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【第四十四話】森を守る者たち

〈世界樹外縁・北西結界域〉


轟音が森を揺らしていた。


結界越しに放たれる魔導砲撃。


爆炎。


衝撃。


結界膜が、悲鳴のように軋む。


「第五結界柱、負荷上昇!」


「北西流路、三割減衰!」


神官たちの叫びが飛び交う。


ロゼを含めた白衣の神官たちは、結界柱へ魔力を流し続けていた。


昨夜の祭儀で、精霊との繋がりは回復している。


だが。


額には汗が流れ、呼吸も荒い。


侵攻開始から休む暇はなく、再び消耗が始まっていた。


――それはエルフたちだけじゃなかった。


精霊たちの光も弱い。


それでも、神官の肩へ寄り添いながら、必死に流れを支えている。


「外道どもが!!」


ブレルの声が響いた。


森宰の杖が地面へ突き立てられる。


――ゴゴゴゴッ!!


地面から巨大な根が突き上がった。


結界を突破しかけていた異形兵たちの足を拘束する。


「今だ!」


その声と同時に、樹上から銀閃が降り注いだ。


エルフ剣士たちの、長命種ゆえに積み重ねられた技量。


その剣速は、剣聖級のサツキにも劣らない。


――ザシュッ!!


異形兵の首が飛ぶ。


さらに別方向では、槍を持つエルフが魔法陣を展開した。


風刃と雷撃の同時攻撃。


侵入してきた虫型異形兵をまとめて吹き飛ばす。


だが――終わらない。


森の奥から、次々と異形兵が流れ込んでくる。


「数が多すぎる……!」


近衛の一人が息を荒げる。


白銀の装束は既に血で汚れていた。


「下がるな!」


「我々は森を守るために存在しているのだ!」


ブレルが即座に叫ぶ。


その目にも疲労は浮かんでいた。


森宰として、この国の防衛線を崩すわけにはいかなかった――


〈後方支援域〉


ナナセは戦場全体を見渡していた。


サツキとヒナノはすでに前線へ出ている。


オボロは結界維持班との連携に回っていた。


「第四結界柱、流路補助完了」


「北側神官隊へ伝達します」


淡々と指示を飛ばすオボロ。


今は情報と流れを繋ぐ役目だった。


ナナセは空を見上げる。


「……まだ本命じゃない」


『うん』


ポラリスが静かに答える。


『嫌な感じ、ずっと奥にいる』


帝国主力部隊の奥に、まだ姿を見せていない“何か”。


それを感じていた。


だからこそ、ナナセは動かない。


敵主力が出た時点で即座に対応できる位置を維持していた――


〈前線域〉


「左から来る!」


サツキが叫び銀髪が翻る。


――キィン!!


双剣が異形兵の鉤爪を受け流す。


「遅い」


直後、異形兵の首筋へ氷刃が走った。


――パキィッ!!


凍結。


そのまま首が落ちる。


だが、横から別個体が突進してくる。


「邪魔っ!!」


ヒナノの大剣が横薙ぎに振り抜かれた。


轟音と共に異形兵がまとめて吹き飛ぶ。


生き延びた個体をエルフ槍兵たちが即座に串刺しにした。


「助かる!」


「そっちも!」


剣聖とエルフ剣士部隊の連携。


だが、疲弊が見えていた。


呼吸、魔力、精霊流……


長時間の防衛で確実に削られている。


それでも。


誰一人として退かない。


「世界樹へ近づけさせるな!」


「結界班を守れ!」


森全体が、戦場になっていた。


その時だった。


――ズズン。


重い振動が鳴り響く。


サツキの目が細くなる。


「……来る」


前方から倒木が飛んでくる。


そして、巨大な影が現れる。


異形兵。


だが、今までとは違った。


両腕が刀身へ変異している。


背中からも左右に二本ずつ手が伸び、先端は鋭い爪が伸びていた。


そして。


顔半分を覆う黒い甲殻と、複数の眼。


蜘蛛のような複眼がサツキたちを捕らえている。


「……剣士型?」


サツキが眉をひそめる。


「……どっちかというと蜘蛛型じゃない?」


ヒナノが見た瞬間、嫌悪感に顔が引きつった。


その瞬間。


異形兵が消えた。


「っ!?」


火花が散る。


サツキの双剣が咄嗟に斬撃を受け止めている。


重く速い。


蜘蛛型異形兵が、剣術を使っていた。


「うそ……」


さらに後方。


もう二体。


別方向から同時に飛び込んでくる。


「ヒナノ!」


「任せて!!」


大剣が振り上がる。


――轟ッ!!


衝突とともに森が震えた。


だが。


蜘蛛型異形兵は吹き飛ばない。


逆にヒナノの足元が、地面を削りながら後退した。


「……硬っ!?」


喉が壊れたような音を漏らし、蜘蛛型異形兵が嗤う。


そして――剣を構える。


サツキの表情が変わった。


「これ……ただの実験体じゃない」


「元は、かなりの剣士よ」


エルフ剣士たちも加勢へ入る。


四方向から同時斬撃。


だが。


蜘蛛型異形兵は、複数の刀腕で受け流した。


――ギィィン!!


「っ……!」


衝撃でエルフ剣士の一人が吹き飛ばされる。


ブレルが即座に杖を振る。


「拘束しろ!」


根が突き上がる。


異形剣士の脚を絡め取った。


その瞬間。


サツキの姿が消える。


銀閃――首元への一撃。


さらに。


逆方向からヒナノが飛び込んでいた。


「――砕けろっ!!」


二人の同時攻撃が蜘蛛型異形兵を襲う。


轟音と共に、異形剣士の首が吹き飛ぶ。


――何とか一体倒すが、サツキは息を荒げていた。


ヒナノも、大剣で身体を支えながら呼吸を整えていた。


――強い。


今までの異形兵とは別格だった。


だが。


森の奥では、まだ複眼が多数揺れていた。


木々の間。


残る異形剣士たちが、静かにこちらを観察している。


――その瞬間だった。


戦場の音が、遠くなった。


結界の外。


一人の男がサツキたちを見ていた。


白い軍装に黒髪と細身の身体。


腰には、異様に長い太刀。


そして、左右で色の違う瞳。


片方は黒。


もう片方は、鈍く光る金色。


――サツキの背筋へ悪寒が走る。


本能が叫んでいた。


“近づくな”


ヒナノからも笑みが消える。


「オッドアイにあの太刀……」


「――なんで“剣帝”がいるのよ?」


森の風が止まった。


男――キショウの指が、ゆっくり鞘へ触れる。


その仕草だけで、サツキの喉が、無意識に鳴った――


【第四十五話へ続く】


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