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【第七十五話】百日の答え

〈キオウ島・修練場〉


――修行を始めて、百日。


振り返れば、あっという間だった。


修行が始まって以来、三人が揃うのは初めてだった。


修練場には三人の師もいる。


少しだけ沈黙が流れた。


最初に口を開いたのはヒナノだった。


「なんか……二人とも雰囲気変わったね」


サツキが小さく笑う。


「あなたもよ」


ナナセも肩をすくめる。


「百日も別々だったからね」


「少しは成長してないと困るかな」


ヒナノが心配そうにナナセを見つめる。


「左腕完治したの?」


「だいぶ前に完治したよ」


「だから、修行もちゃんとできたよ」


サツキが笑みを浮かべる。


「なら――どれだけ強くなったか楽しみね」


ヒナノも笑みを浮かべる。


「久しぶりに模擬戦しないとね」


「……積極的過ぎない?」


「そんなことないよ」


「えぇ……そうね」


「私たちは剣士だもの」


そんな中、一人の鬼がやってくる。


鍛鬼頭領――カナヤだった。


「さて……見せてもらおうか」


ナナセが頷く。


「うん」


「約束通り百日経ったしね」


「ナナセ……この人は?」


「カナヤさん――鍛鬼頭領で僕たちの新しい剣を打ってくれるんだ」


サツキとヒナノに紹介するナナセ。


「サツキはもちろんだけど、ヒナノも新調が必要でしょ」


サツキとヒナノの顔が明るくなる。


「ほんとに!」


カナヤは三人を順番に見つめる。


「あぁ……この男にも頼まれたし、ハルモニア様の素材もあるしな」


「儂が直接打つことにした」


「早速、貴様たちの剣を見せてみろ」


「刀は剣士を映す鏡だ」


「あの素材を使うだけの価値があるか、この目で確かめる」


木刀を手に取る三人。


カエデが笑う。


「面白い」


ノワキも頷いた。


「ちょうど確認したかったところです」


カゲロウは胡坐をかいて座る。


「俺の弟子が一番だがな」


カゲロウの言葉にカエデが眉をひそめる。


「聞き捨てならんな」


ノワキも静かに微笑む。


「えぇ……団子の食べ過ぎで脳まで団子になってるのでしょう」


「脳みその代わりにみたらしで溢れていそうですし」


「……相変わらず斬ることしか頭にないやつだな」


「言葉まで刃物にするなんて品がないねぇ」


カエデたちの視線が交差する。


三人の殺気が溢れる。


――その瞬間。


空気が変わった。


三人の師が同時に姿勢を正す。


カナヤも静かに頭を下げていた。


「貴様らいい加減にせよ」


ヤナギが現れる。


「立場があるのだ……少しは落ち着きを覚えろ」


カエデたちを見つめた後、木刀を持ってナナセたちの前に立つ。


「おやおや……鬼神様が直接立ち会いなされるのですか?」


カナヤが声をかけながら、ヤナギの上着を預かる。


「この者たちは面白い」


「だからこそ、どのように変化したか気になってな」


「――三人まとめて相手してやろう」


想定外の展開に驚くナナセたち。


三人で目を合わせるが、そこには戸惑いはなかった。


口元に笑みを浮かべながらヤナギに向き合うナナセ。


「光栄だね」


「この島一番の剣を知れるなんて」


「それは、儂の剣を引き出せてから言うべきだな」


「ルールは?」


ナナセが尋ねる。


ヤナギは即答する。


「自由だ」


「魔法を使ってもいい」


「百日の答えを見せてみろ」


サツキとヒナノがヤナギに距離を詰める。


だが、最初に仕掛けたのはナナセだった。


地面が揺れ、尖った岩石が地中からヤナギに襲い掛かる。


岩石を簡単に弾くヤナギ。


隆起する岩の力に逆らわず、その隙間を縫ってヒナノが駆ける。


岩石が弾かれた直後、ヤナギへ斬りかかった。


「この地面の中、ここまで接近できるとはな」


「タイミングもいい」


ヤナギの言葉にヒナノが笑みを浮かべる。


「ナナセが何するかなんてわかって当たり前だよ」


木刀で切り結んでいる二人。


その間、サツキは逃げ道を塞ぐように後ろに回り込んでいた。


「後ろへ退くと思っていました」


「……いいタイミングで現れる」


サツキとヒナノで挟撃する。


ヤナギは左手でヒナノの手首を押さえ、大剣の軌道を止める。


同時に、右手の木刀だけでサツキの双剣を捌いていく。


「……片手で双剣を捌くなんて」


「ですが――私たちに集中しすぎです」


死角からナナセが接近する。


サツキを押し返し、後ろへ退くヤナギ。


その足元で、砂が小さく舞い上がった。


ヒナノが地面へ触れ、砂へ一気に熱を流し込む。


赤く溶けたガラスが回転する。


工房で何度も繰り返した動きを、魔力で再現するように。


丸みを帯びたガラス瓶が形作られ、ヤナギの踵へ転がり込んだ。


「……器用な真似を」


わずかに体勢を崩しながら、ヤナギがヒナノを見る。


「グラスだけじゃなくて、瓶も作ってたからね」


「砂と火なら、ここでも作れるみたい」


体勢を崩したヤナギへ、ナナセとヒナノの木刀が襲いかかる。


ヤナギは転がる瓶を、戯れるように左手で拾い上げる。


右手の木刀と合わせて二人の攻撃を捌いていく。


“届かない”


だが――それでいい。


両手が塞がった、その瞬間。


死角へ回り込んでいたサツキが踏み込む。


仕留めるための連撃。


「――見事だ」


ヤナギの口から、感嘆の声が漏れた。


“取った”


――だが。


空気が変わる。


「儂の剣を一つ見せてあげよう」


気づけばナナセたちの木刀は切断されていた。


そして、ナナセの喉元には木刀が突きつけられていた。


三人が動きを止める。


静寂が修練場を包む。


「……何したの?」


思わず呟いてしまうナナセ。


「呼吸を読み、速く斬った――ただ、それだけだ」


「……今のって」


呟くサツキを見つめるヤナギ。


「この技は、お嬢さんならいつかできるかもな」


「――ノワキの剣とキショウの剣を混ぜた」


ヤナギの言葉に目を開くサツキ。


「三人とも強くなった」


「だが、剣とは無限であり終わりなどないものだ」


「――これからも精進したまえ」


ヤナギと入れ替わりでカナヤが三人の前へ歩いてくる。


そして、小さく頷いた。


「……素晴らしい剣だった」


ヒナノが笑う。


「負けたけど?」


「最初から鬼神様に勝てるなんて思っていない」


「しかも……お前は負けたなんて思っていないだろ?」


「誰よりも次を考えている」


カナヤの言葉に笑みを返すヒナノ。


一息ついた後、カナヤは静かに答える。


「見ていたのは剣だ」


「いや――人だな」


「儂ら鍛鬼は、ただ剣を打つわけじゃない」


「人を打つ」


「お前らに合う最高の剣を打つ」


その後、少しだけ笑うカナヤ。


「……いい使い手になったな」


ナナセも笑う。


「それって――合格?」


カナヤは鼻で笑う。


「違う」


「……ようやく、武器がお前たちに応える」


静かな風が吹く。


三人の表情が変わる。


「明日から鍛冶場へ来い」


「お前達だけの剣を打つ」


三人は顔を見合わせた。


表情は明るかった。


百日の終わりと、三人が歩む新たな道の始まりを告げるように――


【第七十六話へ続く】


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