【第五話】模擬戦
〈騎士団、訓練場〉
――観覧スペースに集まる、他の部隊長やサツキとヒナノの部下たち。
ヒナノの部下のレデとサツキの部下のヴェルとヌイが話し込んでいる。
「……2対1って、本気ですか」
「相手は支部長よ。これくらい問題ないでしょ」
レデの呟きに答えるヴェル
「いやいや、あの人まだ剣抜いてないって」
ヌイが苦笑する。
ギャラリーたちの視線の先。
ナナセは、肩の力を抜いたまま立っていた。
レデたちは部隊長の一人の近くに座り、見解を聞く。
「ガザミ隊長、どう思いますか」
ガザミと呼ばれた男はナナセから視線を外さずに答える
「あの若さで支部長なんだから、勝ち筋は見えているんだろ」
「じゃなきゃ剣聖相手に2対1なんて馬鹿がやることだ」
「若いだけの馬鹿じゃないといいがな……」
『剣聖』
――優れた剣術の持ち主の称号の一つである
最上級の称号ではないが、それでも100人単位の騎士に匹敵すると
言われている――
「……じゃあ、始めようか」
その声は、どこか軽い。
訓練場の中に霧が発生し始める。
次の瞬間。
サツキとヒナノの影が、わずかに揺れた。
二人の影の中から数発の魔弾が襲い掛かる。
――先に仕掛けたのは、ナナセだった。
魔弾を難なくいなして、サツキが動く。
双剣に風と水の魔力をまとい、ナナセに向かい魔法を放つ。
――霧の中で風が裂け、水の魔弾が飛ぶ。
無数の斬撃と魔弾がナナセに襲い掛かる。
サツキは手を休めないまま一歩、二歩と近づいていく。
手数が異常だった。
「……いきなりトップギアだ」
ヴェルの声が漏れる。
ナナセは、わずかに後ろへ流れながら紙一重でかわしていく。
「……押してる?」
ヌイの声に、確信が混じる。
サツキは止まらない。
足元に風をまとい一気にナナセに迫る。
――捉えた。
だが。
ナナセの位置がわずかにズレる。
斬撃は、空を裂いた。
「……っ!ズレた!?」
当たるはずの軌道が、当たらない。
それでも、サツキは踏み込む。
迷いはない。
ただ、斬りかかる。
ナナセに反撃のすきを与えない。
ナナセに本命を悟らせない。
不意にサツキが宙返りをして、ナナセを跳び越す。
ナナセは頭上のサツキを目で追うが、すぐに正面を向き左へ避ける。
ヒナノの大剣が、ナナセがいた場所の地面をえぐる。
そのままヒナノは剣から片手を離し、ナナセに向けて火の玉を放つ。
――間髪入れずにもう一撃。
ヒナノの足元から鋭い岩が生成されナナセに襲い掛かる。
同時に、サツキが横から斬撃と魔弾を飛ばしてくる。
「逃げ場は…ないよっ!」
ヒナノの声が弾ける。
完全な連携。
完全な圧殺。
ナナセは、初めて防御に回った。
右手を正面から右に流して、防御壁を作成し二人の魔法をいなす。
最初の余裕な表情がほんのわずか削れる。
「……いいね」
ナナセが、わずかに笑う。
「ちゃんと強い」
その声に、温度差があった。
だが二人は止まらない。
さらに接近をして圧をかける。
――押し切る。
その瞬間。
ナナセが魔法を発動し、周りの温度が下がる。
水が、凍る。
足が、滑る。
雹が、頬をかすめる。
「……めんどくさい!」
「ヒナノ!攻撃を止めちゃダメ!」
ヒナノも頷く。
――ターゲットから目を離してはいけない。
――ナナセから目を離したくなかった。
「『氷雪弾』」
ナナセが魔法を発動すると。
頭上から雪に混ざって氷の魔弾が二人に襲い掛かる。
サツキが水の防御壁を展開し、ヒナノは炎で焼き払う。
すべて、処理できている。
――はずだった。
「……っ!!」
サツキの目が開く。
次の瞬間。
水の防御壁が凍り氷の壁に変わる。
外側ではない、内側から。
「……っ、内側から!?」
「私の魔力に干渉してる!?」
サツキとヒナノは距離を取る。
――だが。
ナナセは追い打ちをかける。
「『双鯱』」
二匹のシャチ型の魔弾が、不規則に泳ぎながら二人に襲い掛かる。
サツキが風魔法の斬撃で牽制し、ヒナノの土壁と炎壁で対応する。
――片方のシャチは、ヒナノの近くで土壁とともに崩れ去る。
しかし、もう片方のシャチは炎に触れた瞬間に爆発し、
水蒸気があたり一面に広がる。
視界が悪くなり、水蒸気の中から二本のつららが襲い掛かる。
二人はかろうじて反応する。
――回避。
完璧な判断。
――そのはずだった。
ヒナノの足が、泥沼に沈む。
「ヒナノ!」
「止まらないで!」
ヒナノは泥沼に捕らわれながら、ありったけの魔力で炎の魔弾を
生成する。
サツキは風魔法と双剣を使い水蒸気を晴らす。
「『豪炎弾』」
ナナセを見つけたヒナノは巨大な炎の魔弾を放つ。
サツキは、ヒナノの最後の攻撃に、自身の風魔法を重ねて加速させる。
ナナセの想像以上の速さで、巨大な炎の魔弾が襲い掛かる。
二人の合わせ技。
二人の最大出力。
――これで決める。
――これは避けれない。
観客含め誰もがそう思った。
……ナナセは剣を構え、大きく息を吸う。
空気が変わる。
刀と魔弾がぶつかり鍔競り合いとなる。
ヒナノの瞳が、わずかに揺れる。
――捉えた。打ち勝てる。
泥沼に埋まり、動けないヒナノは勝利を信じていた。
だが。
「まだだよ?」
ナナセの余裕気な声が響く。
魔弾が切られ爆発する。
――噴煙は晴れるが、ナナセの姿が消えている。
「……」
サツキの意識が研ぎ澄まされる。
下…上……
その一瞬。
影が、揺れた。
「ここね!」
サツキは自身の陰に剣を突きつける。
「――はい。終わり」
背中に刃を突きつけられているサツキ
ナナセは、そこにいた。
最初から、そこにいたかのように。
静寂が広がる。
「……は?」
ヌイの声が震える。
「理解が……追いつかない」
ヴェルも息を呑む。
レデは、ただ前を見ていた。
「さっき凍らせた、サツキ隊長の水の魔法壁から出てきてた……」
「いったいどうやって」
ガザミが視線を細める。
「一体いくつの属性を使った……」
「一体いくつの魔法が使えるんだ……」
――ナナセは剣を収める。
「最後の合わせ技すごかったね」
その声だけが、場の空気から浮いていた。
「でも」
ナナセは小さく笑った。
「――まだ負けないよ」
誰も、言葉を発せなかった。
誰もが、支部長の規格外の強さを目の当たりにした――
【第六話へ続く】




