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【第四十六話】精霊に愛された者たち

〈世界樹外縁・西側戦線〉


――炎が森を染めていた。


ナナセに向かい戦列を整える帝国兵。


「第三列、前進!」


「魔導兵器を前へ出せ!」


怒号が飛び交う。


だが。


中央に立つ男――グランリーだけは、静かだった。


「……火を広げるな」


低い声が響き、近くの兵士が慌てて振り返る。


「し、しかし閣下!」


「森ごと焼かねば――」


「目的を忘れたか」


グランリーの目が細くなる。


「我々は世界樹の実を奪いに来た」


「灰を作りに来たわけではない」


兵士が押し黙る。


その時だった。


前方の戦列が吹き飛ばされていく。


粉塵の中、ナナセが歩いてくる。


「支部長なだけはあるか……」


斧を構え直すグランリー。


「前回のエルフの神官も厄介だったが……」


「こちらも骨が折れそうだな」


ナナセは苦笑した。


「……その斧には魔石は組み込まれていないんだね」


グランリーは淡々と返す。


「あんな無粋なものは好かん」


「流行りの武器より、馴染みの武器を使うべきだろ」


「――森を相手にするなら尚更な」


短い沈黙が広がる。


燃える木々が音を立てて崩れていく。


ナナセの視線が、その炎へ向く。


逃げ遅れた小精霊が、火に怯えるように震えていた。


「もう一度言おう……」


「世界樹を焼き払うつもりで来たわけではない」


ナナセは肩をすくめた。


「説得力ないよねぇ」


「なら、これで聞く耳を持つか?」


グランリーを中心に砂埃が舞う。


「なっ……!?」


「将軍……!何を!!」


砂埃が帝国兵を飲み込みながら広がっていく。


砂埃の嵐の内側でグランリーと向き合うナナセ。


「……この規模」


「精霊と契約してるんだね」


「――だから俺がここにいる」


「世界樹への被害を最小限にしながら任務を完遂できるのは、

俺しかいないからな」


砂埃が炎も飲み込んでいく。


「……精霊魔法使いが、精霊の地を壊してどうするの」


「それに、味方ごと巻き添えにするなんて」


「指示を厳守しない部下などいらん」


「精霊に敬意を示さぬ部下は、もっといらん」


「ここまでするのに、何で帝国軍にいるの?」


「偉くならないとやりたいことはやれないのだよ」


「……若さと実力だけで国は変わらん」


「――汚れてでもな」


砂塵がさらに渦を巻く。


その一粒一粒に、殺意のような魔力が宿っていた。


「…………これだけ喋っておいて、なぜ倒れん」


グランリーに向けて口角を上げて答える。


「すごく精密だよね」


「こんな細かい砂塵の中に魔力を込めるなんて」


「……いつ気づいた」


「最初から」


「吸い込むことで体内から攻撃する仕掛けなんだよね」


「……性格悪いね」


「――効率的と言ってほしいな」


「なら、次の手といくか……」


ナナセに向かい先端の尖った岩が飛んでいく。


剣を抜き迎撃するナナセ。


「剣も使えるとは……」


「これならどうだ」


ナナセの足元から岩のつららが襲い掛かる。


水の魔法壁で防御するナナセ。


「……こんなに乾燥していても、その水量か」


観察を続けるグランリーの足元が隆起しだす。


「――おじさんの視線は興味ないよ」


今度は、グランリーの足元から岩のつららが襲い掛かる。


グランリーに当たる直前で砕け散る。


「土は俺のテリトリーだぞ」


「ならこっちは?」


根が地面から突きあがる。


目を開き驚愕するグランリー。


斧で切り落とすが、次から次へと根が襲い掛かってくる。


「……この森の植物を操っているだと!」


まるで、森そのものが、ナナセに力を貸していた。


(人間……だよな?)


「こんなことをエルフ以外にできるなんて聞いたことないぞ!」


「……貴様」


「――特別な精霊に愛されているな」


ナナセは困ったように笑った。


「おじさんほどじゃないと思うけど?」


「大精霊との契約者なんて久しぶりに見たよ」


その言葉に。


グランリーの目が、ほんの僅かに揺れた。


――自分の契約精霊を見抜かれた。


「帝国にいるのがもったいない人材だよね」


「……」


グランリーが斧を握り直した瞬間だった。


――ゴォォォ……


大地が低く唸る。


周囲の砂塵が、意思を持つように揺れた。


ナナセの肩で、ポラリスが小さく息を呑む。


『……この精霊、強い』


同時に。


世界樹側から、風が吹いた。


森がざわめく。


グランリーの目が細くなる。


「……なるほど」


「これほどの精霊は見たことがないな」


ナナセとグランリー。


特別な精霊に愛された者同士の視線が交差する――


〈帝国軍後方陣地〉


――そのころ。


天幕の奥。


黒布で覆われた荷台が揺れていた。


――ドクン。


何かが脈打つ。


エフレモが目を細める。


「これが、新型ですか」


「にゃはは」


パシャが笑う。


「そうそう」


「今回は、かなり頑張って作ったらしいよ?」


黒布の隙間から、鈍い赤光が漏れていた。


まるで。


生き物の鼓動。


エフレモの口角が吊り上がる。


「素晴らしい……」


「これなら、邪魔者もまとめて消せる」


パシャは笑ったまま、その横顔を見る。


その視線には、僅かな嫌悪が滲んでいた。


(……こんな得体の知れないもの、本当に使う気なんだ)


荷台の奥から伝わる気配。


器というより。


何か別の、生きた“素材”。


その異質さが余計に気持ち悪かった。


だが。


エフレモは気づかない。


「じゃ、私はこれで退散します」


「“支援者”は戦果を期待しておりますから」


パシャに見向きもせずに、新型の“器”に見入る。


黒布の奥で。


――ドクン。


“何か”が、再び脈打った――


【四十七話へ続く】


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