18話 屋上
ある日の昼休み。
いい天気だったので、屋上で食べることにした。
今回は、いつもの三人――俺と蟹沼冬牙と庭坂柚乃だけだ。三膳院や酒光はいない。
依然として窓の鍵は壊れたままだったので、屋上へは無事に侵入できた。先日よりも賑わっている。
三人並んで座り、弁当を食べ始める。
しばらくして――。
「わっ! おい、見てみろよ」
そんな冬牙の声に顔をあげてみると、汐彩が屋上にやってきた。もしかして、ここの常連なのだろうか。
「ほら、な」
と冬牙。何が『ほら、な』なのかは不明だが……。
「おう」
とりあえず返事をしておいた。
汐彩が仲間たちと周囲を見渡し、場所を探している。
目が合った。いつものように瞬きで挨拶する。少し離れた場所だったので、汐彩の瞬きは視認できなかったが、たぶんしてくれたのだろう。
「あそこで食べよ」
汐彩がこっちの方を指さしている。
わざわざこっちに? あえて離れて食べた方がいいのでは?
金髪女子生徒が汐彩に提案する。
「でも向こうの方が空いてるっぽい」
そのとき窓からもう一人ぴょんと現れた。
老神綺沙だ。
この人……苦手なんだよな。
金髪女子生徒の言うとおり、向こうへ行ってくれ。
その老神綺沙が彼女たちのグループに合流したところで、俺の姿を発見。こっちを指さした。
「場所、あの辺がいい」
結局、彼女たちはこっちの方へ来てしまった。
五人の女子生徒が近くに座る。
冬牙はニヤッとした。
「綺沙ちゃん、また近くに来たぞ」
「知るか」
老神綺沙のことはどうでもいい。汐彩の方をあまり見ないようにしているが、それでもたびたび目が合ってしまった。
視線をさっと外したとき、金髪女子生徒と目が合った。
「ねえねえ。あの男の子……綺沙と仲のいい子だよね」
「うん。あたしたち仲良しさん」
それを聞いた冬牙が小声で言う。
「仲良しさんだってよ」
「うるせ。冗談を真に受けんじゃねえ」
金髪の生徒は嬉しそうだ。
「もしかして綺沙のナイショのカレシだったり?」
笑いながら返す老神綺沙。
「えーっ。わかっちゃった?」
「やっぱり!」
汐彩が目尻をつりあげて叱る。
「綺沙、ふざけすぎ」
「ごめーん。うそうそ」
今度は柚乃が耳元で言う。
「でも本当はつきあって……」
「ねえよ」
老神綺沙は誤解させるような言動が多くて困る。
冬牙が彼女たちを眺めながらぼそり。
「つくづく思うんだけどさ。四天王の二人が並んでっと、迫力エグいな」
老神綺沙はウチに来たことがあるし、それどころか汐彩はウチに住んでいる。普通ならば大いに自慢したいところだが、もちろん誰にも言えない。
「それよりも汐彩っ」
いまの声は、眼鏡の生徒のものだ。金髪の生徒の隣に座っている。そしてこう続けた。
「さっき城ケ丘くんに呼び出されて、告白されたんだよね」
汐彩が……? またか。
「な、なんで知ってるの?」
どうやら間違いではなさそうだ。
汐彩が鋭い視線を送ると、老神綺沙は目を逸らした。
眼鏡の生徒が汐彩に顔を寄せる。
「いいじゃん。で、どうなった?」
「どうって……。そういう話、あんまりしたくないな」
老神綺沙がいたずらそうに笑う。
「言葉を濁した~。てことは、つきあっちゃったんだ」
えっ!!
そんな。汐彩が?
だって彼女は…………。
金髪の生徒の箸から唐揚げがポロリと落ちる。
俺の横では、冬牙が弁当箱ごと落とした。
「ない! ちゃんとお断りしたから」
汐彩がきっぱりと否定。
直後、目が合った。
「こ・と・わっ・た」
彼女は念を押すように繰り返した。
「そんな強調しなくても」
と眼鏡の生徒。
汐彩が告白を断るのは当然だ。だって既婚者なのだから。
そう。今のは義理の息子である俺に向けてのものだったに違いない。浮気や不倫とかになったら家は一大事だ。
とはいえ眼鏡の生徒は正しい。そこまでの強調は必要なかった。俺としても新婚の彼女を疑うわけがないのだ。
またこっちを見た。
「本当だから」
眼鏡の生徒がなだめるように、汐彩の肩をぽんぽんする。
「わかった、わかった。本当だって信じるから」
俺だって、ちゃんと信じている。
老神綺沙は澄ました顔で、美味しそうに弁当を食べていた。




