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【第三十話】残された悪意

〈港湾都市シドー・港〉


――翌朝。


港には、鹵獲された帝国軍艦が並んでいた。


騎士団員たちが距離を取りながら見上げている。


「……やっぱり、何度見ても信じられんな」


「鉄の船が海に浮いてるんだぞ……?」


ざわつく騎士団員たち。


「不用意に近づくなと言っとるだろうが!!」


港にジラズドの怒鳴り声が鳴り響いた。


額に青筋を浮かべながら、帝国軍艦の機関部を睨みつけている。


「下手に触れば暴発しかねん!」


「これは兵器だぞ、兵器!!」


「さっさと仕事に戻れ!!暇人どもが!!」


「うへぇ……朝から元気だねぇ」


ナナセが苦笑する。


「ナナセ!!」


「お前のとこの部下だろうが」


「前任の腐敗を見て見ぬふりしていた連中だ」


「ナナセ、お前個人とは別問題だからな!!」


ナナセは苦笑いをしながら、騎士団員たちに厳しい目線を向ける。


逃げるように散り散りになる騎士団員たちを尻目に、ジラズドに

話しかけるリグル。


「……で?」


「解析結果は?」


ジラズドが舌打ちする。


「わかってることは昨日と大差ねぇな」


「ドワーフ系の技術なのは間違いねぇ」


「――まともな代物じゃねぇがな」


艦内部へ視線を向ける。


「魔導機関そのものは未完成だ」


「例の“器”をいくつも使って、無理やり出力を引き上げてる」


「長期運用すれば、船ごと壊れるぞ」


シャールが眉をひそめる。


「諸刃の剣ですか……」


「実験扱いなんじゃない?」


ナナセが吐き捨てる。


「帝国は、実戦で試したってことですか……」


リグルが顎に手を当てながら喋りだす。


「今は安全なんだな?」


「鹵獲した船が、領地内で爆発したら笑えないんだが?」


ジラズドがリグルに視線を向ける。


「結界を張ってあるから、爆発しても問題ない」


「爆発させない方針は?」


「未知の技術だ」


「確約などできるか」


現状の分析結果を聞く面々。


だが、その最中もナナセの目は魔導機関と“器”から目が離れない。


――まだ残っている。


――あの嫌な感覚が。


「……気持ち悪いねぇ」


小さく呟くナナセ。


リグルが腕を組んだ。


「帝国が、これを運用レベルにしていたら厄介だな」


重い空気が流れる。


シャールが静かに口を開いた。


「ですが、少なくとも海路侵攻は一度止まるでしょう」


「主力艦隊を失った損失は大きい」


リグルも頷く。


「帝国も立て直しには時間が必要だろうな」


「……問題は、その間に何を仕掛けてくるかだが」


――同時刻。


〈帝国領国境部・山岳地帯〉


険しい山道。


帝国軍別動隊を率いる男、帝国軍将軍スチュア。


偵察部隊からの報告を、将軍スチュアと幹部たちが聞いていた。


「……海上部隊は壊滅、か」


低い声。


沈黙を破るように部下が口を開く。


「パーシング将軍の救出案を作成します」


スチュアは片手をあげて返事をする。


「構わん、気にするな」


「では、優先目標はシドー制圧のままで?」


「――帰還する」


淡々とした声だった。


「だが将軍――」


「我々は後詰だ。前段作戦が崩れた以上、進軍の意味はない」


「前段作戦が失敗した以上、我々は次作戦の検討と国防が最優先だ」


「まずは、この山道を爆破し封鎖せよ」


「……よろしいのですか?」


「この道は商流でも使われますが――」


「構わん」


「敵の侵攻ルートを塞ぐのが最優先だ」


誰も反論できない。


「敵戦力の分析と新兵器の開発の時間を稼ぐ必要もあるしな」


「備えができていないから、パーシングもシャーマンも負けたのだ」


「我々に敗北は許されない」


「――誇り高きヴェルトム帝国軍なのだからな」


部下が黙り込む。


帝国軍は、静かに山を下り始めた。


――敗北した味方を置き去りにしたまま。


〈シドー・騎士団支部〉


――昼過ぎ。


ナナセたちはいつもの4人で食事を取るために食堂に足を運ぶ。


食堂の中では、アルルが配膳役を務めていた。


「おっ、今日はアルルちゃんがお手伝いしてるんだ」


「ナナセお兄ちゃん!」


「来るって言ってくれてたら、特別な料理を作っておいたのに」


「最近は色々忙しいからね」


「この後もシドーの街中を歩き回らないといけないしね」


「探検!?」


「残念、お仕事」


「連れてってよ!!」


「また今度ね♪」


ナナセとアルルのやり取りを、サツキたちは呆れ半分に眺めていた。


「……あんた、そのうち変質者と間違われるわよ?」


「どうして、支部長が変質者扱いされるのさ」


ヒナノが苦笑する。


「実際、アルルちゃんかなり懐いてるからねぇ」


「さすがに、子供相手にそんなことしないよ?」


「……子供じゃないもん」


頬を膨らますアルル。


そんなアルルをオボロが宥める。


「年相応でかわいらしい表情ですよ」


「無理に大人になる必要はありません」


「子供には子供の特権もありますから」


ナナセのトレイからデザートを奪うアルル。


「アルルちゃん?」


「今日はこれで勘弁してあげる♪」


「子供の特権だもん」


笑いが堪えきれないサツキたち。


「子供の特権なら仕方ないわね」


「そうそう♪」


「諦めてください」


「みんなが僕のおかずを少しずつ取っていくのは?」


「「「女の特権♪」」」


肩を落とし諦めるナナセ。


空いているテーブルに座る四人。


――食後、孤児院についてまとめられた報告書を取り出すナナセ。


孤児院の写真と調査報告書が机に広がる。


「……まずは孤児院に行くべきだね」


オボロが人数分の紅茶を並べる。


「一番の本命ですからね」


「でも、礼拝堂の地下も含めて、一通りは調査したわよ」


サツキが眉間にしわを寄せる。


「でも、行かない選択肢はないよね」


「礼拝堂みたいに、隠し階段があるかもしれないしね」


シドーの地図を広げながら、調査範囲を選定するナナセたち。


そこに、トレイを下げに来たアルルが顔を出す。


黙々とトレイを下げるアルルだったが、写真を見て動きが止まる。


ナナセの視線がアルルに向かう。


「……アルルちゃん?」


「……ナナセお兄ちゃん」


「やっぱり、探検に連れて行って」


危ないからと、止めようとするヒナノをナナセが手で制する。


首元のペンダントを掴みながらナナセに力強い視線を向けるアルル。


「行かないといけない気がするの」


アルルの顔の横に精霊が現れる。


――アルルを後押しするように。


ナナセの視線が、アルルの隣へ向く。


小さな精霊が、アルルを庇うように浮かんでいた。


「……この子が、そう言ってるの?」


ナナセは小さく目を細めた。


精霊は、まるで“急げ”と言うように揺れている。


「……わかった」


「一緒に行こうか」


「ありがとう!!ナナセお兄ちゃん!!」


ナナセの視線が、孤児院の写真へ落ちる。


まるで、そこへ導かれているように。


【第三十一話へ続く】

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