↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/44

11話 来客


 五月の連休二日目。


 汐彩は実家へ行った。亡くなった叔母のことで、用事が山ほどあるそうだ。



 その日、久々にダチが遊びにきていた。

 蟹沼冬牙と庭坂柚乃だ。


 汐彩はコップやブラシなどを、自分の部屋に隠していってくれた。廊下も居間もトイレも洗面所も大丈夫。彼女のものは一切ない。同居のことは、ダチの二人にバレないはずだ。


 ところが、思わぬところから危機が訪れた。

 汐彩の持ち物についてではない。



 ピンポーン



 もしセールスとかだったら面倒だ。しかし近所の人かもしれない。出ないわけにはいかないだろう。うちはインターホン通話できないし。


「ちょっと出てくる」


 冬牙と柚乃を居間に残し、玄関へと行った。

 ドアを開ける。


 はあ!?


 俺は一瞬、固まった。

 いやいやいやいや、ありえない。


「あっ、キミ! こんにちは」

「こんにちは……。て、どうしてここに!」


 そこに立っていたのは、老神綺沙だった。


「あたしが遊びにくること、汐彩から聞いてなかった?」

「それって、明々後日(しあさって)ですよね」

「えっ……」


 この人、汐彩並にドジっ子か?


 老神綺沙がスマホを確認する。

 魂の抜けたような顔になった。


「ホントだ……やっちゃった。あたし間違えて連絡してた」

「生憎、汐彩さんはきょう留守です」


 後方から大声があがった。


「老神綺沙さんだ!!」


 振り返ると、冬牙が部屋から顔を出していた。


 見られた。


 老神綺沙に小声で話す。


「俺の友達です。汐彩さんのこと、まだ何も知りません」

「この前いっしょにいた子ね。汐彩のことは話してないのかぁ」


 さて、困った。せっかく訪ねてきた汐彩の友人を、そのまま帰すのもなんだし。せめてお茶ぐらいは。冬牙にはどうせ見られたんだし。


「うちに寄ってってください」

「でも悪いよ。お友達が来てるんでしょ」


 すると冬牙が近づいてくる。


「構いません、構いません。汚いところですが、ぜひ寄ってってください」


 今朝、汐彩が掃除してくれたばかりだ。

 それなのに汚いって! お前なあ。


「なら、お言葉に甘えようかな。ショートケーキ買ってきたんだけど、無駄にならずに済みそうだし」


 ショートケーキの箱を受け取り、礼を言った。

 老神綺沙を部屋に案内する。


「こちらへどうぞ」


 部屋の中にいた柚乃が、目を丸くする。


「うわっ、きれいな人!」


 冬牙が胸を張る。


「だろ? 校内の有名人だぜ。老神綺沙さんだ」


 何故お前が紹介する?

 さらにコイツは老神綺沙の正面に座りやがった。


「ファミレスんときも、怜己とは親しそうでしたが、どういう関係なんですか」


 老神綺沙はいたずらっぽく笑った。


「どういう関係に見える?」

「まさか……つきあってるとか」

「つきあってるように見えた?」

「ぜんぜんっ見えません。つり合いません!」


 悪かったなあ。そりゃ、つり合うわけないさ。

 今度は柚乃が尋ねた。


「じゃあ、普通に単なる友達ですか」

「うん。今はまだ、お友達」


 ここで俺が口をはさむ。


「今はまだとか言うと、こいつらに誤解されますって」


 柚乃が呆れ顔をする。


「誤解されるはずないじゃん。当然、老神さんは冗談で『まだ』って言っただけだし」


 くそっ、なんにも言えねえ。


 冬牙が首をかしげている。


「でもわかんねえな。家に遊びにくるってことは、そこそこ仲が良い証拠じゃん。そもそも、どうやって知り合ったんだ。接点ないだろ」


 そりゃ接点なんてあるものか。彼女は俺じゃなく汐彩の友達なんだ。汐彩とのことは内緒なので、説明に困ってしまう。


「委員会の仕事、手伝ってもらったことがあったんだ。忙しいときにちょうど彼が通りがかって、頭をさげて無理やり引きずり込んじゃったの。だからきょう、お礼にショートケーキ買ってきたってわけ。家にあげてもらうつもりはなかったんだけどね」


 ナイス嘘!


「ふうん。まっ、確かに、怜己は面倒見のいいところがあるから……」


 おっ。柚乃の中じゃ、俺の評価いいじゃん。


 さてと。

 ショートケーキの箱をふたたび手に取る。


「これ、老神さんにもらったんで。いま受け皿に載せてきますね。あとコーヒーも淹れてきます」


 箱の中を見てみる。


「あれっ、こんなにいっぱい」

「うん。家族構成わからなかったから、一応予備もと思って」


 そこで冬牙が言う。


「怜己は一人暮らしですよ。親父さんは海外にいるらしいんで」

「えっ、お母さんは?」


 いないが……。


 ここで俺は思い出した。

 しまった! やらかしてしまった。


 俺が老神綺沙に初めて会ったのは、昼休みの体育館だった。汐彩に弁当を渡しにいったときだ。そこで汐彩と一緒に食べようとしているところを、彼女に見られたのだ。


 弁当の中身が同じなのがバレて、そこで俺は彼女に嘘をついた。汐彩との関係は従姉弟(いとこ)であり、弁当を作ったのは母だったと。


 冬牙が彼女に答える。


「怜己の母親、いないんです」

「そうだったの。ごめんなさい」


 じっと俺の顔を見つめる老神綺沙。

 こっちこそ嘘ついてて、ごめんなさい。


 嘘をついていたことで、彼女と汐彩との間に亀裂が入ったら俺のせいだ。それに汐彩との二人暮らしが、彼女にバレてしまった。汐彩にとってダメージは大きいはずだ。


 もちろん冬牙は悪くない。彼は何も知らなかったのだから。すべて俺のせいだ。


 彼女は俺の頭を手でポンポンした。


 血の気が引いた。

 まずい、まずい、まずいことになった。


 このようすを眺めながら柚乃が言う。


「ホント、仲いいのね。まるで姉弟(きょうだい)みたい」


「うん。姉弟みたいなものよね~」


 老神綺沙が顔を近づける。


「は、はい……」


 こえーよ、老神綺沙。


 ショートケーキとコーヒーの飲食後、彼女は帰ることとなった。


 冬牙と柚乃を部屋に残したまま、俺は彼女をバス停まで送ることにした。


 玄関を出て二人で歩く。


「きょう汐彩はいなかったけど、楽しかったなぁ」

「何もお構いできませんで……」

「キミのこと、たくさん知ることができた」

「はあ」

「年下の可愛いウソツキくん」

「……」


 老神綺沙が顔を覗き込む。


「大丈夫よ。汐彩との二人暮らしのことは、誰にも言わないから。もしあたしがそうだったら、やっぱり嘘とかで誤魔化してただろうし」


 とりあえず安心して良さそうだ。


「助かります」

「うふふふ。従姉弟っていうのも嘘だったりして」

「いや、そんなことは……」

「ううん、もう詮索はしない」


 バス停に到着。そこでバスを待つのだが、休日ダイヤのため本数が少なかった。


「そうだ。連絡先、交換しようよ」

「えっ、なんでですか」


 いろいろイジられそうで怖い。


「だってイトコくん、面白い子なんだもん」

「俺は面白くありませんよ」

「交換、嫌なの?」

「わかりました」


 強迫された気分だったが、連絡先を交換した。


「ありがとっ」

「イタ電とかしないでくださいよ」

「うん、善処する♡」


 善処って。


 約十五分後、バスは彼女を乗せて走っていった。


 俺はすぐに汐彩へ電話をかけた。

 事情を話し、ひたすら謝った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。