干し柿 1
干し柿
電車が大きく揺れて、目が覚めた。目が覚めたというよりは数十年間失っていた意識が急に戻ったような、唐突な覚醒だった。
ベンチシートの向かいに座る乗客の肩越しに流れる風景が、駅が近いことを知らせている。
眠れず、眠りの浅い日が続いていたのに、まさか電車の中で寝落ちするとは思わなかった。こんなに深く眠ってしまったなんて、昨日の和三盆とコーヒーのせいだろうか。張り詰めていた神経が、いくらか和らいでいる気がした。
目が覚める直前までどこかに居た夢を見ていたはずだったけど、思い出せなかった。
速度を落としてやがて電車が停止した。
立ち上がろうとした時に、制服のスカートに丸い雫が落ちた。
頬に触れた指が水滴で濡れた。
私は泣いていたのだ。
そして、自分の意識が消えてしまうというのはどういう感覚なのだろうかという、答えの出ない問いがまた私の精神を黒々と塗りつぶしていくのを感じた。
朝起きて家を出てバスに乗り、電車に乗って高校へ行く。遠くで何重にも響いて意味をなさなくなった友人や教師の言葉が体を通り抜けるのに任せて一日を過ごす。
無意識にできる習慣になってしまった行動が悲しい。人は生き続けていくことはできるのかもしれない、それがどんなに空虚なものであっても。
昨日の喫茶店は、学校帰りに通りかかると「営業中」の札が出ていた。
昨日と同じように入り口の階段を上がって扉を開くと、やはり同じように昨日の女性が、「カウンターにいらっしゃい」と迎えてくれた。
コーヒーを準備する音が心地よくて、私は耳を傾けながら目を閉じた。
ゆっくりと漂い始めた薫りが徐々に濃くなるのにつれて、私の心を塗りつぶしていた闇が薄くなり、自分自身の輪郭が徐々にはっきりとしてきた。
静かだった。
「静か。音楽がないんですね」




