97.妹大好き(上)
一話にするつもりが収まらないので前後編に分けました。
警視総監が直々に頭をさげに来た、ついでに淡路島さんを俺の専属から外さない様にと言っておいた。
一緒に怖い思いをした仲だ、これが吊り橋効果と言う奴か?
次に病室にやって来たのはあの女だった。
「カイト様、大変な目に遭われた様で、ご無事で何よりです」
「あんた清瀬だったよね」
「あら、わたしの名前を覚えていてくれたのですか、嬉しい限りです」
「確か厚生労働省の人だよね、なんで出て来るのさ?」
「これは失礼しました、自己紹介がまだでしたね、こちら新しい名刺になります」
そう言って差し出された名刺。
「……男性庁 … 参事官 」
「以前は内務省の中に男性管理局と言う部署があったのですけどね、この度男性庁として独立する事になりました。
わたくしの様なしがない木端役人にも声がかかった次第で」
清瀬さん、確か三田さんと交渉して強引に譲歩を引き出した人だ。
俺から見れば家庭教師を紹介してくれた人だけど、何と言うか油断できない雰囲気を持っていて、心の中の警報が鳴りまくっているよ。
「あんた、男性がキライだと思っていたけど?」
「さて、どうなんでしょう。
とりあえず警察から自由になったのです、外でも歩きませんか?」
「それは構わないけど、淡路島さんも一緒だよ」
警察と一緒に居たくないとゴネた清瀬さんだけど、俺は強引に押し切って、三人で病院の庭を散歩している。
そうそう、ここは日王市の人工調整病院、俺が最初に入院した場所だったよ。
キレイに切り揃えられた植え込みの庭を歩く俺と清瀬さん、数歩後ろを淡路島さんがついて来る。
「……わたしの事を嫌っています?」
「正直に言うと信用できないよ、腹に一物ありそうで、それを隠そうともしない人に見えるけどね」
俺の明け透けな物言いに、コロコロ笑いながら。
「さすがはカイト様、人を見る目は確かですね。
叔母として誇らしいですわ」
“オバ?”どう言う事、この人が俺の親戚と言う意味なの。
「 …… 」
「カイト様の母親、清瀬亜衣化はわたしの妹ですよ。
もう高い階段を昇ってしまいましたけどね」
「 …… 」
「わたし厚労省の医政局と言う部署にいましたの、そこでは普通の人が知りえない情報も耳に入ってくるのですよ。
ついでに言うと、妹の葵咲もカイト様の本当の妹ですよ、父親の遺伝子まで一緒のね」
妹の葵咲、良く懐いているけど、本当の妹だったとは。
いや、今思うとそんな感じもあった、遊びに来た同級生やボランティア活動で葵咲と一緒になると“そっくりですねぇー”と言われたものだ。
「…… そうだとしてもおかしいよね、男性は血縁のある人と一緒に住めないんじゃなかったの?」
俺の精一杯の反撃にニッコリ微笑む清瀬。
「行政職の等級が上がると、色々と無理が通るものなんですよ。
例えば搾精検査の結果を入れ替えたりとかね」
口を隠して笑っている清瀬、心の底から嬉しそうに見えるよ。
やっぱり、俺は無精子症だからシンフォニア高校に来たのに、次から次に妊娠があっておかしいと思ったんだ。
全部この女の策略か、本物の荒川カイトはそれで自殺未遂を起こしたんだぞ、それを笑いながら話すなんて。
「あらあら、そんな怖い顔しないでくださいな。
スタリオン学園に入っていたら30前に死んでいたかもしれないのですよ、大切な甥っ子を助けてあげたんですよ。
親戚のおばさんにお礼の一つも言ってくれないのですか」
「30前に死ぬってどう言う事だよ」
「スタリオンのクズ共は女性に対する暴力を当然と言う教育を受けるのは知っていますよね……」
スタリオン学園と言うか、男性居住区では女性に対する暴力は当然と言う教育を受ける。
こちらの世界の男性、基本は勃起不全、女性に対する攻撃性が性欲の発露の様な位置づけなので、性交の為に暴力を推奨される。
俺も情報としては知っていたが、実際のスタリオン生達の暴力は筆舌に尽くしがたかった。
一人の女性を数人で抑え込んだり、部屋中を追いかけ回す、敏感な部分を刺激して悲鳴の大きさを競うゲームをしたりしているそうだ。
「……最近の流行りは親子乗りと言いまして、年端もいかない娘が見ている前で母親を強引に押し倒すのです。
娘の前で醜態を見せたくないのでしょうね、必死に抵抗するのですよ、幼い娘は泣き出すし、それが面白いらしく…」
あまりのゲスっぷりに気分が悪くなって、淡路島さんに支えられた。
「おや、カイト様、どうしました?」
「別に……ちょっとつまずいただけだよ」
「そうですか、もっとスタリオン学園のお話しをしたいのですけど、そちらの警護員のお姉さんが物凄い顔をして睨んでいますので、これくらいにしておきましょう」
警護員の淡路島さんはプイッと顔を横に向ける。
こう言う時に感情を表さない訓練をされているはずの淡路島さんですら男性に対するヘイトが溜まっている、懐古主義者やその支援者が現れるのも仕方ないよ。
「まぁ、この話を聞いて男性に否定の感情を持たない人はいませんよね」
「 …… 」
「だけどご心配なく、彼らのほとんどが30前にお亡くなりになりますので」
「それは精通の苦痛に耐えかねてと言う事ですか?」
影に徹しなければならない警護役の淡路島さんが質問をする。
「ハハッ、そんな訳ありません、奴らにとって射精は最高の快感ですよ。
暴力は推奨されますが、程度があるのですよ、多少の出血なら多めにみますけど、包帯を巻かないといけないレベルだったり、骨折させる程の暴力はいただけませんからね。
厳しく注意しますけど、それでも改善されない場合は、ちょっと変わった味の飲み物を飲んでもらいます」
「…それって…毒…」
「カイト様、わたし達は鬼じゃありませんよ、ちょっとおとなしくするお薬を飲んでもらうだけですのよ。
女体をまさぐりゲタゲタ笑っていた連中が、ボンヤリと外を眺めるだけの日々を過ごすだけになるなんて、面白いですよね」
「そんな事をしたら精液が得られません」
淡路島さんが悲痛な声をあげる。
「職務熱心な警護員さん、ご心配なく、定期的に搾精は致しております。
殿方の持ち物は役にたたないから、血圧を上げる点滴とセットでね。
ただし、大人しくさせるお薬と血圧を上げるお薬は併用禁忌なんですよ。
医政局から何度も警告をしたのですけどねぇ」
ここまで聞くと俺でも清瀬の言葉の裏が読めて来る、一定数の精液が得られれば、男なんて用無しだから、処分しているのだろう。
社会の暗部だと思っていたら、清瀬が俺の考えを補完する。
「一回の射精に精子が何億入っているかご存じでしょ、充分な量の精液をストック出来れば、いなくなっても構わないのですよ、男なんてね」
ニッコリと微笑む清瀬。
「面白いですよね、暴力を勧めておきながら、程度を越すと“もういらないよ”で送り出してしまうんですから」




