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第九話 ラスボス降臨

 快進撃は続き、二回戦も順調に勝利を収めた。友香を狙った敵のボールを佐藤がキャッチ、玲または田中のパワー系にパス。そしてそのパワフル球で敵を沈める。さらに跳ね返って来たボールを佐藤が確実に拾う。このルーティンが非常に強力だった。


 いびつだったチームワークも徐々に風通しの良いものになっていき、一回戦以外は全くアウトを取られていない。佐藤も田中も、玲が友香をかたくなに内野ないやに置く理由がわかった気がした。


 ——誰だって、一番「狙いやすい標的」を狙いたくなる。


 敵が、友香という一点に攻撃を集中させればさせるほど、その弾道は玲や田中達にとっても読みやすく、絶好のカモでしかなくなるのだ。


「……おお!すごいよ!ポッピン田中! 今のキャッチからの連携れんけい、マジで神!」

 準決勝を終え、玲がご機嫌な笑顔で駆け寄る。

「だから混ぜるなっつってんだろうが!」


 田中は顔を真っ赤にして叫び返したが、その表情には最初の絶望的な恐怖だけではなく、どこか「勝っている」ことへの高揚感こうようかんも混じっていた。


 そして気付けば、トーナメントは決勝戦へとこまが進められていた。大方おおかたの予想通り、勝ち残った相手は水谷瑞希みずたにみずきひきいる「最強チーム」だった。


 決勝を前に「女王」瑞希がぞろぞろと取り巻き達を引き連れて、友香達の元へ近づいてきた。


「あはは! びっくりしちゃった。まさか、こんな寄せ集めの『弱い子』が混じってるチームが決勝まで残れるなんてね。他のクラス、よっぽど手加減してくれたのかな? それとも、あんまり強くなかったのかな~?」


 瑞希がキラキラした笑顔を誰にともなく振りまく。取り巻きたちも顔を見合わせ、わざとらしく笑う。


「あれ~!あれれれれえ?そこにいるの友香じゃない? ごめんね、あまりに場違いなところにいるから、最初、誰だか分からなかった~!」

 わざとらしい謝罪ポーズの後、すぐに表情を戻す瑞希。


「同情するなあ。私もハンドボールの試合出てるからわかるけどさ。『弱い子』が一人混じってるだけで、チームにとってはただのお荷物でしかないんだよね。ねえ、麻里奈まりなもめぐみもそう思うでしょ?本当は迷惑してるんじゃない?」

「——っ?」


 ブロックした相手を、下の名前で親しみを込めて呼ぶ厚かましさに、田中も佐藤も嫌悪感をあらわにするが、しかし何も言えずにいる。そして友香はうつむき、自分のジャージのすそをぎゅっとつかんで動けない。


「あれ~!どうしたの~友香~?ちょっと涙目になってるよ~!そんなんで本当に私達と戦えるの~?だったらさ……恥かく前に帰った方が良くない?」


 追い打ちを掛けるように瑞希がまくしたてた、その時だった。

 自分の手がそっと優しく握られた事に気づき、友香が顔を上げると、玲が微笑ほほえんでいる。


 ——大丈夫!


 玲の目はそう言っていた。そして瑞希の前に立ちはだかった。


「……ねえ、瑞希みずき。あんたの言う『弱い子』って友香の事?」

「さあ?ご想像にお任せするけど?」

「じゃあ、お言葉に甘えて。私はあんたの事だと思った。試合が始まる前に相手のメンタルつぶそうとするのってさあ、そうした思考自体が『弱い子』のする事だって思わない?」


 瑞希の表情がスッと冷める。取り巻き達の目つきも鋭くなった。

「別にそんなつもりはないし、そんな必要もないんだけど」

「フフ、わかりやすいくらいバレバレなんだけど。まあいいや。ところでさ、ちょっと上見てみなよ」


 そう言って玲は指を上に指す。

「上が何よ?」


「今日は学校公認でスマホ撮影が自由な日。 ギャラリー見た?みんなスマホ構えて、今この瞬間を撮りまくってる。ねえ、瑞希?あんた、自分が今どれだけヤバい崖っぷちに立ってるか分かってる?」

「は? 何の事?」


 瑞希が真顔で聞く。玲はやれやれといった仕草で語った。

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