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【第七十六話】契りの剣

〈キオウ島・カナヤの工房〉


――カナヤの工房にたどり着くナナセたち。


見知った顔が疲れた顔で軒先に座っていた。


「……やっと百日経ったのですね」


軒先でぐったりとしていたのはオボロだった。


「……なんでここにいるの?」


「神社巡りは?」


「いくつも行ってきましたよ」


「山の上、崖の下、洞窟の中まで……」


「かなりの記録を知ることができましたよ」


「そしたら、いつの間にか厄介な相手に捕まってしまって」


工房の奥に目を向けるオボロ。


そこから人影が近づいてくる。


「おっ!なんじゃ……もう終わったのかのぉ」


「……あの時のアイスの子じゃん」


少女と目が合うナナセ。


「あの時は馳走になったな」


「おいしかったからの」


「あの後もオボロに何回も付き合ってもらったぞ」


サツキとヒナノがナナセの袖を引く。


「この子供は?」


「前に一度だけ会った子供」


一つ咳払いをするオボロ。


「ナナセ様――この方がジェネシス様です」


口を開いたまま唖然とするナナセたち。


「うむ、童が創造を司る始原の精霊――ジェネシスじゃ」


「……言っとらんかったか」


「……ハルモニアから感じたような圧がないんだけど」


「それもそうじゃ」


「お忍び中じゃからの」


ため息をつくオボロ。


「お忍び中ならもっと静かにしてください」


「この数十日、どれだけ連れ回されたと思っているのですか」


「意外と反応がいいから、ついな」


「確かに反応いいから無茶ぶりしたくなるよね」


「……」


ジェネシスに同意したナナセを、無言のまま睨むオボロ。


カナヤが咳払いをして、割って入る。


「話が盛り上がるのもいいですが……」


「いつまでも軒先というわけにもいきません」


「奥に行きましょうか」


ジェネシスに目を配るカナヤ。


「――大事な話もあるのでしょうし」


「そうじゃな……まずは新しい剣を造るとしようかの」


――工房のさらに奥に案内するカナヤ。


隠し扉の先に足を踏み入れる。


そこには、表の炉とはまた違った炉や工具が並んでいた。


「ここは歴代の鍛鬼頭領が受け継いできた場所だ」


「ジェネシス様の個人工房と言った方が早いな」


「うむ……ドワーフの谷にあるものと同じものじゃ」


「ここで童とカナヤで剣を造る」


「それと……」


ナナセを見つめるジェネシス。


「お主とお主の精霊の手も借りたい」


ポラリスがナナセの傍らに現れる。


「私の出番だね!」


「……何するか理解してる?」


「全然!!」


ポラリスを見つめるジェネシス


「……」


首を傾げるポラリス。


「……何かついてる?」


「いや……元気そうで何よりじゃなと」


「ハルモニアから聞いた話もあったからのぉ」


目を伏せた後にナナセを見つめるジェネシス。


「さてと――」


「ハルモニアから預かったものを出してみぃ」


精霊鉱と世界樹の枝を渡すナナセ。


「なかなかの量ですね……」


素材を手に取りながら驚愕するカナヤ。


「うむ……思ったより余裕がありそうじゃな」


今まで黙っていたカエデが、おどおどと手を上げる。


「あの……」


カエデを見てニヤつきだすジェネシス。


「……なんじゃ……言うてみぃ」


「この量じゃから、貴様の願いは叶えられるぞ」


顔を赤くしながらナナセを見つめるカエデ。


「カエデの武器も新調したいの?」


「……いや、何といえばいいのか……」


目を伏せた後、意を決してナナセを見つめる。


「脇差を一刀作って頂けないだろうか」


「代わりに我が家の家宝の一つをナナセに預けたいのだ」


「素材なら余裕があるみたいだし、代わりなんていらないよ」


「いや!――貰ってもらわなければ困るのだ」


上目遣いでナナセに訴えかけるカエデ。


「そこまで言うなら貰っておけば?」


「そうそう!」


「カエデの家の家宝ってことは凄そうだし」


サツキとヒナノも興味津々に肯定している。


「たしかに、そうだよね」


「なら――その提案に乗るよ」


「……ほんとだな!」


「もちろん、嘘じゃないよ」


嬉しさのあまりガッツポーズするカエデ。


それを見て、ニヤついてるジェネシスとカナヤ。


「カナヤ、ヤナギとみんなに伝えてくるのじゃ」


「こうなることを期待していたのじゃろ?」


ジェネシスに言われて、頷きながら立ち去るカナヤ。


――しばらくして、扉の向こうから大きな歓声が上がった。


「……僕、何かやった?」


ジェネシスが笑いながら答える。


「百鬼夜行中の鬼に脇差を渡し、代わりに家宝の剣を預ける」


「命を預ける代わりに、家の証を託す」


「すなわち――百鬼夜行の間、遠くから愛するものを守る」


「すなわち――百鬼夜行の後、帰る場所の印を預ける」


「なに、ただのキオウ島の文化の一つじゃ」


顔を引きつらせるナナセの腕を掴むカエデ。


「――婚約のな」


ジェネシスの一言が工房に響き渡る。


サツキとヒナノが唖然とした顔のまま固まる。


オボロがこめかみを抑えてうつむいていた。


「やっぱり、カエデもナナセと家族になりたかったんだね」


「また楽しくなるね」


ポラリスだけが楽しそうにしていた。


「卑怯すぎる!」


「そうだよ!」


サツキとヒナノが声を上げる。


「卑怯ではない――戦略的なだけだ」


ナナセの腕を離さずに反論するカエデ。


三人の睨み合いをよそに、ため息を吐きながら顔を上げるオボロ。


「――安心してください」


「事前に事情を知らない場合は“仮の契り”扱いになりますから」


「百鬼夜行が終わるまでですが」


「――終わるのはまだ先ですよね?」


顔をしかめるカエデ。


「……待って」


不意に何かに気づいたヒナノ。


「私たちも、これからナナセから剣を貰うから条件は一緒だよね」


「じゃあ、私もサツキも同じじゃん!」


「違うでしょ!」


「――婚約の印だ」


頬を赤くしながら呟くヒナノ


想定外の発言に吹き出すサツキ。


「ままま……待ちなさい」


「飛躍しすぎよ」


カエデも慌てた様子になる。


「そうだ!お前たちは家宝の何かを預けたわけじゃないだろう!」


ドヤ顔になるヒナノ。


「問題ないもん!」


「私にとって帰る場所に、印はいらないから」


ナナセの空いている腕を掴むヒナノ。


サツキとヒナノとカエデ――


三人の視線が交差していた。


それを見てジェネシスが吹き出す。


「――モテる男はつらいのぉ」


ジェネシスをジト目で睨んだ後オボロに助けを求めるナナセ。


「黙ってないで助けてよ」


笑みを浮かべるオボロ。


「私の分の短刀も一本お願いしますね」


オボロは珍しく、悪戯っぽく笑う。


視線の交差にオボロも加わる。


「やっぱり、みんなナナセが好きなんだね♪」


ポラリスの楽しそうな声だけが場違いに響いていた。


ナナセたちを見て、ジェネシスも小さく笑う。


「……剣とは面白いものじゃ」


「命を守るための道具であり――」


「人と人を繋ぐ契りにもなる」


工房の炉に火が入る。


人と精霊を繋ぐ新たな剣が、今まさに生まれようとしていた――


【第七十七話へ続く】


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