96.贅沢な口
警護員にご褒美です。
「この臭いメスブタが」
俺は淡路島さんを口汚くののしる、警護員のお姉さんはトロンとしたアヘ顔になっている。
「 … 嬉しいです、わたしみたいな醜いブタに、過ぎた言葉ですぅぅ 」
分かってはいるけど、何回やってもこれは慣れない、けど今はそんな事を言っていられない。
「オラ、臭いブタ、鼻の穴を見せろよ」
俺は淡路島さんの形の良い鼻をひっくり返し、ブタ鼻にする“ごめんよ翠さん”
フガフガと情けない音をたてる護衛のお姉さん、俺の耳元で囁く。
“警視総監が来ます、捜査は大詰めでしょう、それとわたし、もうしばらくはカイト君の横にいます”
警視総監って警察の一番偉い人だよね、想像以上に大きな事件になったのかな?
ニュースと言うか外の世界と接触を断たれ、取り調べの日々。
「汚いブタが、俺様の指が鼻水で汚れたぞ」
マゾの淡路島さんはひざまずいて俺の指を舐めさせてくださいと、おねだりポーズ。
人をイジメるのって、イジメる側の心も削られるのだよ、早く止めたいけど、まだ全部は聞いていない。
「このブタ女、俺様の指を舐めるつもりか?」
コクッ、コクッ、コクッとオモチャみたいに頭を上下する男性警護のお姉さん。
「甘いんだよー」
俺は淡路島さんの頭を掴んでこちらに寄せる、ふんわりとシトラスの香りが漂うけど、柑橘は意外にしたたか。
“カイト君が懐古主義者の思想に染まっていないか観察する様に指示されました。
わたしをたくさんイジメれば思想汚染の嫌疑は晴れます、さぁもっと”
「 … ご主人さまぁ~ 」
「何がご主人様だ、便器のくせに調子に乗るな!」
◆石川島 警視総監 ◆
モニターには男性の下腹部で一心不乱に頭を動かしている男性警護員。
「カイト様は心も身体も健康そうだな」
「拉致から救出までの時間が短かったのが幸いでした」
日王署、署長佃島警視正、人口規模からいけば日王署の署長は警視が妥当だが、シンフォニア高校があるので、警視正が着任するのが通例だ。
署長の佃島警視正はキャリア組、将来が約束された幹部候補生だが、彼女の将来は原野の名前も知らない川に流された。
所轄の警備課の係長が内通者とは管理責任どころの騒ぎではない。
「佃島くん、日王署の警察犬は優秀だな」
「はい、お褒め頂き光栄です。
落ちついたら彼らを表彰したいと思います」
「そうだな、それが良いな」
男性居住区の男児は精通が有ると病院で検査を受けるが、その時にお尻にマイクロチップを埋め込まれる。
この事を知っているのは極めて限られた人のみ、さらに軍の情報部からも素早い情報提供を受けた事も大きい。
懐古主義者にはそこまでの情報が流れていなかったのだろう、実行グループのほとんどを一網打尽。
更に市内に住み、懐古主義社達を支援している連中の情報も手に入れた。
だがマイクロチップの事は明らかにする訳にいかないので。
今回のスピード救助の立役者は警察犬と言う事で。
もちろん警察犬の活躍は一般市民には知られることはないだろうけど、今回の一件で懐古主義者の内通者は少なくない事が分かった、逆に偽の情報を流してやろう。
「そうそう、外務省ら連絡があってな、数名の職員が自殺をしたそうだよ」
「石川島さん、今回の件で外務省がどの様に関わってくるのでしょうか?」
「カイト様がよく利用している帝都の高級ホテルだが、海外からのお方も良くお泊りになるそうでな。
外務省が保安の為に盗聴器を仕掛けておいたらしい」
露骨な情報収集を“保安”と言い張るのは、どこの官庁も同じか。
他の官庁でも懐古主義者に傾倒した連中は盗聴マイクや監視カメラにアクセスして、男性の情報を集めていた。
おいおい捜査の手が伸びるだろう、陽炎がカイト様に自慢気に話した内容は想像以上に広がった。
「カイト様への取り調べではスタリオン学園に対する襲撃もありましたが、それはどの程度の信ぴょう性があるのでしょうか」
「ああ、大丈夫だ、佃島君は心配する事はない」
警視総監の言葉を翻訳すると、お前は口を挟むなと言う意味。
官僚語が必須のキャリア組は瞬時に警視総監の真意を理解し、口を閉じた。
スタリオン学園襲撃、この案件が一番大きかった。
誰もが名前を知っているが、正確な場所を知っている人間は殆どいないと言う謎の学園を襲撃。
男性居住区の警備が専門の内務省の直轄軍に懐古主義者が潜んでいた事が判明。
具体的な襲撃プランまで明らかになって、内務省は大混乱しているそうだ。
もはや警察のレベルを通り越し政治的な案件に発達した、直轄軍の解隊は確定。
男性居住区の警備を軍に任せるか、警察に任せるかを話し合っている最中、内務省そのものの解体にまで進むかもしれない。
なんにせよ、警察と言うか政府は荒川カイトに大きな貸しを作った、わざわざここに来たのは頭を下げる為だ。
「カイト様は落ちついたか?」
「はい、今は身体も清めました」
ダイヤよりも貴重な液体を警護員の口に収めると言う、最高の贅沢を終えたところ。
◆荒川カイト ◆
賢者タイムの俺、こちらの世界の常識では、白い滴は一滴でも女性の子宮に収めなければならないと言うのに。
俺は唇に欲望を放った、これはとんでもない背徳行為だそうだ。
「カイト様、お客様が面会をお望みです」
ナースのお姉さんが教えてくれる。
「分かりました、会いますよ」
「やあ、荒川カイト様、失礼するよ」
入って来たのは人当たりの良さそうな警察官。
それまで口の周りを濡らし、幸せそうにしていた淡路島さんが、機械仕掛けの様に“気を付け”の姿勢をとる。
「男性警護員淡路島巡査部長、現在職務遂行中であります!」
「ああ、楽にして」
「カイト様、立ってください」
「えっ、さっき楽にしてって言ったよ」
「良いから立ってください!」
「淡路島君だったね、カイト様は民間人で男性だ、警察のルールに従う必要はないよ、そのままで良いから」
▽
警視総監、時々役職名と勘違いする人がいるが、階級の一つ。
キャリア組は警部補、警部、警視、警視正、警視長、警視監と階段を登って行き、最高峰が警視総監。
この階級は一人だけと言う、キャリア組のトップ。
ちなみにノンキャリアでもオスの三毛猫くらいの確率で警視長までは上がれる。
ノンキャリアは警視から警視正に上がる段階で、地方公務員から国家公務員になり、俸給が下がると言う事が起きたりした。
「……この度はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「あの、石川島さん、頭を下げるのはいいけど、俺はいつまでここにいるのですか?」
「カイト様、今回はその事をお伝えに来ました、今まで長い事引き留めして申し訳ないです、只今をもって、身柄を我々警察から男性庁に引き渡しとなります。
ただ、事件そのものは終わった訳ではないです、ここ数日の出来事は口外しないで頂きたい」
「この事件は報道されていないの?」
「まことに申し訳ないですが、全ての犯人を逮捕した訳ではないので、不用意な報道は犯人やその協力者に情報を与える事になります。
どうかご理解を」




