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【第四十九話】二人の精霊魔法使い

【第四十九話】二人の精霊魔法使い


〈世界樹外縁・西側戦線〉


赤い閃光が迫っていた。


空そのものを焼き潰すような光。


大気が悲鳴を上げている。


森が軋む。


精霊たちが怯え、小さな光となって木々の陰へ逃げ込んでいく。


「……っ」


ナナセが左手を前へ出す。


「防ぐのではないな」


グランリーが低く呟く。


「――飲み込む気か」


ナナセは苦笑した。


「防ぎきれないからねぇ」


「それに、結界に触れさせられないからね」


左手へ、魔力が集まる。


「あんなのどうやって取り込むんだ」


「魔力なら、まだ組み替えられると思う」



――侵食されるなら、その前に組み替える。


――崩壊するなら、定義を書き換える。


「ポラリス……少し無理させるよ」


『うん!』


魔力が左腕に渦のように集まりだす。


「……磁場を解け」


低く呟くグランリーに目を向ける。


「余波を抑える」


「貴様一人では抱えきれんだろ」


短い沈黙。


ナナセは苦笑した。


「……ほんと、面倒見いいよね」


「勘違いするな」


「世界樹を巻き込みたくないだけだ」


ナナセが小さく笑う。


グランリーが斧を地面へ突き立てる。


――ゴォォォォッ!!


大地が震え、砂嵐が舞う。


「これで少しは時間も稼げるだろう」


そのまま巨大な砂壁が周囲を包み込む。


視界が閉ざされる。


その全てから切り離すように。


「おじさん?」


「邪魔が入る」


「この方が貴様も都合がいいのだろう?」


左手を構えたまま苦笑いを浮かべるナナセ。


〈砂嵐の外側〉


「ナナセ様!!」


オボロが砂壁へ駆け寄る。


だが。


砂嵐は近づくほど密度を増し、触れた瞬間に肌を裂こうとしていた。


「通してください!!」


闇が走る。


だが、砂壁は崩れない。


グランリーの声が、砂嵐の奥から響いた。


「こっちに来るな!」


「……っ!」


オボロが唇を噛む。


サツキたちも、森の奥からようやく辿り着いていた。


折れた剣を握るサツキ。


ヒナノも、大剣を支えながら空を見上げる。


誰も、近づけない。


赤い光だけが、砂嵐の向こうで膨れ上がっていた。


〈砂嵐の内側〉


神焉砲が到達した。


――ゴォォォォォォォォッ!!!


赤い奔流。


侵食。


崩壊。


ナナセの左腕の光りが強くなる。


「――『再構築』」


赤い光が、左腕へ収束していく。


全てを、無理やり飲み込んでいく。


「ぐっ……!!」


グランリーがナナセを見る。


左腕、そこへ集まる魔力を見て、眉をひそめた。


「少しはこっちにも回せ」


「これ以上はきつくない?」


「年寄り扱いするな」


「それに――帝国軍将軍を……帝国の精霊魔法使いをなめるな」


肩をすくめながら魔力を調整するナナセ。


ナナセとグランリー、二人の精霊魔法使いにより塞がれる悪意の奔流。


世界樹の根が光り、二人に魔力を流し込む。


だが。


――パキッ。


小さな音。


ナナセの左手の指先へ、黒いひびが走った。


『ナナセ……』


ポラリスの声が震える。


次の瞬間。


ナナセが小さく首を振った。


「……ダメ」


『え?』


「これ以上は、ポラリスまで壊れる」


ポラリスの目が揺れる。


『まだいける!』


『もっと貸せるよ!』


「ダメ」


『一人で決めないで!!』


『相棒だし家族じゃん!!』


ナナセは笑った。


いつもとは違う、困ったような笑みを浮かべる。


「ここから先は、僕だけでやる」


ポラリスが息を呑む。


ポラリスを結界で隔離する。


『ちょっと!!ナナセ!!』


結界を叩くポラリスを、ナナセは振り返らない。


次の瞬間。


左腕へ、さらにひびが走る。


手首。


肘。


肩。


黒い亀裂が広がっていく。


血ではない。


存在そのものが、崩れ始めていた。


『ナナセ!!』


ポラリスが叫ぶ。


だが。


ナナセは止まらない。


左手へ、膨大な魔力が集中していく。


「まだだ……!」


グランリーの砂嵐が、周囲へ漏れ出す余波を押さえ込む。


それでも、神焉砲は止まらない。


「小僧!!」


グランリーが叫ぶ。


ナナセの左腕。


肩口まで、完全に侵食されていた。


黒い亀裂が顔へ伸び始める。


その瞬間。


ナナセが、小さく息を吐いた。


「……オボロ」


砂嵐の向こう。


オボロが顔を上げる。


「“根”は繋がってるから」


「あと……ポラリスを頼んだよ」


オボロの目が見開かれた。


「……嫌です」


震える声。


「そんな言い方、嫌いです」


ナナセは少しだけ笑った。


「ごめん」


そのまま、ポラリスと目が合うナナセ。


ポラリスはまだ結界を叩いていた。


『ナナセのバカ!アホ!過保護!』


「……ポラリス、ごめんね」


次の瞬間。


ナナセが剣を抜く。


そして。


迷いなく、自らの左腕を切り落とした。


「――っ!?」


オボロの声が止まる。


宙を舞う左腕。


その瞬間。


世界樹の根が、世界樹の葉が――一斉に発光した。


「なに……」


ヒナノが呆然と呟く。


強い閃光。


激しい精霊流。


それら全てが、ナナセとグランリーを包み込んでいく。


グランリーが目を見開く。


「これは――」


次の瞬間。


赤い閃光が、砂嵐と共に飲み込まれていく。


――視界が白く染まる。


森が揺れ、空が裂ける。


誰も声を出せなかった。


やがて。


ゆっくりと光が落ち着く。


静かに砂嵐が晴れていく。


「――ナナセ様」


オボロがナナセがいた場所に駆け込んでくる。


だが。


そこにはナナセもグランリーもいなかった。


ただ。


ナナセの左腕が灰のように崩れていた。


ボロボロと――目の前で存在が砕けていく。


そして。


世界樹だけが、静かに光っていた――


【第五十話へ続く】


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