第十一話 返り討ち
体育館の熱気は最高潮に達していた。ギャラリーでは数え切れないほどのスマホが掲げられ、そのレンズが「最強」のハンドボール部チームと、玲率いる「寄せ集めチーム」の激突を今か今かと待ち構えている。
ようやく審判のホイッスルとともに試合が始まった。ボールは水谷瑞希たち「最強チーム」。
彼女たちはハンドボール部仕込みの鋭いパス回しで、開始早々からコート内を制圧しにかかる。しかし、これまでの対戦相手とは明らかに様子が違っていた。
瑞希たちは、寄せ集めチーム一番の弱点であるはずの友香をすぐには攻めてこない。それどころか、あえて友香の視界を掠めるような位置に剛速球を通し、恐怖を煽るように内野をかき乱している。
シュパッ! と空気を切り裂く音が響く。
瑞希の放った一撃は、玲ですら反応が遅れるほどの速度で佐藤の横を通り抜け、そのまま背後の外野へと素通りした。
「ひっ、マジか!」
佐藤が短い悲鳴を上げる。最強チームの一人一人が放つ弾丸のような投球は、即席チームの面々には到底キャッチできるものではなかった。ボールは玲たち内野を通過し、外野の味方へと渡る。そこから再び内野へと、逃げ場を許さない猛烈な「パスの檻」が形成されていく。
「何だよ、こんなの……取れるわけねーよ!」
田中が焦りを剥き出しにして叫ぶ。瑞希たちの狙いは、友香をすぐに仕留めることではない。玲が作り上げた「友香を囮にする戦術」を嘲笑うかのように、周囲から一人ずつ、確実に、そして無慈悲に削り取っていく。それが彼女たちの戦略だった。
再び放たれたシュートが、田中を襲う。
「くっそ!舐めやがって!」 田中は転がるようにして、どうにかそのボールを胸元に抱え込んだ。奇跡的なキャッチにギャラリーからどよめきが上がる。
「よし!ポッピン! そのまま行っちゃえ!!」
声を掛けたのは玲ではなく佐藤だった、田中の顔がいつもの様に真っ赤に染まる。
「お前はマリリンって呼べやあああ!!」
田中は渾身の力でボールを振り抜いた。しかし、その必死の一投は、瑞希によってあっさりと、真綿を包む様に掴まれてしまった。
「……あ」
田中の顔から血の気が引く。瑞希のキャッチから投球への移行は、流れるようにスムーズだった。
ドゴォッ!
間髪入れずに放たれたカウンターが、投球体勢から戻りきっていない田中の肩を、真っ向から射抜いた。
ボールは二階のギャラリーの向こうまで跳ね返っていった。
「アウトォッ!」
審判の声が響く。この試合で、寄せ集めチームから久々の脱落者が出た。田中は膝をつき、呆然と瑞希たちを見上げる。瑞希の唇の端には、玲から受けた屈辱を晴らすような、歪な笑みが浮かんでいた。




