった。
「た、田中……お前……」
「連れが来ましたので、そろそろ失礼しますね」
先輩に一礼し、三人でコンビニ前から去る。
背中から先輩の声が聞こえてきた。
「アイツ、羨まし……。いてっ、いてっ。ごめんなさい。羨ましくないです。いてっ」




