↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/66

第三十二話 あかり

 そこは、街の境界線に張り付くように作られた、敷地の広い、自然のままの公園だった。

 玲と司も、友香に続き中に入っていく。中央にある芝生広場とは対照的に、順路の外側はほとんど原生林に近い。


「けっこう木が多いから、距離空いたら見失っちゃうかもな……」

「そうだね、注意していこう」

 しばらくすると、友香は古びたベンチに力なく腰を下ろした。そして、スマートフォンを取り出し、耳に当てた。その後、周囲を一度だけ、ひどく怯えた様子で見渡した。


「誰かと電話してる?」

「そうかも……」

「最近、友香ちゃんってまた孤立してるんだろ?」

「うん……私にも……心を開いてくれなくなった……」

 玲が寂しげに語る。そして友香の表情もまた、遠目からでも悲壮感にあふれてるのがわかる。

 一体誰と話してるのだろう?


「私、ちょっと近くまで行ってくる。司くんはここで霊視してて。」

「え?ちょっと!雨宮さん!バレるって!」


 つかさの制止も聞かず、玲は腰をかがめて原生林の並ぶ、道なき道を極力きょくりょく音を立てずに進む。そしてベンチの後ろから二メートルほどまで近くに寄ると、友香のか細い声がかろうじて聞こえてきた。


「うん……うん……でも、私はもう……自分が自分じゃなくなる様な気がしてる……。私のせいで人が傷ついていく。ううん、私はどうなってもいい。でも、もうこれ以上、友達を巻き込みたくないの」


 友達を巻き込みたくない。

 玲が今言った友香の言葉を反芻はんすうする。

 ——やっぱり友香は友香だった。あんな態度を取っているのはやはり理由があって、それはきっと私達のためだった。


 どこか安堵あんどする気持ちが生まれ、玲は声を上げて泣きそうになるのを我慢する。おそらく瑞希の残滓ざんしむしばまれてる事を自覚してるのかも知れない……。


「うん、あなたの言う通りにする。

 だから、せめて……

 私の…願いを聞いて欲しい。

 あかり……」


 友香の口から最も衝撃的な名前が発せられた。玲はあかりを探したが、身近にいなかった。向こうで見ている司の近くにもいない。


 やがて友香はベンチから立ちあがり、その場を立ち去っていった。その後、しばらくして司がじっとしている玲を不審に思い近寄ってきたが、それでも玲は動かず、うずくまっていた。


「ちょ、雨宮さん、どうしたんだ?友香ちゃん、見失っちゃうぞ!早く行こう!」

 司の横で、あかりが心配そうな目をしている。


「あかり、今……どこにいた?」

 玲はあかりをにらみ付けた。

「ずっとここにいたよ」

 あかりが無表情に答える。

「嘘……いなかったよ!」

「ずっとここにいたよ」

 あかりが繰り返す。


「雨宮……さん?どうした?」

 司が心配の声を掛ける。


「今、友香は、スマホであかりと話してた!そして、これ以上、友達を巻き込みたくないって言ってた……」

「何の事だかわからないな……」

「友香、あかりに『私の願いを聞いて』って懇願こんがんしてた!」

「何の事だかわからないな……」

「あかり!友香に何をさせようとしてるの?」


「何の事だかわからないな」


 同じ言葉なのに、いつも無機質に近い返答をするのに、

最後だけはどこか感情がこもってる様に玲には感じた。

 そして、あかりはそっと立ち去ってしまった。


「あかりっ!!!!」

挿絵(By みてみん)

「雨宮さん!声大きいって!友香ちゃんに気付かれるって!」

 司は両手を前に出し、何とか玲をなだめようと必死だ。


 ハッと我にかえった様子で、司を見返す。

「ごめん……。そう……そうだよね、友香を追おうか……」

 玲は、乱れた髪を両手で整えると、何事もなかったかのようにすっと表情を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。