【第七話】孤児院
〈騎士団、支部長室〉
「前任者の隠し金庫、整理完了しました」
支部長室の机の上には、整然と並べられた金品と武具。
ナナセはその中から一本の剣を手に取った。
薄く魔力が宿る刃。
「……へえ」
「未申告の魔剣です」
「なるほどね」
軽く振り、元に戻す。
「一介の支部長には贅沢すぎるね」
「最近のドワーフの谷製だね」
「……よくわかりますね」
「貴重な鉱石を使ってるし、デザインと性能の癖が強すぎるよ」
「……賄賂だね」
「記録によると、商業ギルドからシドー支部への献品のひとつですね」
「なら僕が好きにしても問題ないね」
オボロが一瞬だけ視線を上げる。
「……本部への提出ではなく?」
「今更、魔剣の一つが出てきても罪状は変わらないでしょ?」
ナナセは肩をすくめた。
「それに価値ある使い方を思いついたしね」
「……承知しました」
「あとは書類関係か」
「……すべて商業ギルドに発注してるね」
「すごい額で」
「今朝食堂を利用しましたが、あれが騎士団員の食事だとは
思えませんでした」
オボロは呆れた顔で伝える。
「食材を自由市場に頼もうにも、あそこも供給が安定してないしね」
「とりあえず食事は何とかしたいよね」
「……士気も下がるし」
そんな二人のもとにヒナノが笑顔でやってくる。
「ナナセ!昨日言ってた街の視察行ける?」
「……考え込んでも仕方ないし、街に行こうかな」
ヒナノの顔がぱっと明るくなる。
「うん!」
ナナセは軽く笑って、視線を向けた。
「じゃあ行こうか」
ほんの一瞬、間を置いて。
「デートだデート♪」
ヒナノの声が跳ねる。
「違う」
遅れてやってきたサツキが即座に切り捨てた。
「任務です」
オボロも静かに補正する。
ナナセは肩をすくめた。
「そうとも言うね」
〈シドー商業区〉
――街は賑わっている。
「ねえねえ、あっちにおいしいクレープ屋あるんだよ!行こうよ!」
ヒナノがナナセの腕を引こうとする。
その前に、サツキが割り込む。
「任務だと言っただろ。勝手に決めるな」
「えーいいじゃん!」
「よくない」
さらに。
オボロが自然にナナセの横へ入る。
「人通りが多いので離れないでください」
「……子供かな?」
「言動が子供じみてるときはありますね」
「今は?」
「……楽しんでいらっしゃいますよね?」
「性格の悪い大人のようです」
「ナナセ!人気者だね!」
「そういう問題じゃない」
即答するサツキ。
「……そんなことよりも3人とも気づかない?」
「――確かに多いな」
サツキが呟いた。
視線の先。
兵士。
それも一人や二人ではない。
装備は統一され、動きに無駄がない。
「ヴェルトム帝国の連中だ」
短く断じる。
「小隊規模なら見たことはあるが、この数は異常だ」
周囲の人々が、無意識に距離を取っている。
道で遊んでいた子供も路地裏に隠れだす。
商人の声も、どこか小さい。
「どうせ領主絡みでしょ。めんどくさくならないといいなぁ」
ヒナノは一瞥し軽く流す。
「――それだけだといいけどね」
ナナセは肩をすくめる。
さらに進む。
今度は別の違和感。
店先に立つ商人。
その奥に、武装した男たち。
「……あれが警備を委託してる傭兵部隊?」
ナナセが小さく言う。
サツキが頷く。
「商業ギルドの手下だ」
客を見る目ではない。監視する目だ。
「圧が強いね」
ナナセが軽く言う。
オボロが顔をしかめる。
「買い物しづらそうですね……」
「してほしくないんだろうな」
サツキの一言。
「人数はいつも違うけど今日はやけに多いね」
ヒナノの一言。
「じゃあさ、嫌な大人の話は忘れて、子供たちに触れあう?」
――ヒナノの案内で移動する一行。
通りの奥。
小さな建物。
看板には、柔らかな文字。
「孤児院?」
子供たちの笑い声が、外まで漏れている。
空気が、そこだけ違う。
「せっかくだし無邪気な子供成分を摂取しようよ」
4人が中に入ると。
子供たちが、ぱっと顔を上げた。
「ヒナノお姉ちゃん!」
「あとは誰ー?」
「男連れてきた!結婚のあいさつ?」
「そうだよ、ヒナノお姉ちゃんの結婚相……痛い痛いよサツキ!」
ヒナノの後頭部を鷲掴みにするサツキ
「勝手に決めないの。ヒナノのじゃないでしょ」
「じゃあ、銀髪のお姉ちゃんの結婚相手?」
「そっ、その、まだ、将来的には……」
無邪気な質問に顔が赤くなりサツキ
「うへぇ…みんな元気だね」
「……僕はまだ誰の結婚相手でもないよ?」
「最近シドーにやってきたんだ。色々教えてほしいな」
しゃがみ込んで目線を合わせるナナセ。
ナナセに街の自慢を話し出す子供たち。
――だが。
子供たちと話しているナナセの背中に悪寒が走る。
「これはこれは」
柔らかな声。
奥から、一人の男が歩いてくる。
穏やかな笑み。
「ヒナノ様、それに皆さま。ようこそ、お越しくださいました」
子供たちが駆け寄る。
「院長先生!」
「聞いて聞いて!」
頭を撫でる。
「はいはい、順番ですから」
優しい手つき。
しかしその視線だけは、ナナセから外れていなかった。
ヒナノが小さく言う。
「ここの院長のオルフェさん」
「商業ギルドの幹部の一人」
「……ふーん」
表情を変えずにオルフェを見ているナナセ。
サツキの視線が、わずかに鋭くなる。
オボロの気配が、静かに沈む。
ヒナノは、笑顔のまま固まっている。
それでも、ナナセの隣から離れない。
「騎士団の方ですね」
オルフェが微笑む。
その笑みは穏やかなのに、どこか温度がない。
「はい、ちょっと街の様子を」
「元気そうな子供の声もしましたしね」
「お邪魔でしたか?」
ナナセが作り笑いで応酬する。
ナナセと視線を合わせながらオルフェが答える。
「いえいえ。最近は少し物騒でしてね」
「先月は領主が毒殺されましたから」
「ですが騎士団の皆様、それに支部長様なら安心できますね」
「あれ?支部長だとは、まだお伝えしていませんでしたが?」
「商業ギルドの幹部ですから。耳は早いんですよ」
「この街では特にね」
ナナセはわざとらしく頷くが、オルフェから目を離さない。
「あぁ、なるほど」
「領主の後任は、当時の商業ギルドマスターですもんね」
「――耳だけじゃなくて、手も早いとかじゃなければいいのですが?」
穏やかな口調。
だが。
これ以上は何も言わないオルフェ。
耐えられなくなったヒナノが作り笑いを浮かべ話しかける。
「……また子供たちに会いに来てもいいですか?」
「もちろん」
院長も笑う。
「――いつでも歓迎しますよ」
子供たちが手を振る。
「ばいばーい!」
「またねー!」
外に出る。
「……領主に会う前に、厄介なのを見つけたね」
ナナセは一度だけ振り返る。
孤児院の扉は、静かに閉じられていた。
――誰も寄せ付けないように。
【第八話へ続く】
改めまして――
はじめまして、九十九ペンギンと申します。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
『真名レゾナンス 〜元恋人たちと、呼ばれしもの応えしもの〜』は、
精霊や“名前”、キャラクター同士の関係性を大切にしながら書いている
物語です。
初めての連載作品となりますが、少しでも楽しんでいただけたら
嬉しいです。
社会人のため執筆ペースには波がありますが、
現在はストックがあるため、6月末までは平日は21時更新、
土日は2話更新を予定しています。
今後ともよろしくお願いします!




