98.妹大好き(下)
厚労省から男性庁と言う組織に移った清瀬、油断ならない女だと思っていたら俺の叔母さんだった、もっとも清瀬の妹、つまり俺の母親は既に亡くなっていたのだが。
そんな清瀬叔母さんが俺にスタリオン学園の真相を話す。
やりたい放題のスタリオン生だけど、暴力が過ぎると大人しくなる薬を飲まされるのだが、健康に良くない薬らしく、緩慢な毒殺みたいな状態になるらしい。
「どうですか、カイト様、こんな話を聞かされればわたしに感謝の言葉も伝えたくなるのではないですか?」
「ああ、自殺未遂も含めてね」
「清瀬参事官、カイト様には妊娠させる力があります、スタリオン学園に戻されるのでは?」
もはや警護の任は忘れ、話に入って来る淡路島さん。
「心配性な警護員さん、大丈夫ですよ、一旦外の世界を知った男性をスタリオンに戻すなんて有り得ません。
スタリオンと言うか男性居住区にはスマホもパソコンもないのですよ……」
清瀬叔母さんが教えてくれた男性居住区の実態。
スマホどころか電子機器が一切なく、テレビすら無い生活を送っているそうだ。
車は緊急用のみ、居住区ではエンジンやモーターの付いた乗り物はNGらしい。
「……ちょっと遠出する時には自転車に乗るのですけどね、アシストもジャイロもないのですよ、裸の自転車しか無いんですよ。
もっとも男性居住区はそんなに広くないですけど」
「テレビもネットも無いなんて、娯楽はないのか?」
「さぁ~、トランプくらいはあるんじゃないんですか。
もっとも娯楽を絞るは最高の娯楽に専念させる為と。
もう一つは外の世界を知らせない為なのですよ。
WiFiもLANケーブルも無ければ外の事は知れないですよね」
「まぁ、それに関しては礼を言うよ、清瀬叔母さん。
どうせ俺の父親も死んでいるだろうから、男性居住区になんて行きたいとは思わないけどね」
「あら、カイト様、わたくしあなた様の御厳父が身罷られた、なんて一言も申しおりませんよ」
「生きているのか?」
「わたしの妹亜衣化を弄んだあの男、53KG824221は在命ですよ」
「何だよその変な数字は? 呪文か」
「ああ、我々は普段は男性をコードで呼んでいるのですよ、ちなみにカイト様は68BD022499なんですけど、大切なのは最初の二桁です。
出生年度になっているんですよ、68と53ちょうど15違いますね。
奴が14歳の時に10歳の亜衣化を嬲ったと言う意味なんです」
10歳の子がレイプされ、産まれた子が自分だと聞かされるのはいたたまれない。
だがここは冷静になろう。
「それで、俺を産んだ後は親子を引き離された訳だね」
「ええ、その通り、
「利発で明るい小学生がボロボロになって帰って来ましたよ、すっかり心を閉ざしてね。
色々手を尽くして、最後の手段が人工受精による妊娠、もしかして子供が手元にいれば心が戻ると思ったのですけどね」
「それが妹の葵咲が産まれた訳だ」
「その通りですよ、せめて取りあげられた子に近い遺伝子をと思いあの男の精子を使わせてもらいました」
「それはありがとう、これからも兄弟仲良く過ごさせてもらうよ」
「ええ、叔母としては安心ですね。
カイト様も10歳児を可愛がっている様ですからね、中学生の妹に手を出す事なんてないでしょう。
親子揃って子供を楽しんでくださいな」
「ちょっと待てよ、ヴィオラ学校はあんた達が押し付けたんだろう」
「あれはですねぇ、カイト様が一時期元気の無い時期が有ったでしょう、小さい子と仲良しすれば心の病も治るのでは? なんて思った職員が見当違いの努力をしたからなんですよ。
まったく無駄でしたけどね」
「無駄だと分かったならもうヴィオラ学校は必要ないよね」
「カイト様がお嫌ならヴィオラ学校は廃校にしますけど、あの子達がどこに送られるのかはご存知ですよね。
あっ、ちょっと待ってください写真を見た方が良いですね…」
清瀬叔母さんがスマホを差し出すと、そこには犬の様に首輪に繋がれた幼女、ウサ耳をつけたうつろな目をした子、ネコ耳の華奢な子……
「…動物ごっこが好きなんですよね、犬や猫、ウサギ、ブタに羊、人間の幼女と事に及ぶと問題だけど、動物とまぐわうなら大丈夫だとでも思っているのでしょうかねぇ」
俺も10歳の稚草ちゃんや草那ちゃんと仲良くした、人の事は言えないだろう、そう言われても仕方ない、だがこいつは違う。
何と言うか女の子を単なる道具としてしか見ていない。
「優秀な男性ですよ彼は、暴力は最低限、着床率は高いし、男性も大勢排出しております。
ただ相手が幼くないと興奮しないのですよね」
着床するまで何度も何度も欲望を叩きこまれるのだろう、うつろな目をしたウサ耳の女の子は何回地獄を味わったのだろう。
▽
言いたい事を言うだけ言ったら清瀬叔母さんは帰って行った。
「カイト君、あの、わたしがこの様な事を言うのは何ですが、例え親が誰であろうとその人の価値が変わる訳ではないと思うのです。
自分の信じた道を進んでください」
淡路島さんは俺を気遣ってくれる。
「大丈夫だよ、ちょっとビックリしたけど、何とも無いよ」
突然まっ正面から抱きつかれた、いつものシトラスの香りではなく。
懐かしい甘い香りが鼻腔を満たし、女性の柔らかさが優しく俺を守る。
性的な抱擁ではなく、母性に動かされた慈母の様な抱きしめは、遺伝子の功罪で暴れまわる感情のジェットコースターを鎮めくれる。
俺の母さん亜衣化さんはこうやって子供を抱き締めたかっただろうし。
俺も抱きしめて欲しかった。
新川カイトの母親は記憶に残っていない、荒川カイトの母親は、子供を産んですぐに引き離された。
俺は母さんが欲しかったんだ。
抱擁は突然終わりを迎え、母さんは空に帰って行く。
「さぁ、カイト君、葵咲さんが迎えに来ているはずですよ。
帰ったら万世橋さんとの打ち合わせもありますし、写真集は出版社さんとリスケですね。
そうそう、警察の特番は警視総監からお墨付きをもらったそうですよ……」
そう言うと淡路島さんは俺の斜め後ろと言う定位置に下がる。
両手を振りながら駆けて来る葵咲。
数日間に色々な事が起きたが、再び当たり前の日常の繰り返しだ。
今なら当たり前の有り難さが分かるよ。
俺は泣きじゃくる妹を優しく抱きしめた。
ここでカイト君の話は一旦区切りです(また出てきますけど)
次からは別キャラのお話しです。




