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ある日記  作者: ゆくえ知らず
干し柿
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6/7

干し柿 3

 彼女は深い艶のある黒い器をカウンターに置いた。その隣には干し柿が、薄く切って添えられていた。


 干し柿というものを初めて食べた。口の中でゆっくりと柔らかくなっていきながら、甘い味が続いた。なぜだか懐かしさを感じる甘さだった。

 少し苦味のあるコーヒーに口をつけた時に、先輩と二人で最後に屋上から見た夕焼けが突然目の前に広がり、自分が夢の中でいた場所を思い出した。


 握った手の温かさや、笑顔、あの人のすべてを思い出した。

 涙が溢れて、カウンターに雫が落ちた。


「ごめんなさい」

 そう言ってポケットを探ろうとする私に、彼女が黙ってハンカチを差し出した。香水とは違った、穏やかな薫りがした。

「好きな人のことを思い出したのね」

 はい、と答えた私は、でもその先のことを伝えることができなかった。


「いいのよ」

 ただ、それだけ言って彼女は静かに微笑んだ。

 この女性のことをもっと知りたいと思った。胸元を見たが、ネームプレートなどあるはずもなく、着物の美しい模様が目に入るだけだった。

 私は、自分の名を名乗ってからハンカチのお礼を言い、尋ねた。


「お名前を教えていただけますか」


 彼女は、少し首をかしげて少しの間考えてから、笑顔を大きくして「当ててみて」と言った。「ヒントは沢山あるわ」


 愛らしい笑顔だった。先輩を思い出さずにはいられなかった。少し悪戯っぽくて、挑発してくることもあった、あの笑顔だった。

 茶器のように取手のない、深い艶をたたえた黒い器を両手で挟み込んで、私は先輩を思い出してその暖かさを感じた。

 音のしない静かな店内にコーヒーの薫りに混ざって、本や彼女からの、安らかな薫りが漂っていた。


「かおる、薫子さん、でしょうか」

 古風な名前がこの人にはふさわしいような気がした。

 私の答えを聞いて、彼女はしばらく考え込んでいたが、やがて「いいわ」と頷いて、「はい、正解」と言って笑った。

「高貴な名前で嬉しいわ」


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