第三十一話 ポッピンと幽霊
二十メートルほど前を、友香が歩いている。交差点で信号が変わり、橋を通る。次いで玲達も間隔を保ったまま渡る。そして、スーパーの前を過ぎて、川沿いの道に入った。
司はずっと真っ直ぐに友香を見つめている。玲もまた友香を見守るような眼差しで無言を貫いている。その沈黙に耐えきれなくなったのか、あかりが口を開いた。
「あの、灰島くんは、霊ってどんな風に見えるの?」
司は答えなかった。友香の背中を凝視し続けている。三人の間を川の水音だけが流れている。
「司くん、霊はどんな風に見えるか聞いてるんだけど……」
玲があかりの問いをもう一度なぞった。すると司はハッとした表情で
「あ、ああ、悪りぃ。集中しすぎて気付かなかった。」
そう言いつつも、司は友香から目を離さず話しはじめた。
「ええと、霊がどう見えるか、だっけ?そうだな。見えるっつーか、空気が歪む感じだな。テレビの砂嵐みたいな。そこだけ世界がノイズってる」
「ノイズ?」
「そう。触れてもいないのに、そこの空間だけ解像度が落ちてる感じ。一応、姿・形とか、最初はそこまでくっきりではないから『いるな』くらいしかわからなかったけど、慣れたらだんだん分かるようになった」
「ポッピンが前に、落ち武者の霊とか髪の長い女の霊の事を言ってたけど……」
「ポッピンって田中の事?」
玲が頷くと、司はバツの悪そうな顔を見せた。
「あ~、あれな!中学二年の遠足の時だったかな?アイツと同じグループで行動しててさ。どこかのお寺の前を通ったんだよ。
そしたらボロボロの甲冑を着た霊がやたら田中の近くで刀振り回してブツブツ言っててさ。もちろん田中は霊感ないから知らんぷりだよ。で、俺、見かねてその霊に『あとで成仏させてやるからこっち来い』って言ったんだよ」
司が続ける。
「そんで取り憑かれた時、まだ体が慣れてなかったせいか変な声出しちゃったんだよな。『ワホーン!』みたいな……。そしたら田中が振り向いて『どうしたの?』って聞いてきてさ。
その時、バカ正直に言っちゃったんだよ。『落ち武者の霊がいたけど気にするな』って……。そしたら田中さ、『キモ!』って言って行っちゃった……」
そこまで聞いて、玲がクスリと笑った。
「助けたのにブロックされたの?」
「ブロックされたのは、二、三ヶ月前の髪の長い女の霊の時だな。あの時もありのまま言っちゃったからな。いや~本当に怒られて、挙げ句の果てにブロックされて、かなりヘコんだよ……」
「黙ってればわからないのに。何で言っちゃうかな~?」
呆れた様に玲が言うと、司はしばらくウーンと考えながら、
「確かに、俺、学習しねーよな……でも、なんて言うか、アイツにだけは嘘をつきたくないと言うか……そういう気持ちがあるっぽい、よくわからんけど……」
「そっか、だからあの時……」
「え、何?」
玲は、司が廊下で大声で田中を呼び止めた時の事を思い出していた。
「いや、いいの。忘れて……」
そして、記憶を水に流した。司は不思議そうな顔をしていたが、話を続ける。
「でもさアイツ、霊感無いくせにやたら霊を呼び寄せる体質なんだよな。学校でもたまに見かけると何体か引き連れててさ。まあほとんどは俺でも対処できるチョイ悪くらいの霊だけどな。だから今でもこっそり持ち帰って成仏させてたりする」
「へえ~、じゃあ、今度恩知らずのポッピンに言っとくよ」
「それはやめてくれ!アイツに借りを作ったって思わせたくないから」
「……優しいんだね」
「い、いや~、そんなことないよ。それにアイツの場合は言っても気味悪がるだけだし……」
「確かに!」
玲と司が笑い合ったその時だった。
「あ、ちょっと待って。友香が……」
司を制し、友香の様子をじっと窺う。すると友香は公園の中へと入っていった。




