【第八十二話】商人たちの作戦
〈とある港湾都市〉
――馬車の中で向き合う五人。
ナナセの隣に座るミヨが口を開く。
「皆様には、私たち商会の一団として入国していただくわ」
ヒナノが首を傾げた。
「商会の一団?」
「ちょうど、フェルコルクスで帝国主催の新技術発表会が開かれるの」
「ミリアド・オラクル商会にも招待状が届いているわ」
オボロの目が細くなる。
「帝国の新技術……」
「詳しい内容は伏せられている」
「ドワーフの技術と帝国の魔導技術を組み合わせた新技術」
「――と宣伝されているわ」
「でも、父は別件で動けない」
「商会としての体裁を整える必要がある」
ミヨが自身を示す。
「だから、会長代理として私が出席するの」
「そこへ僕たちを加えるってことね」
「えぇ」
ミヨはナナセへ視線を戻した。
「ナナセには、商会の人間になってもらうわ」
「僕が?」
「私の随行員」
「商談の補佐役として、発表会にも同席してもらう」
「できるかなぁ、商人」
「あなた、相手の欲しいものを見抜いて交渉するのは得意でしょう?」
「……否定はできないね」
「服装も言葉遣いも、私が教えてあげる」
ミヨは楽しそうに笑う。
「二人きりで、時間をかけて」
「必要ありません」
オボロが即座に遮った。
「ナナセ様は最低限の作法を理解しています」
「あら、残念」
「まだ僕は何も言ってないんだけど?」
「ナナセ様は放っておくと流されますので」
「僕、信用ないなぁ」
「女性関係については特に」
ミヨが満足そうに笑った。
「分かってるじゃない」
「あなたも含まれています」
「あら?」
ミヨとオボロが再び睨み合う。
サツキが話を戻した。
「私たちは?」
「三人には商会の護衛として登録してあるわ」
ミヨが答える。
「必要な身分証と書類も用意してあるから」
「オボロが護衛隊の責任者」
「サツキさんとヒナノさんは、その配下という扱いよ」
「武器についても、商会が管理責任を負う形なら持ち込める」
「ただし、入国できるからといって、自由に動けるわけではないの」
「商会が入れるのは一般区画まで」
「王城へ入れるのは発表会当日だけよ」
ナナセが頷く。
「発表会当日は、僕とミヨが正面から王城へ入るよ」
「えぇ」
ミヨはオボロたちへ視線を移す。
「発表会当日、護衛の三人は私たちとは別行動ね」
オボロが静かに問う。
「護衛が持ち場を離れても、不自然ではありませんか?」
「発表会には各国の商人や貴族が集まる」
「武器を持った護衛は、発表会場の中までは入れないのよ」
「だから、私たちと離れていても怪しまれない」
「護衛として周囲を見回っていても、自然に動けそうですね」
オボロが小さく呟き、ナナセと視線を合わせる。
「会場の裏側を調査します」
「サツキとヒナノは、オボロの指示に従って」
「分かったわ」
「任せて」
正面から入るミヨ、ナナセ。
裏側を探るオボロ、サツキ、ヒナノ。
役割が決まっていく。
馬車は山間部へ続く街道を進む。
目指す先は――鍛峰王国フェルコルクス。
帝国とドワーフ。
二つの技術が交わる場所へ。
――馬車の窓から遠ざかる海を眺めながら、ミヨが静かに口を開いた。
「発表会の前に、一つだけ寄りたい場所があるの」
ナナセが視線を向ける。
「商会の取引先?」
「表向きはね」
ミヨの声が僅かに低くなる。
「フェルコルクスの現状を、快く思っていない者たちがいる」
「そのうちの一人と接触する手筈を整えてあるわ」
オボロの目が鋭くなる。
「信用できる人物ですか?」
「先代王の息子――」
「本当に本人なのかまでは確認できていない」
ミヨは窓の外へ目を向けた。
街道の先。
険しい山々が、空を遮るように連なっている。
「だから、確かめに行くのよ」
「私たちの味方になり得る人物なのか」
「それとも――」
ミヨの瞳から、笑みが消える。
「帝国が用意した罠なのかをね」
馬車は進む。
閉ざされた谷へ。
その奥で待つ人物のもとへ――
【第八十三話へ続く】




