表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/103

【第二十六話】凪の上の魔法使い

〈シドー・港湾防衛設備〉


――昼過ぎ。


港湾都市シドーには、重苦しい緊張感が漂っていた。


海風が強い。


見張り台では騎士たちが慌ただしく動き回っている。


「帝国艦隊、なおも接近中!」


「先頭艦、視認距離へ入ります!」


港の空気が張り詰める。


沖合に並ぶ巨大な軍船。


その姿を見た王国兵たちの顔色が変わっていた。


「……でかい」


誰かが呟く。


王国軍船より一回り以上大きい。


黒鉄色の装甲。


異様な速度。


そして何より――


「帆の数が少ない……?」


騎士の一人が困惑したように言った。


通常、これほどの大型船なら大量の帆が必要なはずだった。


だが。


帝国艦隊は違う。


最低限の帆しか使っていない。


それなのに。


海を滑るように進んでいる。


艦隊を見たヒナノが呟いた。


「以前の帝国軍船と違う……」


サツキが眉をひそめる。


「前回、ヒナノが沈めた船とは別物ってこと?」


「うん、あの時は私の魔法とここの大砲で対応できたけど……」


リグルが険しい顔で艦隊を睨む。


「……やはり新型か」


「シャーマンは軍内政治が下手なのか、嫌われていたんだろうな」


「だが今回は違う」


「――帝国本軍だ」


重苦しい沈黙。


港湾防衛設備は、まだ復旧途中だった。


先の戦闘で破壊された砲台。


修復途中の防壁。


加えて、帝国艦隊の数が多すぎる。


正面からの海戦では、分が悪かった。


ヒナノが不安そうに海を見る。


「じゃあ、行ってくるよ」


軽い声。


振り向くと、ナナセが海へ向かって歩き出していた。


サツキが静かに問いかける。


「小型船を用意させてるから、もう少し待って」


「大丈夫」


「すぐ片付けてくるから」


「そういうことじゃ――」


サツキが止めようとした瞬間。


ナナセの足が、海面へ触れる。


波紋が広がる。


そして。


そのまま。


沈まずに立っていた。


港にいた騎士たちが息を呑む。


「……は?」


「え?」


ナナセは振り返りもせず、軽く手を振った。


「じゃ、後よろしくねぇ」


次の瞬間。


――ズンッ。


周囲の海面が静かに震えた。


風向きが変わる。


海が、凪いだ。


異常なほどに。


オボロだけは静かだった。


「……始まりましたね」


リグルが苦笑する。


「相変わらず規格外だな、あいつは」


サツキが呆れたように額を押さえた。


「昔からそうだったけど」


「スケールが大きくなってるのよ……!」


ヒナノは目を輝かせていた。


「……かっこいい」


サツキがすぐに視線を向ける。


「甘やかさないで」


「それに――」


「サツキ……それ以上は言わないでいいよ」


「――今は祈るだけだよ」


二人の表情には、少しだけ複雑な色が混ざっていた。


〈シドー沖合〉


――その頃、帝国艦隊前方。


黒鉄の艦隊が海を進んでいた。


通常の船ではない。


精霊を利用した帝国最新鋭艦隊。


その旗艦の先頭甲板に、一人の男が立っていた。


大柄な体。


剥き出しの腕。


獣のような眼光。


帝国軍将軍、パーシング。


「……風が止んだ?」


部下の声。


パーシングが目を細める。


海が静かすぎる。


風が消えていた。


波も弱い。


嫌な静けさだった。


「――前方に人影!!」


見張りの叫び。


全員の視線が向く。


海の中央。


そこに、一人の男が立っていた。


支部長を示す騎士団服。


両手を上げ、軽く身体をほぐしている。


まるで散歩中のような気楽さ。


「……なんだありゃ」


帝国兵が困惑する。


あり得ない。


人が海に立てるはずがない。


だが。


“立っている”。


パーシングの口角が吊り上がった。


「ハッ……」


「面白ぇ」


ナナセは静かに艦隊を見上げる。


巨大な鉄装甲艦。


「……なるほどねぇ」


「以前のより、魔力効率がかなり上がってるね」


「これはちょっと面倒かな」


その瞬間。


海面に薄い霧が広がり始めた。


まるで海そのものが、ナナセへ従っているかのように。


帝国兵たちがざわつく。


「視界が――」


「霧だと?」


「いや、急すぎる……!」


霧が、さらに濃くなる。


帝国艦隊を包み込むように。


静かに。


確実に。


「これだけいるなら、一隻ぐらいはいいよね」


「おもてなしも必要だし」


ナナセが海面に手を当てる。


「――先頭、1番艦周辺に魔力反応!!」


帝国兵の叫び。


次の瞬間。


海面が隆起した。


「な――」


巨大な水柱。


先頭の護衛艦が真下から突き上げるように噴き上がる。


鉄装甲が軋む。


船体が割れる。


――轟音。


――衝撃。


波が艦隊全体を揺らした。


「なっ……」


「一撃……」


帝国兵たちが絶句する。


砲撃ではない。


魔導兵器でもない。


たった一人。


海上に立つ男が、“海そのもの”を操っていた。


ナナセは静かに首を鳴らす。


「……よし」


「これで挨拶にはなったかな?」


青ざめる帝国兵たち。


――パーシングだけは笑っていた。


「ハハッ!!」


「いいじゃねぇか!!」


その身体から膨大な魔力が噴き上がる。


肉体強化。


暴力的な圧力。


甲板が軋む。


「お前ら気合い入れろよ?」


「逃げたやつは、俺に殺されるか“器”になるかだからな?」


パーシングの喝で帝国軍が持ち直す。


想定外の脅威に対抗するために。


――ナナセは動かない。


「“器”か……」


ただ静かに、艦隊を見つめていた。


逃がさない。


壊さない。


――全部、奪う。


戦場が、ナナセの支配下へ変わり始めていた――


【第二十七話へ続く】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ