表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/103

【第六十一話】刻むもの

〈キオウ島・職人街〉


――翌朝。


「まずは工房街だ」


カエデの案内で一行は街を歩いていた。


街は朝から活気で溢れていた。


刀鍛冶の槌音。


木工職人の鋸。


陶工のろくろ。


至る所から職人達の声が響いている。


「なんか昨日より賑やかだね」


ヒナノが辺りを見回す。


「朝が一番忙しいからな」


カエデが答えた。


「この島は何かを創る者が多い」


「皆、創ることに誇りを持っている」


「へぇ」


ナナセが頷く。


「親父さんと同じこと言うんだね」


「父上の受け売りだ」


「……この島の自慢でもある」


少しだけ照れたようにカエデが視線を逸らした。


――最初に案内されたのはガラス工房だった。


巨大な炉に赤く燃える炎。


職人達が長い管を使いながら溶けたガラスを扱っている。


「――綺麗」


ヒナノが思わず声を漏らした。


ガラスが光を反射しながら形を変えていく。


まるで生き物のようだった。


「どうやって作るの?」


「砂だ」


職人が即答する。


「え?」


「砂を溶かす」


ヒナノが固まった。


「砂ってあの砂?」


「そうだ」


工房の隅に積まれた砂山を指差す。


「嘘でしょ」


「正確には珪砂といって、混ざりものが少ない砂だがな」


職人は笑う。


「そこへ鉱石を混ぜる」


棚には色鮮やかなグラスが並んでいた。


赤。


青。


緑。


紫。


「全部違う色……」


「混ぜる鉱石によって閉じ込めてる色が変わる感じだな」


「この島は鉱石も豊富だから、色の種類も多い」


カエデがグラスを一つ手に取って、ヒナノに渡す。


「こっちは切子グラスと言ってね、重ねたガラスを削って作ってるの」


「綺麗だし面白いでしょ?」


ヒナノの目が輝いていた。


目の前の切子グラスの美しさだけじゃない。


炎。


砂。


鉱石。


自分の属性と重なる――ヒナノの心情にはそんな感覚があった。


「……ガラスに色を閉じ込めるか」


職人は少し得意そうに笑った。


「昔はもっと不純物も多かった」


「だがドワーフ達が炉を改良してな」


「効率も上がったし品質も安定した」


ナナセが周囲を見る。


確かに設備は洗練されていた。


「じゃあ、量産されてるの?」


「違う」


職人が首を振る。


手元の切子グラスを持ち上げる。


陽光を受けて七色に輝いた。


「技術は学べる」


「設備も真似できる」


「だが――最後に美しくするのは職人の感性だ」


「そこだけは誰にも真似できん」


「覚悟も信念もガラスに刻んでいる」


「だからこそ、同じものは二つと作れん」


「量産品や模倣品が悪いとは言わんが……あれに俺は魂を感じない」


職人の言葉にカエデが満足そうに頷いている。


「覚悟と信念の現われか……」


ヒナノは完全に聞き入っていた。


――工房を出る直前。


ヒナノが小さな切子細工を見つける。


青く透き通った花。


「かわいい……」


思わず手に取る。


光が差し込む度に表情を変える。


「気に入ったか?」


職人が聞く。


「うん」


素直に頷くヒナノ。


「こういうの貰ったら嬉しいかも」


「誰に?」


サツキが聞く。


「好きな人かな」


ヒナノは首を傾げた。


「いや……逆かも……」


「私があげたい」


「ナナセとか喜びそうじゃない?」


沈黙。


全員の視線がナナセへ向く。


「うへぇ」


「なんで僕なの」


「だって似合うじゃん」


「……僕が作ったやつでもいい?」


「その時はお揃いにしてね♪」


「サツキとオボロの分もだよ?」


「え?」


「お揃い?」


サツキが目を開き、顔を赤くする。


オボロはため息を吐いた。


だが、満足げな顔をしていた。


カエデだけが少しだけ面白そうに笑っていた。


――その後、陶器工房、漆器工房といくつもの工房を巡る。


どこにも共通していたのは職人達の誇りだった。


そして。


街の中央付近。


大きな看板が見えてくる。


「カナヤ様だ」


「島主が来てるぞ」


そんな声が聞こえてきた。


「島主?」


ヒナノが反応する。


「今代の島主だ」


カエデが説明する。


「鍛鬼頭領でもある」


「島主は代々、鍛鬼頭領と鬼神が交互に務めている」


ナナセが苦笑する。


「変な島だね」


「誉め言葉として受け取っておく」


カエデが平然と返した。


「今はお忙しいだろうから、後日面通しを予定しておこう」


「ちなみに、カナヤ様の刀鍛冶は歴代の頭領の中でも屈指の腕前だぞ」


「……尚更、会ってみたくなったね」


「……貴様はモノづくりが好きなんだな」


「まあね」


「……そうか……この島をもっと気に入って欲しいものだな」


――やがて。


街外れへ辿り着く。


巨大な建物から、木刀の音が聞こえていた。


バシッ、バシッ。


乾いた音と気迫を帯びた叫び声が響き渡る。


「ここは?」


サツキが尋ねる。


「修練場だ」


カエデが答える。


「鬼達が腕を磨く場所」


「様々な剣派がこの建物の中でぶつかり合っている」


「もちろん、――大剣も双剣もな」


門の向こう。


木刀を振る鬼達。


模擬戦。


真剣勝負のような空気。


サツキの目が変わる。


ヒナノも同じだった。


ナナセだけが嫌そうな顔をしている。


「うへぇ」


「……絶対面倒事になる」


カエデが少しだけ笑った。


「行くか?」


二人の返事は早かった。


「行く」


「行く!」


門の向こうでは。


新たな出会いが待っていた――


【第六十二話へ続く】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ