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第六十六話 瑞希の日記 4

十月十日

 あいつを、あの偽物を絶対に終わらせてやる!あいつの正体を、真実を、全部SNSで暴露してやる。ドッジボールの試合には負けたけど、私はまだ完全に負けたわけじゃない。このまま黙って消えてやるもんか。絶対にただじゃ終わらせない。


 震える指で、今までのことを全部書き込んだ。あの偽物と交わした、命を賭けたドッジボールの約束のこと。さらに、あいつがA・Hとは別の「何か」である証拠として、密かに盗撮したあいつの顔写真。


 ——それを、六万人以上のフォロワーに今、届けてやる! 


「投稿」ボタンを押した。でも、画面には非情な文字が出た。


『この投稿は削除されました』


 ——は?


 数秒間、何も考えられなくなった。嘘でしょ?もう一度、必死に打ち直して投稿するが、結果は同じだった。


 それどころか、私が今まで積み上げてきた「ハニー・ハンド・ミジュ」としての過去の投稿までもが、目の前でどんどん消えていく。止めようとしても、その勢いにはとても追いつけない。

 そして、最後の一件が消えた後、画面にはこう表示された。


『このアカウントは削除されています』


 嘘だ、嘘だ、嘘だ!あんなにいたフォロワーが、私の聖域が、全部消された?


 すぐにグループチャットを起動しようとしたけど、そこも既に解散させられていた。私を「女王」として支えていた五〇人以上のネットワークが、一瞬で、跡形もなく消滅した。


 アカウントの……乗っ取り?


 ……その時、思い出した。六月に私が炎上した時、A・Hは言った。

「何でもしたよ」って。

 あの時、彼女が他人の中傷コメントを消し去ったみたいに、

 今度は……私が消されている?

 あいつと同じ顔をしたあの偽物も、同じことができるっていうの?


「け、警察、警察に……」私は恐怖でガタガタ震え、やっと警察に電話をかけれた。わらにもすがる思いだった。


「……はい、警察です。どうされましたか?」

 電話に出たのは、落ち着いた声の女性だった。私は泣きそうになりながら叫んだ。


「SNSのアカウントを乗っ取られました……!私の全部が消されて……犯人もわかってます……助けてください!」

「SNS?お名前を伺ってもよろしいですか?」

「水谷瑞希です……」


「ああ、あの有名な!『ハニー・ハンド・ミジュ』の方ですよね!拝見してましたよ!え?削除されちゃったんですか?」

「はい……」

「わかりました!すぐ調べますね!」


 電話の向こうでキーボードをカチャカチャ叩く音が聞こえる。

「確かに、もう削除されてますね。でもご安心ください!水谷瑞希さん、あなた、もう一つアカウント、ございますよね?」

「え?」


「ダーク・プロンジョン・シューター。そっちは残ってますよ!」


 一瞬、背筋が凍った。……ちょっと待って。私はあのアカウントで本名を名乗ったことは一度もない。


 A・Hに教わった通り、正体は徹底的に隠してきたはずなのに。なんで、名前を言っただけで私があのアカウントの主だとわかるの?


「……え、なんで……?」

 私が絶句すると、受話器の向こうで女性がこらえきれない様に笑い始めた。


「ククク……あはははは!本当にパニクってんだね。普通わかるでしょ!」

 その声は、聞き覚えのある、吐き気がするほど溌剌はつらつとした声に変わった。


「私だよ!私!アンタみたいなショボいフォロワー数のSNSなんて警察が覚えてるワケないじゃん!」


 アイツだった。

「警察に電話しても無駄だって。……それよりさ、約束、どうなったのかな〜?」

 アイツは、あの時の様に、ヘラヘラと笑いながら電話を切った。


 私を支える、決定的な最後の糸が途切れた。


 全部消えた。フォロワーも、プライドも、私の存在そのものも。私はアイツに「透明」にされてしまったんだ。私が友香にしたように……。

 結局……『弱い子』は、私だった。


十月十二日

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない


十月十四日

 結局、あいつには勝てなかった。ネットに情報を流しても、おそらく出所でどころを知られて、その瞬間に全部削除されるんだ。電話もきっと、一緒なのだろう……。


 私には何も無くなった。でも一つ気付いた。世界には流せなくても、たった一人にだけ届けばいい事に。あのドッジボールの試合前、あいつは傲慢な顔でこう言った。


「友香がいる時の私は百倍強いよ」って……。

 言い換えれば、「友香が離れれば、あいつの力は百分の一になる」という事だ。


 私一人ではあいつを消せなかった。でも、あいつが一番大切にしてるものに、この真実が届けば、私でもあいつに一矢いっし報いることができる。

 そう思うとおかしくなった。笑った、笑って、笑いすぎて、本当におかしくなった。


 最後に、このA・Hがくれたこの黒いスマホに、私のこれまでの日記を全部コピーした。一月にA・Hと出会ってから、そして「アップデート」の真実まで。


 このスマホは他のよりもセキュリティが格段に強いらしい。さらにネットにさえ繋がなければ、あいつの監視の目は届かない。この情報は守られる。


 これは私の呪いだ。あいつが、私の居場所を奪ったように、今度は私があいつの「唯一の光」を奪ってやる。


 この情報をあんたに託すよ。友香。あんたがこれを読んだ時、あんたの隣にいる「雨宮玲あまみやれい」の顔がどう見えるか、楽しみで仕方ない。

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