第三十四話 悪霊の目的
友香が車両の中央付近のドアから中へと入る。玲はその動きを見届けると、友香がいる隣の車両で、彼女の姿がギリギリ視界に入る位置へと司を促した。
「とりあえず、ここに座ろう。ここなら友香を見やすいでしょ?」
「そうだな……」
玲と司はロングシートに横並びに座り、遠くにいる友香の姿をじっと観察していた。
ガタン、ゴトンと規則的な振動が体全体に伝わる。そしてそのまま四十分程が過ぎた。何駅か通過したが、友香が下りる気配は無い。
最初は緊張感で張り詰めていた玲と司だったが、代わり映えしない状況に少しずつ気が緩んできていた。窓の外を流れる景色を眺めながら、玲がぽつりと口を開く。
「公園では、見苦しいところ見せちゃったね」
司は少し気まずそうに視線を泳がせ、後頭部を掻いた。
「いや……、まあ、ちょっとはビックリしたけど……」
沈黙がしばらく続いた後、玲は意を決したように司の方を向いた。
「あのさ、悪霊に取り憑かれた人ってさ。最終的にどうなっちゃうの?」
司は腕を組み、窓に映る自分の顔と遠くの友香を交互に見つめながら答えた。
「そこまでたくさんデータがあるわけじゃないけど、もしも順位をつけるとしたら、第二位はその人の『死』だな。
強力な残滓を常に浴び続けると、人の体は耐えられなくなるし、不運の度合いも急速に上がるから、不慮の事故とかの確率も高くなる」
玲の瞳に、動揺の色が濃くなる。
「瑞希……恨んでるなら、私に取り憑けばいいのに。なんで友香なの?」
「まだ瑞希って確定してるわけじゃないけど……まあ、恨みの晴らし方にも色々あってさ。恨んでいる本人の大事な人を傷つけるっていうパターンもあるんだ……」
司が申し訳なさそうに答える。
「あと、第一位と言っていいくらい多いのが『その人の心や体が乗っ取られる』事。
この場合は、取り憑かれた本人が、その人らしくない言動や行動を取るようになる。それが第一段階。
割とわかりやすいだろ?ただ、どう対処していいかわからない人がほとんどだし、まさか霊の仕業とは思わないから、結果的に放っておく形になる。
そうなると症状が、だんだんエスカレートしてくるんだ」
「今の友香に、似てるね……」
玲は遠くの友香を見つめたまま、司の言葉を噛み締めるように呟いた。
「乗っ取りの第二段階は、意味不明な言葉を話し出すこと。
おそらく霊界での言葉なんだろうけど、生きている人間は理解できないし、理解しちゃいけない言葉らしい。
そこら辺は、俺もよく分からないけどな。そして第三段階で……完成!」
「乗っ取り完了って事?」
「ああ、そうなるとプロの祈祷師でもやっかいなんだよ。下世話な話だけど金もかかってくる。十万や百万じゃきかないくらいにな……」
玲はしばらく考え込み、それから核心に触れる質問を投げかけた。
「……まだ五時間経ってないから、わかる範囲で良いんだけど、友香は悪霊に取り憑かれてる?」
司は目を閉じ、集中するように呼吸を整えた。
「うーん……。今で一時間半くらいか?まだ、すごく弱めの霊視をしてる段階だから、全体像はもう少ししないと分からない。そこは理解してくれ」
「うん」
司は一度言葉を切ると、少し困惑したような表情を浮かべて推論を口にした。
「誤解を恐れず言うなら……今のところ、友香ちゃんからは何も感じないんだ」




