第二十六話 知り合いの霊能力者?
次の日、友香は学校を欠席した。教室の空気は、昨日のいざこざをまだ引きずっているかの様に気だるく、どこか淀んでいる様に思えた。
二時間目の休み時間、田中と佐藤、そして玲の三人が教室で顔を突き合わせていた。
「……やっぱさ、ちょっと友香、おかしくなってね?」
田中が周囲を気にするように、声を潜めて切り出した。
「確かに、昨日の見てたら、ちょっと否定はできないかも……」
佐藤も、慎重に言葉を選びながら同意する。
「まだ、病み上がりだから。精神的に不安定なだけだと……思う……」
玲は、友香を庇うように言ったが、いつもに比べ、語尾に力が無い。
「病み上がりで済むレベルかよ!お前、昨日友香に階段から突き落とされかけただろ!」
「ええっ、本当? 雨宮、それ初耳なんだけど……」
佐藤が息を呑んだ。あれほど瑞希や湯沢を論理的に追い詰め、饒舌に友香を守ってきた玲だったが、田中の指摘には一言も返すことができなかった。
両手を突き出し、真後ろに立っていた友香。そして「私、何を……?」という困惑の表情を浮かべたあの時の友香が、玲の脳内を激しく掻き乱す。
「でもなあ、友香が雨宮を襲う理由なんて、全然思い当たらんよなあ」
田中が腕を組み、不可解そうに首を振った。
「そうだよね。あの事故の後だって、ずっと雨宮、友香の事を心配して献身的に付き添ってたし。あれは誰にでもできることじゃないよ。……友香への愛だよ、愛!」
「となると……、結論としては、友香ってやっぱ何かに取り憑かれてるんじゃね? って事になるよな……」
「え、ちょっとやだ!急にオカルトやめてよ……」
顔を引きつらせる佐藤。
玲は田中の言葉に少し考えを巡らせた後、口を開く。
「例えば……その何かって瑞希だったり、する?」
玲はドッジボール大会で瑞希が自分に向けた、殺意むき出しの表情を思い返していた。
田中は目を瞑り、大きくウーンと悩むポーズを見せる。
「あまり亡くなったヤツをどうこう言いたくないけど……例えばな、あの衝突の時に何か瑞希の心残り?とか霊体とか怨念?みたいなものが友香に乗り移っちゃったりとか……?」
「え……?あんた、それ本気で言ってるの?」
「だから、例えばの話って言ってるだろ……!」
玲はじっと考える。瑞希がビルから飛び降り、友香がそれを受け止めたあの日。二人の体が衝突した、あの瞬間に《《何か》》が友香の中に入った?
しかし……、そんなこと実際にありえるのだろうか?
いろいろ思考を広げてる間に、佐藤が口を挟んだ。
「まあ、今の友香を見てるとちょっとありえるかも?ってなっちゃうけどさ。でも正直、幽霊なんているわけないじゃん……?」
「いや、幽霊はいるぜ!」
田中が自信満々に答える。
「え?あんた幽霊見たことあるの?」
「いや、一度もない」
「なら、霊感があるとか?」
「いや、全くない」
「じゃあ何でわかるのよ!」
佐藤のツッコミにも田中は動じず、前のめりに語り出した。
「知り合いにさ、霊感がめちゃくちゃ強いヤツがいてな。そいつとは昔から仲良かったんだけど、実際にハッキリ見えるみたいなんだよ。
だから、なんか事あるごとに霊的な事を言ってきてさ。
『お前の後ろで血を流してる落ち武者の霊、ずっと耳元でお前に文句垂れてるけど、気にしなくていいからな』とか、
『目玉をギョロギョロさせた髪の長い女の霊がお前に何か怒ってるけど、気にしなくていいからな』だとかさ……。
気にするわっ!不気味すぎてそれ以来、ブロックして一切会ってない」
「全っ然、仲良くないじゃん!て言うか、あんた幽霊に何したのよ!」
「知るかよ!でも身近なヤツがそんな事言ってたら、やっぱ信じるだろ?」
「まあねえ……確かにいるかも?ってなるけど……」
「だろ?」
田中はそう言って、しばらくした後「あ!」と何か思い付いた様に手を叩いた。
「そうだ!雨宮!そいつに見てもらえばいいんじゃないか?」
「見てもらう?何を?」
田中はピンと来てない玲に、ため息をつく。
「友香に決まってんだろ!そいつに頼めば、友香が今どんな状態なのかわかるだろ?」
田中の提案に、玲はやや怪訝な顔を浮かべる。
「でもポッピン、その人のSNS……ブロックしてるんでしょ?解除するの?」
「しないよ」
「え?あ~、電話するのか」
「番号知らないよ」
「え?じゃあ、どうやって連絡取るの?」
玲も佐藤もよくわからず、ただ田中を見つめるばかりだった。
「だからさ、直接頼みにいくんだよ。お、まだ時間あるな。今から行こうぜ!お前らも付いて来いよ!」
「あ、この学校の人なの?」
「そうだよ」
そう言って田中がそそくさと教室を出ると、玲と佐藤も顔を見合わせ、慌てて後を追った。




