22話 柚乃②
庭坂柚乃は思い返した。
蘭辺小春と一緒に弁当を食べるようになったが、それは彼女が積極的に仲間に加わってきたからだった。
しかし蘭辺小春と小中学校や部活の被っている者が、この弁当仲間にいたわけではなかった。誰とも接点がなかったのだ。だから当初は変な子だなと思っていた。
ある日、蘭辺小春は田中怜己に対する想いを打ち明けた。そして田中怜己との仲を取り持ってほしいと願い出てきた。
どうやら、それが弁当仲間になった本当の理由だったらしい。心の中で溜息を漏らした。
実は中学のときにも、似たようなことがあった。
蟹沼冬牙のことが好きで、接近してきた同級生がいた。彼女と友達になると、今度は恋の協力を求めてきた。だからそれに応じると返事をしたのだ。
実際、彼女のために頑張った。
しかし冬牙は彼女に振り向く様子がなかった。
彼女は焦り始め、次第にヒステリックになっていった。セッティング方法やそのタイミングなどについて、柚乃を責めるようにもなった。
柚乃としてもキューピット役は不向きだという自覚はあった。要領の悪さもつくづく感じていた。それでも精一杯やったはずだった。
結局、彼女は冬牙にフられた。
柚乃と彼女との間に、気まずさが残った。そして柚乃から離れていった。
もう二度と協力なんてゴメンだ。
キューピット役なんてやるものか。
だから今回、蘭辺小春にははっきりと伝えた。
協力はできないと。見守ることしかできないと。
その翌日から怜己が弁当持参するようになった。だから今度は、怜己と弁当を食べるようになった。蘭辺小春はそれを裏切りと捉えたようだ。次第に彼女とギクシャクするようになっていった。
そして昨日。体育の授業前だった。
更衣室で蘭辺小春に話しかけられた。
いつ怜己との仲を取り持ってくれるのかと。
はて、何を言っているのだろう。
それについては、できないと答えたはずだ。
だから、あらためて蘭辺小春にそう告げた。
蘭辺小春はこれまでの不満を一気に爆発させたのだろう。息を大きく乱し、とり憑かれたような勢いで文句をぶちまけてきた。周囲のクラスメイトたちが驚いてこちらを見ているのに、彼女の目には入っていないようだった。
彼女は多くの同級生女子の前で、怜己への想いを晒す結果となった。
そんな蘭辺小春を心配し、なだめようとする者もいた。しかし蘭辺小春の暴走は止まるどころか、逆に拍車がかかっていった。
パシンという音が更衣室内に響いた。
蘭辺小春から柚乃への平手打ちだった。
その場が騒然となった。
皆、暴力を振るわれた柚乃の肩を持った。
始まった体育の授業では、蘭辺小春は完全に孤立していた。
……
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蘭辺小春という人物は、行動が衝動的すぎる。突然大声で文句を言ったり、平手打ちしてきたり、騒ぎの翌日には退学を申し出たり。感情が爆発すると、すべてが見えなくなるタイプなのだ。
怜己は親友だ。こういう人との橋渡しを断ったのは、きっと正解だったに違いない。
いま正面に田中汐彩が立っている。
この先輩はどうして怜己を心配しているのだろう。
あらためて田中汐彩に告げる。
「怜己になんら落ち度はありません。この件で悪いのは、あたし。あたしの振る舞いでした。もっと慎重であるべきでした」
蘭辺小春の名誉のため、彼女の怜己への想いについては触れないでおいた。
さらに言葉を続ける。
「でも安心してください。じきに解決しますから」
退学については深く考えての決断ではなかろう。担任も保留としていることだし、きっと……いずれ撤回となるはずだ。必要なら説得しに行ったっていい。
そして彼女が登校してきたら、ちょっと癪に触るけど……こちらから声をかければいい。それを何度か繰り返すのだ。その様子を周囲に見せつければ、皆も彼女を受け入れるだろう。
これが怜己のためにできること。
親友のため、喜んで我慢しよう。
正面の田中汐彩をじっと見つめた。
「あなたは怜己のなんなのですか」
田中汐彩は考え込むように視線を落とした。
ふたたび目を合わせると、口元に笑みを浮かべた。
「詳しくは言えないけど、あなたと重なる部分もあるのかもね」
「ないと思います。あたしは怜己とダチですし、幼馴染ですし。どこが重なるんでしょうか」
「あたしも幼馴染なんだ。怜己くんは忘れてるだろうけどね」
そんな馬鹿な。ヘンなことを言う人だ。つまり正直に話す気はないということらしい。
教室に戻る。
怜己は相変わらず、机に突っ伏している。一方、冬牙は男子生徒たちから羨望の眼差しを向けられていた。
「ハハハハ。俺、あの田中汐彩さんに名前を覚えられてたんだぜ。しかもわざわざ休み時間に会いにきてくれたんだ。なのに……柚乃にかっさらわれるなんてな」
ある男子生徒が言う。
「でもお前、田中汐彩ちゃんにビビってたじゃん」
「そりゃビビるさ。あんな綺麗な人が突然やってきたら、まともに声も出ねえよ」
「ふうん。てことは普段から親しくしてるわけじゃないんだな?」
「これからガチで親しくなるんだ! でさ、怜己も老神綺沙さんと仲がいいみたいだし、俺と汐彩さんとの四人でダブルデートなんていいかも。アハハハハ」
柚乃は溜息が出そうになった。
蟹沼冬牙は親友ながらアホだ。




