【第三話】再会
――サツキと呼ばれた女性とナナセの視線が交差する。
「……何しに来たの」
「赴任」
「は?」
サツキの眉がぴくりと動く。
ナナセは軽く肩をすくめた。
「今日からここの支部長だよ。通達来てるでしょ?」
一瞬、沈黙が落ちた。
「……は?」
サツキは本気で呆れた顔をした。
その時だった。
「サツキー!何騒いで――」
奥から明るい声が聞こえてきた。
金髪の女性騎士が駆けてくる。
そして、足が止まった。
「……え?」
大きな目がナナセを見つめる。
「ナナセ?」
ナナセは苦笑する。
「ヒナノもいるのね」
「イセさんとイルドは知ってて黙ってたね……」
次の瞬間。
「ナナセだぁ!!」
ヒナノは勢いよく抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと」
ナナセがよろめく。
「ほんとにナナセ!?生きてた!」
「やぁ、ヒナノ!……死んだことになってたの?」
「会いたかったぁ!」
「相変わらずだね。僕も会いたかったよ」
「ヒナノ、離れなさい」
サツキが冷たい声で言った。
ヒナノは不満そうにナナセにしがみついたまま言う。
「えー、いいじゃん」
「よくない」
ナナセも不服そうな顔をする。
「えー、いいじゃん」
「よくない!」
語気を強めたサツキを、ナナセはわざと煽る。
「ほら?サツキもおいでよ?」
サツキはヒナノを引きはがしナナセを睨んだ。
「……七年よ」
「何も言わずに消えた」
「生存もわからなくて、どれだけ心配してたと思ってたの!」
「私もだよ!」
笑みを浮かべているが、目には力が籠っているヒナノ。
――ナナセは少しだけ視線を外した。
「……ごめん」
「言えなかったんだ。あの時は、本当に」
「精霊関係の特務でね……」
少しだけ空を見上げる。
「当時はイセさんに文句言ったんだけどねぇ……」
「ここへの赴任はそのせいかな?」
サツキが眉をひそめる。
「……どういう意味」
「いやぁ」
ナナセは頭をかいた。
「ここの支部長はお前しか頼めないって言われたの」
「サツキとヒナノがここにいることは知らされてなかったけどね」
ヒナノが目を丸くする。
「えっ!?」
ナナセは同情を求めるように肩をすくめる。
「わざとだよねぇ、あれは」
ヒナノはナナセの腕を掴んだまま嬉しそうに笑った。
「絶対わざとだよ♪」
サツキは小さくため息をついた。
「……相変わらずね」
ヒナノがナナセを見つめる。
「でもほんとにナナセだ」
サツキも小さく呟いた。
「……ほんとにナナセだわ」
――昔の記憶がナナセの脳裏をよぎった。
〈騎士団学校〉
ナナセの精錬された魔法。
サツキの流麗な剣術。
ヒナノの豪快な剣術。
三人はいつも一緒に訓練していた。
ナナセが二人に魔法を教え、二人がナナセに剣を教える。
どの授業でも三人は上位だった。
そして、いつしか友達以上の関係になっていた。
……そして七年前。
ナナセは、二人の前から何も言わずに消えた――
「ナナセどこ行ってたの?」
「いきなり消えるんだもん」
――ヒナノの声で現実に戻ってくるナナセ。
サツキは何も言わずに見つめている。
ナナセは軽く笑った。
「まぁ、その話はまた今度」
「まずお仕事をしないとね」
サツキは少し驚いた顔をした。
「……仕事?」
「この廃墟をまともな騎士団にしないとね」
ヒナノが苦笑した。
「前の支部長がね……」
サツキが続ける。
「ソギイ。商業ギルドと癒着してた」
ナナセは頷いた。
「そう。だから今はイセさんが取り調べしてる」
少しだけ肩をすくめて続けた。
「表向きはイセさんの下への栄転だけどね」
「でも支部への予算は本部から毎年配られてたでしょ?」
サツキは苦笑しながら答える。
「この支部の予算は、商業ギルドの承認がないと使えないのよ」
「はぁ?どういうこと」
「予算は商業ギルドに収められて」
「食堂や清掃、修繕や武具の手配は全部ギルドが担当してるの」
ヒナノが肩をすくめる。
「経理部門の外部委託って言ってたね」
「……委託しちゃいけないよね?」
サツキが続ける。
「ついでに言うと、港の警備も外部委託」
ナナセは首を傾げた。
「……委託しちゃいけないよね?」
サツキは苦笑する。
「商業ギルドお抱えの傭兵がやっていて、私たちが行くと
邪魔されるの」
ナナセは肩をすくめた。
「実力で排除できない相手じゃないでしょ?」
ヒナノが苦笑する。
「昔はそうしてたけど」
「今は領主の部下扱いだからこっちが捕まるの」
サツキが肩をすくめた。
ナナセも肩をすくめた。
「……支部長室に証拠があるといいね」
「さてと、行きますか――」
【第四話へ続く】




