10話 贈物
昼食後はゲーセンに行った。
「田中、どうして老神綺沙さんを誘わなかったんだよ」
「誘えるかっ。そんな仲良くないんだ」
しかしヤマッチは不満そうだ。
「ああ、野郎だけじゃつまらん」
俺はじゅうぶん楽しいが。
「わかった。そんじゃ次回は柚乃も呼ぼう」
「庭坂か。でもあいつ色気がないからなぁ。四天王の誰かがいい」
「贅沢言うな!!!」
俺のダチをなんだと思ってやがる。柚乃を呼ぶのはやめた。ヤマッチのために呼ぶのはもったいない。
ふと、あるゲーム機が視界に入った。
クレーンゲームだ。
ガラス越しに見える、小さなぬいぐるみの山。
その中に見覚えのあるキャラクターがあった。
腑抜けた感じの子豚――。
汐彩の鞄にぶらさがっているやつと同じだ。
ちょうど色違いのものだった。
そのゲーム機の前に立つ。
「怜己、そーゆーのが好きだったのか」
冬牙に返事ができないほど集中していた……。
くそっ、失敗した。
ふたたびコインを投入。
景品の子豚がとれたら、汐彩にあげるつもりだ。
色違いだから無駄にダブるわけじゃないし。
「またやるのか。好きだなあ」
その後、冬牙の言葉は「またやるのか」から「まだやるのか」に変わっていった。どんなに頑張っても、なかなか景品をとることができない。俺、こういうのには才能がないのか。
「代わってくれ。俺もやる」
というのはヤマッチだった。もちろんゲーム機を独占するつもりはないので交代してやった。ここで小休憩だ。
こいつ、鈍臭そうだが大丈夫か……なんて思っていたのだが、一発で景品の子豚をゲットしやがった。
「これ欲しかったんだろ。田中にやるぜ」
ヤマッチ、いいヤツじゃん。
だが、他人からもらったのを汐彩にあげてもなぁ。
「いや、いい。景品が欲しかったわけじゃないんだ。気持ちだけありがたく受けとっておく」
俺たちはゲーセンを出て街を歩いた。
ヤマッチが肘で小突く。
「見てみ。あそこにも」
玩具店の入口にぬいぐるみが並んでいた。さっきの子豚のキャラクターもある。しかもずっとデカい。
それを手に取った。
「田中、買うのか。やっぱ好きだったんじゃん。だから俺がやるって言ったのに」
「こんなん好きじゃない。ただ、とれなかったままなのが嫌なんだ。だから汚い手を使ってでも勝ちとるまでだ」
「わかんねえヤツだな、お前」
「わからなくていい」
夕方帰宅した。
手元には子豚のぬいぐるみがある。汐彩に渡したい。だが、理由もなくプレゼントなんて、キモがられるのではないか? そう考えると渡しづらくなり、どんどん時が過ぎていき、夕食も終えてしまった。
ソファでコーヒーを飲みながら寛いでいる汐彩。
このまま今日が終わってしまいそうだ。いま渡さなければ、余計に渡しづらくなりそうだ。
汐彩の隣に紙袋を置いた。
「わっ、びっくりした。これって……何かな」
紙袋から子豚のぬいぐるみを取り出す。
「鞄についてるものと同じだから、好きかなって思いまして」
「わっ、かわいい! あたしに?」
「まあ、はい……」
「いいの? これ高かったでしょ」
実際、値段は高かった。
「いいえ、クレーンゲームの景品ですから」
咄嗟についた嘘。
「こんな大きな景品、ありえないと思うけど」
確かにそのとおり。なんて馬鹿なことを言ってしまったのだろう。一気に頭の中が真っ白になり、パニックを引き起こした。
「と、というのは嘘で。ただ単に……。そう、おみくじに当たって」
「おみくじは景品を当てるものじゃないでしょ?」
わぁーーーー、焦って間違えた!
くじ。くじだ、くじ。単なるくじ。
なんで、おみくじなんて言葉が出てきてしまったんだろ。
「お、お、お、おみくじじゃなくて……」
「福引とか?」
「そうそれ。福引です」
この際、福引でいいや。
「でも値札ついたままだけど?」
えっ!?
値札なんてあったのか。気がつかなかった。
わざわざ買ったのがバレた。てか、俺死んだ。
「実はそれ……。いつも三食作ってもらったり、掃除とかも結局は殆どやってもらったりしてるから。そのお礼がしたいなって、ずっと思ってまして」
いつかお礼すべきだとは考えていた。だが、このぬいぐるみを渡したかったのは、そのためじゃなかった。単に喜んでほしかっただけだ。しかし納得してもらえるような理由が思いつかなかったため、そういうことにしておいた。
汐彩はぬいぐるみの手を握った。
そのぬいぐるみの手で、俺の頭を撫でる。
「怜己のお母さんなんだから、当たり前のことをしてるだけよ。気を遣わなくていいの。でも、ありがとう。これ大切にするね」
ぬいぐるみ……。はたして喜んでくれたのかどうか。俺には余裕がなく、汐彩の顔を見られなかったので、まったく確認できなかった。
そんなやりとりを後悔しながら自分の部屋に戻った。布団を被った。できることならば、きょう一日をやり直したい。
小一時間ほど部屋に引きこもったのち、トイレに行こうと部屋から出た。
居間に汐彩がいるのが見えた。
子豚のぬいぐるみをギュッと抱きしめていた。
トイレで用を足し、部屋に戻る。
ぴょんとベッドに飛び込み、大の字になった。




