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【 第三十一話】精霊魔法

〈港湾都市シドー・市街地〉


――孤児院跡地へ向かう道中。


アルルの隣には、小さな精霊がふわふわと浮かんでいた。


淡い光。


まだ幼い、不安定な存在。


だが確かに、“意思”がある。


ヒナノが目を輝かせる。


「やっぱりかわいいなぁ」


「触れるの?」


「精霊によるかなぁ」


ナナセが苦笑する。


「精霊って気難しい子も多いからね」


アルルが不思議そうに首を傾げた。


「精霊にも性格があるの?」


「あるよ」


ナナセは当然のように答える。


「好戦的な子もいるし、臆病な子もいる」


「人間好きな子もいれば、人間嫌いな子もいるね」


「鍛冶が好きな子とか、治療ばっかりしたがる子もいるよ」


「……人みたいね」


サツキが小さく呟く。


ナナセは肩をすくめた。


「実際、かなり近いと思うよ?」


「だから精霊魔法って、“属性”より“相性”の方が大事なんだよ」


アルルが目を丸くする。


「属性?」


「普通の魔法はね、自分の魔力で現象を作るんだよ」


ナナセの指先へ水球が浮かび槍状へ変形する。


サツキが肩をすくめる。


「その程度なら普通の魔法使いでも出来るわ」


「私もやるしね」


「うん」


ナナセが頷く。


「だから“変形できる=精霊魔法”じゃない」


「精霊魔法はもっと別物」


その瞬間。


ナナセが、影へ溶けて姿が消える。


アルルが息を呑む。


「き、消えた……!?」


「影へ変わったんだよ」


アルルの影からナナセの声が聞こえる。


そのまま、影からナナセが現れる。


「普通の闇魔法なら、影を武器にしたり伸ばしたりする程度」


「でも精霊魔法は違う」


「自分自身が精霊の性質へ近づく……」


「自分自身を精霊の性質に“再定義”できるんだ」


「――炎になったり、水へ溶けたり、光になったりね」


ヒナノが感心したように声を漏らす。


「やっぱり規格外だよねぇ……」


「まぁ、希少ではあるね」


ナナセは苦笑する。


「精霊側に気に入られないと契約できないし」


アルルが小さな精霊を見る。


「じゃあ、この子が私を選んでくれたってこと?」


「見極めている途中だね」


「精霊がね、“名前”を教えてくれたら契約成立なんだ」


「逆に言えば――名前を教えてもらえない限り、契約は出来ない」


「でも、気に入ってるのは間違いないよ」


ナナセは優しく答えた。


すると。


小さな精霊が、アルルの頬へぴたりと寄り添った。


「……ふふ」


オボロが静かに微笑む。


「たしかに、気に入られているようですね」


「うん!」


嬉しそうに笑うアルル。


「契約するためには、ちゃんと勉強しないとね?」


「魔法の実力も、精霊との契約には必要だから」


「うん!」


アルルが元気よく頷く。


その様子を見ながら、ナナセの視線が少しだけ柔らかくなる。


そんな中、オボロが静かにナナセを見ている。


「――ナナセ様の精霊魔法は、普通とは少し違いますよね?」


空気が少し静かになる。


サツキとヒナノも視線を向けた。


ナナセは少しだけ困ったように笑う。


「――僕の精霊は、ちょっと特殊だからね」


「会話する精霊は聞いたことはありますが……」


「お菓子を食べたりする精霊は、聞いたことありません」


「……目立たないように言い聞かせてるんだけど?」


「姿は消えています」


「お菓子だけ浮いていますが……」


遠い目で天を見上げるナナセと、苦笑いをしながらオボロに同意する

サツキとヒナノ。


「――姿を見せるようになったらまた紹介するよ」


サツキがナナセに視線を向ける。


「……で?」


「いつもの企業秘密の種明かしは?」


「……しょうがないなぁ」


「――普通の精霊魔法は、自分自身へ干渉する程度が限界なんだよ」


「でも僕たちは、ちょっと違う」


「海を足場にしたり、霧を支配したり、他人の魔法をいじったり……」


サツキがぽつりと呟く。


「……まるで世界の再定義ね」


「――これ以上は、また今度♪」


「企業秘密は安くないからねぇ」


「……それに……お仕事しないとね」


孤児院に到着する。


「地下も含めて、孤児院は結構調査したんだけどね……」


『ナナセ、そっちじゃない』


不意に声が響く。


サツキとヒナノが、眉をひそめながらナナセを見る。


「……今のがナナセの精霊の声なのね」


「……幼い女の子のような声だったね」


ヒナノが、そっとアルルを自分の後ろへ寄せる。


「……二人とも、僕をなんだと思ってるの?」


『――ナナセ』


『ふざけてる場合じゃないから』


『あっち』


風がナナセたちの近くを抜け、孤児院の中に導く。


風をたどっていくと、そこには古い壁掛け時計が時を刻んでいた。


オボロが時計の蓋を開けて内側を調べる。


「古い時計ですね」


「魔力は感じますが、魔石が動力なのでおかしくはありませんが?」


「……うへぇ、これは気づかなかったなぁ」


「何か見つけたの?」


ヒナノが問いかける。


「これ魔石で動いてないんだよ」


「ゼンマイ式だね」


ゼンマイ式と聞き、オボロの動きが止まる。


「いつの時代の時計ですか?」


「数百年前だね」


「魔石が今みたいに小型化されてなくて、普及していない時代かな」


「……なら、その魔石は何なの?」


「……鍵穴もあった?」


サツキもナナセに疑問を投げる。


「いや、鍵穴はないね」


「でも……この内部の魔石と、時計盤側の魔石を入れ替えると――」


――だが、何も起こらない。


「……あれ?不正解?」


ナナセが時計盤へ視線を向ける。


「いや……時計ってことは、こっちが本命かな」


長針を動かすナナセ。


――カチッ


――――ギギ……ギギギ……


床が、ゆっくりと開く。


「……うへぇ……開いちゃったねぇ」


「さてと、何が出てくるかな……」


床に現れた暗闇がナナセたちを招き入れる――


【第三十二話へ続く】


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