和三盆 2
カウンターの中から声をかけてくれたのは、和服を着た女性だった。
言われるままに右手に進んで、高い椅子に苦労して座りスカートの形を整えて改めて女性を見た。
肩の高さで切り揃えられた髪の色は銀色で、目元には皺が刻まれていた。背筋はまっすぐに伸びて高貴な雰囲気が漂い、いい薫りがした。目の輝きだけが私と同年代のようだった。
かつて、先輩に初めて会った時のような胸の高まりを感じ、頬が紅潮するのを感じ、そして暗い罪悪感を覚えた。
「ありがとう、見つけてもらえて嬉しいわ。普通のコーヒーでいいかしら」
私は紅潮した顔を見られないように、「はい」とうつむきながら答えた。
ガス台のつまみをひねる音が聞こえると、コーヒー豆の缶を開ける軽い解放音と、豆を豆挽きに入れる音が続いた。
ゆったりとした硬い摩擦音が響き始め、香ばしい薫りが広がっていく。水が沸騰する断続的な音がその背後で続いている。
私は、改めて店の中を見回した。左の奥、入り口の反対側に窓があり、外の草地の緑と梢が覗いていた。左手の壁も一面本棚になっていてやはり色々な本が並んでいた。金色の箔で題名が記された革の装丁の本や、糸で綴じてある古文書のようなものまであった。
喫茶店が好きで、色々な内装の店を見たことはあるけれど、このような店を見るのは初めてだった。大学の文学部に研究室があったらこんな感じなのだろうかと思った。手挽きのコーヒー付きは、できすぎたけど。
コーヒーの薫りが強くなって、カウンターにお盆が置かれる音がした。
飴色の盆に、厚手の白いコーヒーカップが置かれ、その隣の黒い小皿の上には、飴玉くらいの丸いものを和紙で包んで、両端をひねったものが置かれていた。
促されてその包みを解くと白い球体が現れ、真ん中から二つに割れて、半月が二つ、お皿に転がった。
見たことがないものだった。お菓子なのだろうか。
「和三盆の、干菓子なの」と、女性が言った。天上から舞い落ちてくるような声の響きだった。
一つをつまんで口に入れた。
舌の上で甘みを感じていると、突然に溶けてなくなってしまった。そして清々しい涼しさが口の中に広がった。琥珀色のコーヒーの味は少し軽めで、涼しげな甘さとよくあった。
心の深いところで、ゆっくりと呼吸をした。こわばっていた皮膚をほぐすように風が渡って行った。
私は、気になっていたことを聞きたいと思い、身構えたが、女性の方が先に話しかけてきた。
「あなたは、物語が好き?」




