第二十九話 今度の日曜日
「ちょっと途中ややこしくなったけど、つまり悪い影響のある霊的なものを『残滓』。それをまき散らすのが『悪霊』。で、人に良い影響のある霊的なものが『遺光』って事でOK?」
「ああ、その通り」
佐藤の鮮やかな要約に、司は「話が早くて助かる」と小さく笑った。
「で、なんで学校だと大丈夫なの?」
「『残滓』と『遺光』は相殺されるんだ。
基本マイナスとプラスの関係だ。
友香ちゃんに取り憑いてる霊がもし残滓を撒き散らしても、通常は他の人に取り憑いている霊の遺光がそれを消滅させる。
それでプラマイゼロになるんだ。死に方にもよるんだけど、日本だと穏やかに亡くなる人が割と多いから、遺光を放ってる霊もけっこういる。
そういった霊は『善霊』とか『守護霊』って呼ばれたりする。まあ守護霊は家族・親族の場合が多いけどな。
数的にはそっち側の方が多いから、一人悪霊が憑いてても教室だとほとんどの場合は影響無い。」
「なるほど、学校だと『善霊』もたくさんいるから、その物量で悪霊の残滓を打ち消せるって事ね?」
「そういう事だ!」
「生ゴミと香水は混ざると最悪だけどな」
「それは……俺の例えが悪かったよ……、でもちゃんと『残滓』と『遺光』は打ち消されるから……」
「あ、でもよ!それだと何で友香は変な行動したり、雨宮を突き落とそうとしたんだ?残滓は学校だと打ち消されるんだろ?」
司が痛いところを突かれた、と言う様な表情をした。
「まあ、ほとんどの場合って言ったのはそこなんだよな。学校でもあまり人通りのいない場所とか時間帯だと残滓の影響が強く出る場合もあったりするんだ……」
玲が当時の状況を思い出した。
「友香が私を突き落とそうとしたのは、放課後の西階段だった……」
「だろ?他にもさ、人が多い教室の様な場所でも、残滓の強さによっては遺光の方が打ち消される事も稀にあったりする……
もしもさ……学校全体の『善霊の遺光』を全部合わせてもお釣りがくるくらい、その水谷瑞希って子の恨みが強烈すぎるとしたら……?」
そう言って、司は一呼吸置く。
「それは、何十人もの遺光を一人でねじ伏せて、友香ちゃんを教室でも狂わせるレベルの『特級の生ゴミ』を置いていってるって事だから……。
まあ、その時は正直、俺の手に負えるレベルを超えてくるかもな……」
「悪霊の……『女王』……?」
四人はしばらく沈黙する。もしも瑞希が、そんな最凶レベルの悪霊になっていたら、その時はもう、どうしようもないのかも知れない。
そうなると……友香は?
玲達、三人の脳裏に同じ疑問が浮かんだが、誰も口に出さなかった。
やがて空気を察したのか、司が取り繕うように言った。
「ま、まあ、それはあくまでも最悪な事態の場合な!いくら悪霊っつっても、そんなの滅多にある事じゃないし。
残滓が強力でも学校に人さえいれば、そんなに連発してポンポン遺光を消せるもんでもない。
話を聞いてる限りは、確かに友香ちゃんが悪霊に取り憑かれてる可能性はあるとは思う。
でも、とりあえず俺が直接霊視してみない事には何とも言えないってのが現状」
「あ、そうだよね……まだ肝心の問題が解決してないよね?友香の霊視をいつ、どこで行うのか?って事!」
佐藤が言うと、司と田中がそれぞれ腕を組み、うーんと天を仰いだ。
「例えばさ、休みの日とか友香ちゃんが一日中、外に出てる時ないか?それが分かれば、遠くから霊視できるかも知れないけど……」
司の問いに、今度は佐藤が腕を組んだ。
「うーん……友香のプライベートはあんまり知らないしなあ……。それに病み上がりだし休みは家で寝てるんじゃないの?」
「今度の日曜日……」
佐藤の言葉に被せるように玲が呟く。
「ん?どうした?雨宮」
「今度の日曜日!友香、朝からどこかに行く!」
玲が大きな声を出した。
「雨宮、友香から聞いてるのか?で、どこにいくんだよ」
「ううん、聞いてはないし、どこに行くかも知らない。けど、友香の入院中、卓上カレンダーを今月に変えた時に、その日を赤い丸で囲んでた!」
「本当に?病院のカレンダーとかじゃなく?」
「あれは友香の私物だと思う。前に友香の部屋で見たことあったし。」
「で、その日が今度の日曜日?」
「うん!」
「よし!決まりだな!じゃあ、その日みんなで、って……。え?今度の日曜?」
田中の表情が強張り、スマホを取り出し何かを確認する。
「うっわ!その日、今年最後の試合がある!!!」
「あ、ダメだ……私もその日、どうしても空けられない用事がある……」
佐藤も田中も頭を抱えている。しかし、しばらくして田中が開き直った態度を見せた。
「まあ、しゃーねーか……。その日は雨宮と司で友香を尾行して霊視するんだ」
「え?俺が雨宮……さんと?ええっ!田中来ねーの?」
「私は試合だっつったろ……。お前、どうせヒマだろ?」
「ちょ、言い方!まあ……ヒマだけど。でも女性と二人きりだと緊張するって言うか……」
「何だよ!幽霊といるよか全然いいだろ!それに心配すんなって!お前は雨宮のタイプじゃねーから!」
「さらに言い方ヒドくね……?」
玲はそんな色恋トークを気にする事も無く司に視線を合わせる。
「じゃあ、その日よろしくね!司くん」
「あ、ひゃい!」
司の口が、いつになくもつれた。




