第八話 何やってるの?
ドゴォッ! 重い衝撃音と共にボールが命中し、相手の選手がそのまま前のめりにコートへ沈む。
「アウトォッ!」
審判の手が挙がると同時に、体育館の歓声も大きくなる。
「田中さんもすごい……!」 友香が思わず拍手を送る。玲は余裕の表情で敵陣を眺め、ピースサインを立てた。
「よっしゃ! 残るはあと二人!」
しかし、敵チームの生き残り二人はここからがかなり手強かった。彼女たちはハンドボール部ほどではないにせよ、バスケ部とテニス部の混合ペア。隙を見逃さない鋭い観察眼を持っていた。
敵のテニス部員は、投げるモーションを玲と田中に向けたと思いきや、フェイントで外野にボールを回した。しかし、外野もほぼノールックでもう一度テニス部員へと返す。
「チっ……!」
佐藤の視線が遅れ、隙が生まれた。テニス部員の放ったボールは、内野の端で身を置いていた佐藤の肩を掠め、さらにその隣にいた友香の腕にもぶつかり、地面に落ちる。
「アウトォッ! 二名アウト!」
審判の非情な宣告。友香は衝撃でその場にへたり込み、佐藤は絶望に顔を白くさせた。
その瞬間、玲の纏う空気が一変した。玲はゆっくりと佐藤の方へ顔を向けた。その表情は、もはや女子高生とは思えない、鬼神の様な顔つきだった。
「……シュガー、何やってるの?友香を守れって言ったよね?」
落ち着いた玲の声が、逆に佐藤の全身を凍りつかせた。
「ひっ、あ、あたし……」
「玲、待って……! 今のは、私がもたついて足引っ張っちゃったんだよ」
刺すような沈黙を破ったのは、腕を押さえながら立ち上がった友香の声だった。友香は怯える佐藤の前に立ち、玲の視線を遮る。
「佐藤さんは私を守ろうとしたけど、私が勝手に動いた。ごめんね。だから……私が悪いの。」
友香の謝罪。その純粋な優しさから来る言葉を聞いた瞬間、玲の瞳から凶悪な光がすっと引いていく。そして、肩の力を抜いた。
「……友香がそう言うなら、いいよ!」
玲がいつもの笑顔に戻る。
空気を変えるように、田中が手を叩く。
「ドンマイ!ドンマイ!仇は私と雨宮で取るから任せろ! 汐見と佐藤は外野で見てな!あ、でもボール来たらちゃんと拾えよ!」
そう明るく叫びながらボールを拾い上げる。
「後はお願いします……!」
友香と佐藤が外野へ移動しながら、声を上げる。
「汐見、ありがとう……助かった」
「え?」
「あいつ、マジで私を殺そうとする目してた……」
友香は足を止め、隣を歩く佐藤を見つめた。佐藤の横顔は、まだ血の気が引いたように青白かった。
「ポッピン、ボールちょーだい!」
「その名前は言うなっつったろ……」
田中からボールを受け取った玲は、最後の一撃のために右腕をしならせた。
「よくも友香を……お返しだよ!二人まとめて、消えて!」
玲の手から放たれたボールは、もはや球技の域を超えていた。空気を切り裂く轟音と共に放たれた超速球は、逃げ場を探す敵二人を縫うようにして激突させた。一投で二人を同時になぎ倒す「ダブルアウト」をお返しとばかりに完遂させた。
「試合終了!」
審判の声が響くと、先程よりも大きな拍手に湧き、歓声も一際大きくなった。玲は勝利の余韻に浸ることもなく、真っ先に外野の友香へと駆け寄り、その細い体を力いっぱい抱きしめた。
「勝った!勝ったよ!友香~!」
友香もまた、心臓の鼓動が収まらないまま、小さく頷いて玲と手を合わせる。ギャラリーの関心は、この「寄せ集めチーム」への期待と、玲という少女が放つ異様なまでのカリスマ性に向けられていた。




