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【第五十二話】超新星

〈世界樹内部・根の流路〉


エトの呼び声で、白髪の女の子と黒髪の男の子のような精霊が

出現する。


「ナナセ、久しぶり!」


「ポラリスは?いないの?」


「二人とも久しぶりだね」


「……でも、おしゃべりはあれを片付けてからかな」


精霊たちのおしゃべりは止まらない。


「ナナセ、左腕がない!」


「けじめ?ついにやらかした?」


「それとも、これから怒られるやつ!?」


だが、賑やかな雰囲気は長くは続かなかった。


「……シェルナ、ステラン?」


エトの低い声に二体の背筋が伸びる。


「なんで私の周りは、弟子も精霊も騒がしいのしかいないのよ」


「たまには、落ち着いていて欲しいわね」


(類ともなんだよなぁ……)


誰もがそう思うが口には出せなかった。


「……なによ……変なこと言ってないわよ?」


苦笑いを浮かべるナナセ。


「ほら、“向こう”は待ってくれなさそうだよ」


「エトと違って落ち着きがないからね」


目を向けると、人影が揺れノイズ混じりの笑い声が響く


「――それもそうね」


「さてと、始めるわよ」


「『双児宮』」


両手を人影に向けて構えるエト。


その背面に星座線が浮かび上がり、二体の精霊と繋がる。


「……改めて見ても原理がわからん」


グランリーの呟きが漏れる


「エトだけの魔法だからね」


「これは、精霊と自分の繋がりを強化する魔法だね」


エトと二体の精霊の身体が淡く光っていた。


「星の並びが人や動物に見えるんだって」


「――自由すぎるよね」


ナナセがエトの背中を眺めながら答える。


「おじさん、僕らはエトの準備が終わるまで足止めね」


「策はあるのか?」


「ただ攻撃しても、浸食されて解除されるぞ」


「あれは、魔力や精霊流を浸食している」


「なら、浸食される前に再構築すればいいんだよ」


「キャンバスの色が常に変わるようにね」


エトの前に立つナナセとグランリー。


「それと、おじさんもまだ本気出してないでしょ」


「――あまり年上を煽るものじゃないな」


「痛い目を見るぞ」


肩をすくめるナナセ。


小声でグランリーに答える。


「大丈夫――師匠で慣れてるから」


「――貴様は痛い目にあった方がよさそうだな」


「来い――ルパステ」


グランリーの声に応じて、砂嵐が巻き上がる。


風は至る所に砂を運び、ナナセは喉の渇きを覚える。


そして。


――砂嵐の中から一体の黒いジャッカルが現れる。


「……犬みたい」


「知らんのか?ジャッカルだ」


「……違うでしょ」


「――大精霊でしょ……」


両手を構えながらエトが二人をジト目で見つめる。


「人型じゃないのは珍しいわね」


「でも、間違いなくかなりのクラスの大精霊よ」


「エルフに認められて嬉しいとしておこうか」


『私もこの場所に呼ばれたことを嬉しく思うよ』


『目の前の存在がいなければ尚更ね』


「――では、仕事といこうか」


ゲランリーが魔法を展開し、ルパステがさらに補強する。


重厚な砂嵐が人影を閉じ込める。


「その砂、少し借りるよ」


ナナセの魔力に反応し、粒子同士がぶつかり合う。


――バチバチバチバチ


砂粒を核に、雷をまとった鉱石が形を成す。


「『雷鉱梶木』」


鉱石が鋭い吻をもった魚型に変わり、砂嵐の中で自由に泳ぐ。


「この群れを対処できるかな?」


放電と共に全方位から人影に襲い掛かる。


数匹は浸食されるが、対処しきれずに人影を貫く。


「――人の魔力をごっそり持っていきよって」


砂嵐を見ながら、顔を引きつらせているグランリー。


額からは汗が落ちていく。


『構わん……もっと持っていけ』


『私がいるからな』


「助かるねぇ」


「内部の鉱石を増やさないと、どんどん浸食されるんだから」


「それに――」


「僕はこの後のために温存しないといけないからね」


後ろを振り返るナナセ。


――エトと精霊たちの体が七色に輝いていた。


「――いいわ」


「いつでもいけるわよ!」


エトの声に反応して砂嵐が解かれ、砂塵が人影を囲む。


――ノイズ混じりの怒号が響く。


人影の上空に星座線が浮かび上がる。


「「『獅子宮』」」


――重く、透き通った声が響き渡る。


星座線が光の獅子に変わり、巨大な牙が黒い人影へ喰らいつく。


獅子から魔力が人影に流れていく。


だが。


獅子の体が赤黒く浸食されていく。


「くそっ、あの魔力量でもダメなのか」


焦るグランリーを尻目にナナセが右手を構える。


「……いや、これからだよ」


「ふふふ……そうよ、これからよ」


「ライオンは一度噛みついたら離さないのよ!」


「――内側からだとしてもね!」


その瞬間、人影は内部で爆発を繰り返しながら膨らんでいく。


「ほら、ナナセももっと魔力を込めなさい!」


「ライオンは最強の生物なのよ!」


「今日の気分がライオンだっただけの癖に……」


「……あなたのために、もう一体出してもいいのよ」


「……噛みつかれるのはエルフだけで十分だよ!」


ナナセの魔力量が増えていく。


エトがドヤ顔を浮かべている。


「失礼な言葉にも聞こえたけど……」


「――聞かなかったことにしてあげる」


「さてと――」


「食らいなさい、異形の悪意よ」


左手で右手首を掴み、右手を力強く握る。


右腕が震えだす。


ナナセの右手にも力が籠る。


上空の星空が一つ、また一つと輝きを失っていく。


「……星の輝きよ、世界を変える輝きよ」


「数多の輝きは、始まりを迎えるために終わりを迎える」


――エトを包む輝きが増していく。


「『超新星(スーパーノヴァ)』!!」


エトの叫び声が響く。


ノイズ混じりの叫び声が響く。


人影が、中心に向けて収縮されていく。


――キュイィィィン


高音の圧縮音だけが響き渡る。


「……おいおい、これ大丈夫なんだよな」


「踏ん張りなさい」


「男の子でしょ」


音が止む。


今までが嘘だったみたいに、静寂が世界を包む。


――その刹那、轟音と暴風が鳴り響く。


中心からはすさまじい衝撃波が発生し、砂塵ごと全てを吹き飛ばす。


ナナセたちの身体が、堪えきれずに後ろに下がっていく。


シェルナとステランは楽しそうに飛びまわっている。


ルパステは優雅に砂塵を顔で受け止めていた。


――数十秒後、改めて静寂が訪れる。


――黒い人影は、跡形もなく霧散していた。


星空が戻り、侵食されていた根が元の光を取り戻していく。


精霊流も静かに巡り始める。


「……終わったわね♪」


「すっきりしたわ」


「――バケモノの師もバケモノか」


グランリーが低く呟く。


その瞬間、根が光りだす。


星々が共鳴する。


まるで。


世界樹そのものが、安堵したように。


その瞬間――


光の空間から、一人の女性が現れる。


全員息を呑み、視線が集まる。


長い髪。


静かな瞳。


夜空と根の光を纏うような存在。


――空気そのものが穏やかになる。


エトが静かに頭を下げる。


グランリーが目を細める。


「……ようやく本題に移れるみたいだな」


女性に対し笑みを浮かべるナナセ。


「……僕らを呼んだのはなんでなのかな?」


ナナセの問いかけに対し、女性が少しだけ微笑む。


「初めまして、名を与える子」


静かな声だった。


「私は、ハルモニア」


「――調和を司る始原の精霊です」


星々が、優しく瞬いた――


【第五十三話へ続く】


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