干し柿 2
「音楽、欲しい?」
彼女は手を止めずに下を向いたまま聞いた。
私は、何も言わずに首を振った。ここでは、髪の毛が触れ合う音すら美しく響く。
「そう、よかった」と安堵を含んだ声が聞こえた。
「みんな、自分を見て欲しくて叫んでいるわね。誰にでもいいから見てもらいたい、自分を見てもらいたい。でも、自分が他人にどう見えているのかは、決してわからないわ。不安になるから余計に叫んでしまう」
彼女が顔を上げて私を見た。笑顔ではなかったが、優しげな柔らかな日差しのような視線だった。
「そういう雑音だらけのところから離れて、静かなところで、自分の心に耳を澄まさないと聞こえなくなってしまうこともある。だから、ここでは音楽はかけないの」
「昨日お店を出た時に、他の人にはこの建物が見えていないのではないかと、思いました」
彼女の表情に驚いたような、喜んだような笑みが一瞬浮かんで、消えた。
「見つけてもらえて、とおっしゃったのは、そういうことなのだと思いました。見える人にしか見えないのだと」
彼女の静かな表情に促されて私は言葉を継いだ。
「私、図書館とか本屋さんが好きなんです」
「文芸部ですものね」
「静かな館内で、書架の間を巡っていると、時々本の背表紙が語りかけてくることがあります。語りかけてくる、というかそこにその本があったことになぜか気がつく、という感じなのですが」
彼女の表情が一層柔らかくなった。
「その右の本でも、左の本でもなくて、その本。どうしてその本がそこにあったのかはわからないけれど、手に取って読んでみると、確かにその本は私にとって必要だったり、大切だったりする本なのです。そういうことがたまに起こります」
不思議なんです、と私は続けた。
「必要な時に必要な人にしか見えないものもあるのね」




