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【第九十三話】受け継ぐもの

〈フェルコルクス王城・大広間〉


「冷却環を最優先!」


「そっちの経路は切り離せ!もう使い物にならん!」


ラソルの指示のもと作業が進んでいく。


だが。


新型抽出機の中心では、未だに白い光が激しく明滅していた。


「圧力が上がってるぞ!」


「分かってる!」


――ガキンッ!!


不意に、工具の先端が折れた。


直後――金属管の一つが破裂する。


「伏せろ!」


ナナセが水壁を展開する。


噴き出した熱風と金属片が、水の壁へ突き刺さった。


ラソルが顔を上げる。


「助かった!」


「気にしないで!」


「……くそっ!」


「冷却水が循環してねぇ」


「魔力もだ!」


「流れが滅茶苦茶になってやがる!」


「このままじゃ、直す前に、圧力が高まって爆発しちまうぞ」


ナナセが装置へ目を向ける。


幾つもの魔力が複雑に絡み合い、互いに衝突していた。


本来なら一定方向へ流れるはずの魔力が。


行き場を失い、装置の中で暴れ回っている。


「分かった」


「冷却と魔力の制御は僕に任せて」


「――この魔力を読み取るのは人間には無理だろ……」


怪訝な顔をしているラソルに笑顔を向けるナナセ。


「僕の相棒は、こういうの得意だから」


「それに」


「発表会の間、食べてるだけの暇人を働かせないとね」


ナナセが手を伸ばす。


「――ポラリス」


『――暇人じゃない』


白い光がナナセの隣に集まっていく。


光が形を成し。


小さな少女の姿が現れた。


「……口元にクリームついてるよ」


「初めて見たお菓子だったけど、なかなかおいしかった」


口元を舌で拭ってから、真剣な顔になるポラリス。


「魔力の制御だね」


「流れと力を制御するだけでいいの?」


手を止め、ポラリスを見つめるラソルたち。


そんなラソルたちに目を向けるポラリス。


「……どんな感じに調整すればいいの?」


ナナセの声に、ドワーフたちが我に返る。


「そ、そうだな……出力は今の半分にしてほしい」


「流れは中心に留まらないようにしてくれ」


「わかった」


すぐに、魔力を制御しだすポラリス。


「冷却水は、温度をどこまで下げればいいの?」


「量も調整した方がいいの?」


「……」


無言のままナナセを見つめるラソル。


「……くそっ」


「言いたいことが山ほどあるが時間がない!」


「水温は、そこの計測器の針を適正値まで下げてくれ」


「問題は量よりも、純度だ」


「循環しているうちに――」


「純水に変換しておくね」


ラソルの言葉を遮るナナセ。


「おい――どうしてそんなことができる!」


ラソルがナナセに詰め寄ろうとする。


だが、配管の一部が破損し、蒸気が吹き出す。


装置の中心では白い光が激しく明滅したままだった。


「――最優先事項はそんなことじゃないでしょ!」


「爆発を止めれるのは、君たちしかいないんだよ!」


ナナセの言葉に頷くラソル。


ラソルはドワーフたちに改めて視線を送る。


「いいかお前ら!」


「ナナセの言う通りだ!」


「この装置の爆発を止めれるのは俺らしかいない!」


「――作業を続けるぞ!」


ラソルの怒号に気を引き締め直すドワーフたち。


そんな中、ポラリスは新型抽出機を見つめていた。


「どれだけの精霊を犠牲にしたんだろ……」


ポラリスの呟きにナナセも目を閉じる。


装置内部へ意識を集中させた。


異なる精霊から奪い取った力。


本来なら交わることのない魔力。


それらが、無理やり一つの場所へ押し込められている。


「ポラリス」


「分かってる」


ポラリスが両手を広げる。


瞬間。


装置の中心に留まっていた魔力が、外へ流れていく。


暴れ回っていた白い光が、僅かに弱まっていく。


「な……」


一人のドワーフが目を見開く。


「魔力の膨張が止まった……?」


ラソルは振り返らない。


「見るのは後だ!」


「今のうちに直せ!!」


「お、おう!」


ドワーフたちが再び装置へ食らいつく。


ナナセは装置内部を流れる魔力だけを見つめていた。


「ナナセ!」


「魔力の流れを変える!」


「外部じゃなくて、こっちの経路につないでくれ」


「分かった!」


「ポラリス、そのまま抑えてて!」


「うん!」


ナナセが装置へ手をかざす。


絡み合った魔力を解きほぐし、新たな流れへと再構築していく。


「来るぞ!」


ラソルが叫ぶ。


ドワーフたちが一斉に歯車を回した。


ゴォォォォ――!!


装置全体が大きく振動する。


「冷却環、起動!」


「圧力弁、開放!」


「制御回路、復旧!」


白い蒸気が噴き上がる。


だが、中心の発光は少しずつ落ち着いていく。


レミントが床に倒れたまま、目を見開いていた。


「馬鹿な……」


「臨界に入っているんだぞ……」


「そこから制御できるはずが――」


「黙ってろ!」


「まだ終わってないんだ!」


ラソルの怒号が響く。


「最終弁を閉じろ!!」


「おおおおおっ!!」


数人のドワーフが巨大なバルブへ飛びつく。


動かない。


「くそっ!」


「固着してやがる!」


「全員で回せ!!」


一人。


二人。


三人。


ラソルも工具を投げ捨て、バルブへ手をかける。


「せぇぇぇのっ!!」


金属が軋む。


ゆっくりと回り始めていく。


「まだだ!」


「止めるな!!」


ドワーフたちの腕が震える。


歯を食いしばる。


そして。


ガコン――


重い音が響いた。


最終弁が閉じる。


同時に轟音が消える。


振動も。


熱風も。


何もかもが止まった。


大広間には、規則的な蒸気の音だけが響いていた。


「……」


誰も動かない。


ラソルが恐る恐る圧力計を見る。


針は。


安全域で止まっていた。


「……止まった」


誰かが呟いた。


「止まったぞ……!」


「俺たちが……止めた!」


歓声が大広間へ響き渡った。


ドワーフたちが互いの肩を叩き合う。


その場へ座り込む者。


天井を見上げて笑う者。


ラソルは。


何も言わなかった。


ただ。


静かになった新型抽出機を見つめている。


ナナセが隣へ歩み寄る。


「お疲れ様」


「……ああ」


ラソルは工具を拾い上げる。


「死なずに済んで、助かったよ」


「……俺には――やっぱり納得できねぇよ」


「死んで守るなんてやり方は」


「でも」


ナナセがラソルを見る。


「先代王が命を懸けたから、守れたものもあった」


ラソルはしばらく黙っていた。


「分かってるさ」


「だから腹が立つんだ」


工具を強く握る。


「死ぬしかなかった親父にも」


「そうさせた帝国にも」


「それ以外の方法を作れなかった俺にもな」


ラソルは顔を上げた。


「だから――俺は作る」


「死ななくても守れるものを」


「ドワーフの誉れに懸けてな」


その言葉を最後に。


大広間を覆っていた緊張が、ようやく解けていった――


【第九十四話へ続く】


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