【第八十六話】技術の価値
〈フェルコルクス王城・大広間〉
――会場が静まり返る。
壇上に立つレミントの口調は落ち着いていた。
戦争を語る軍人ではない。
研究成果を発表する学者そのものだった。
「帝国軍技術開発局は、これまで精霊技術の研究を続けていました」
「精霊魔法の可能性に惹かれ、その力をより身近なものにすべきだと
考えてきました」
壇上にスポットライトが追加され、魔導石付の武器と神焉砲の模型が
照らされる。
「――精霊付与兵装」
「――対都市用の大型砲」
「兵器としては一定の成果を挙げて参りました」
レミントは残念そうに目を伏せる。
「ただし……」
「民間向けにするには安定性と量産性に問題がありました」
顔を上げて出席者を見下ろす。
「しかし!」
「この度の新型“器”でそれらの問題を解決しました」
背後の幕が開く。
現れたのは、黒く鈍い光沢を放つ筒状の器だった。
複雑な紋様が刻まれ、内部には無数の魔法陣が重なっている。
会場から感嘆の声が漏れる。
「こちらが新型の“器”です」
レミントが器へ手を向ける。
「従来の“器”は耐久性に大きな問題を抱えていました」
「精霊の力はあまりにも強大でした」
「そのため、容量も少なく、簡単に崩壊してしまう」
各国の商人たちが真剣な表情で頷く。
ナナセも黙って聞いていた。
「解決のためには、高品質な素材が必要不可欠でした」
「この新型”器”は希少鉱石を用いることで」
「――その耐久性能を飛躍的に向上させています」
拍手が起こる。
「この新型”器”の完成は、カルス王の協力があったからこそです」
レミントの言葉に合わせてカルスにもスポットライトが当たる。
会釈するカルスにも、称賛の拍手が送られる。
「……もっとも」
レミントの言葉に再度注目が集まる。
「これは今回の成果の一部に過ぎません」
再び幕が開く。
今度現れたのは、巨大な魔導装置だった。
幾重にも組まれた魔法陣。
無数の管。
中央には、器を固定するためと思われる台座。
「こちらが新型抽出装置です」
複雑に絡み合う管と魔法陣を前に、会場のざわめきが大きくなる。
レミントは抽出装置へ歩み寄る。
「”器”の耐久性を高めるだけでは、十分ではありませんでした」
「私たちは発想を変えました」
静まり返る会場。
「問題は、本当に”器”だけだったのでしょうか」
商人たちが顔を見合わせる。
レミントは静かに続ける。
「研究を重ねた結果、抽出工程そのものを見直す必要に気づきました」
「それにより、”器”への負荷を大幅に軽減できることが判明しました」
「本装置は、その理論を実現したものです」
ナナセは眉をひそめる。
(抽出工程……?)
レミントは穏やかな笑みを崩さない。
「従来、一体の精霊から得られる力には限界がありました」
「そして、効率も悪かった」
「ですが、この装置により――」
「一体の精霊から、複数回の抽出が可能となりました」
会場がどよめく。
商人たちは興奮したように声を上げる。
「素晴らしい!」
「画期的だ!」
「軍事だけではない、産業にも応用できる!」
一部の出席者が戸惑うように顔を見合わせる。
だが、それを上回る拍手が広がった。
周りに合わせて拍手しだす者も現れていく。
しかし。
ナナセだけは拍手をしていなかった。
(複数回……?)
その一言が胸に引っ掛かる。
レミントは何事もないように説明を続ける。
「詳しい理論については、この後ご説明いたします」
ナナセの視線は、抽出装置から離れない。
理屈はまだ分からない。
それでも、“複数回”という言葉だけが胸に残った。
レミントが再び口を開く。
「それでは――」
「新方式における精霊側への影響について、ご説明いたしましょう」
ナナセの瞳がわずかに揺れた――
【第八十七話へ続く】




