第二十七話 それしか覚えてない……
田中、玲、佐藤の三人は二年七組の教室に向かっていた。五組から七組までの教室は、渡り廊下を挟んでいる。ましてや七組はさらに一番奥。玲はここに来る事は初めてだった。
「でもさ、私、こっちにもけっこう知り合い多いけど、そんな霊感強い人なんてこれまで聞いた事無いよ……」
佐藤が、どこか面白くなさそうに呟いた。自称「学校の情報通」として、自分のアンテナからこぼれた情報を田中が握っていることに、小さな嫉妬心を覚えているようだった。
「まあ、そりゃ自分から『幽霊見えます!』なんて言いふらすやつ、あんまりいないんじゃね?」
田中は前を向いたまま、あっけらかんと言い放つ。玲は黙って二人の後を付いていく。
ようやく辿り着いた七組の教室。田中は入り口にいた女子生徒を呼び止めた。
「美愛羅!司いる?」
「あれ、マリリンじゃん。灰島?あれ~?さっきまでいたんだけど、トイレかな?一応、学校には来てるよ」
「そっか、サンキュ!」
美愛羅と呼ばれた生徒は、気だるそうに自分の席に戻ってスマホを見始める。
「しょーがねーな、少し待つか」
田中が腕を組んで壁にもたれかかると、玲と佐藤も横に並んだ。しばらくして、「お!田中じゃん」と気の抜けた声が聞こえてきた。廊下の向こうから、どこか浮世離れした雰囲気を持つ男子生徒、灰島司が歩いて来るのが見えた。
「あ、司!どこ行ってたんだよ、ウンコか!」
田中のデリカシーのない叫びに、司は顔を赤らめる。
「なっ、ばっ、違げーよ!ちょっと、あの、その、用事だよ!」
ムキになって否定する灰島の様子に、佐藤は「あれがそう?」と言う確認の眼差しを田中に向ける。田中が小さく頷く。
「まあいいや。あのさ、ちょっとお前に頼みがあるんだけど」
田中の言葉を引き継ぐように、玲が一歩前に出た。
「……友香を見てほしいの」
玲の射抜くような視線に、司は一瞬たじろぎ、次いで興味深そうに目を見開いた。
「あ、あんた雨宮玲……さん?おお、有名人じゃん!」
司は玲をまじまじと見つめ、さらに後ろの佐藤にも視線を向ける。
「お、あんたも見た事ある!そうか!あのドッジボールチームの……」
「そんな話はどうでも良いんだよ、あのな……」
田中が本題に入ろうとした瞬間、予鈴のチャイムが無情に響き渡った。
「あーあ、ったく。お前が遅いから時間食っちまったじゃねーか。なあおい!昼休み、メシ食ったら屋上に来いよ。そこで話しよーぜ!」
田中がまくしたてると、司は気圧される様に首を縦に振った。
「……ああ、わかったよ」
玲達が教室に戻ろうと、急いで走り出した時だった。
「田中!」
背後から司の呼び止める声がした。三人が振り返ると、司が真剣な顔で立っていた。
「悪りぃ、さっきちょっとカッコつけてた。実は……マジでウンコしてた」
「聞いてねーわ!!」
田中の怒鳴り声が廊下に反響する。
そして、聞かなきゃ良かったとばかりに走る速度を早めた。
教室への帰り際、田中が玲に顔を向けた。
「どうだ?雨宮!あいつなら何かわかるもしんねーだろ?」
「どうって言われても……」
玲は困惑したように言葉を濁した。
佐藤も呆れたようにため息をつく。
「正直、ウンコしか覚えてないんだけど……」
そして三人は二組の教室へと滑り込んだ。




