第十二話 鼓舞&反撃
「やっぱ強えーな……」
田中が、ボソっと呟いた。しかし、その瞳に宿る光は被弾程度では消えていなかった。彼女はすぐに立ち上がり、外野へと走り出す。そして残った玲、友香、佐藤の三人に向けて、吠えるように声を張り上げた。
「いいか! 外野からサポートしてやるから、どんどんボール回してこい! 絶対勝つからな! 気合い入れていけよ!!」
その暴走に近い熱量と、田中なりの不器用な鼓舞に、玲がニヤリと口角を上げた。
「ナイスガッツ、ポッピン!」
「……頼りにしてるよ、ポッピン!」
玲に続いて、佐藤も汗を拭いながら、その「禁断の呼び名」に乗っかった。田中が文句を言いかけたその時、友香が小さく両手を握り、前に出した。
「一緒に頑張ろう!ポッピンさん!」
「なんで汐見まで言ってんだよ!!!」
そう言って田中はヘッと笑った。友香もニコリと微笑みを返した。
もはや定番となったこのやり取りが、張り詰めていたチームの緊張を氷解させ、同志としての連帯感をさらに結束させていった。
ギャラリーに飛んで行ったボールは、観客席の誰かがコートに投げ返した。それを審判が拾い、敵チームの外野へと手渡す。そして再び鋭いホイッスルが鳴り、試合が再開された。
猛攻は止まず、ボールは内野に残った玲たち三人の周囲を弾丸のように飛び交う。
「……っ、今は我慢だよ! 雨宮が近くにいるからあいつらも無理には投げてこない。だから、取ろうとしなくていい、とにかく当たらないことだけ考えて!」
「うん」
佐藤のかけ声に友香が応答する。
敵の外野が、内野中央にいる瑞希へ向けて高い弧を描くパスを放った。
瑞希がキャッチの体勢に入る。だが、その頭上を、大きな黒い影が切り裂いた。
「——させないよ」
待っていたほんの一瞬の隙。玲だった。一回戦で友香を救った時に見せた華麗な跳躍。あの時よりもだいぶ高い。玲は空中でボールをひったくるようにキャッチすると、右腕をしならせ、思いっきり力を込める。ターゲットは、目の前の瑞希本人。着地の衝撃を、そのまま玲の持つ最大限の投球エネルギーに上乗せさせる。
本能に近い反射神経で、これはつかめないと判断した瑞希は、バレーの回転レシーブのような格好で横へと飛び退いた。
ドゴォッ!
ボールはギリギリ瑞希には当たらず、後ろにいたハンドボール部員にぶち当たる。
「アウトォッ!」
審判の絶叫が体育館に響き渡り、これで内野の人数はお互いに三名ずつ。最強を誇ったハンドボール部チームから、全試合を通して初めての脱落者が出た。その事実に、ギャラリーのボルテージは最高潮に達した。




