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【 第十八話】崩壊

〈ナナセ、ガザミサイド〉


狭い階段を下りていくナナセたち。


オルフェの姿は見えず、ただただ階段を下りていく。


「……どこまで続くんだ」


言葉が漏れるガザミ。


不意にオルフェの声が響く。


『ここは崖下に続くので、ちょうどいいんですよ』


『密輸や実験のね』


「さっきの子供たちやチャンクも実験の成果って言いたいのか?」


『えぇ、精霊を身に宿す実験ですね』


『ただ……契約以外だと器の有無や強度が必要ですね』


『成長途上の子供だと、器が作られると踏んだのですが……』


「子供……だからチャンクだけ見た目が違ったのか」


オルフェの説明に納得するガザミ。


しかし、ナナセが言葉を重ねる。


「あれだけは別だね……」


ナナセの言葉を聞き思わず感嘆が漏れるオルフェ


『よくわかりましたね』


『あれには器として、帝国からの贈り物を使いました』


『あれが暴れている隙に逃げる予定だったんですがね……』


階段を下まで降りると、広いスペースが広がる。


培養ポッドや停船場が見える。


――広間の奥にはオルフェが待ち構えていた。


オルフェの正面にはガラスケースに捕らわれているアルルもいた。


「お父さん!」


ナナセたちに気づきガラスを内側から叩くアルル


「アルル!」


アルルに駆け寄るガザミ。


『行っちゃダメ!』


「ガザミさん!ダメだ!!」


緊迫したナナセの声を聴き、足を止めるガザミ。


そんな3人を眺めているオルフェは拍手をしながらナナセを見る。


「よく気づきましたね?」


「ですが、せっかくの親子の対面を邪魔するのは性格悪いですよ?」


口角を上げているオルフェを睨むナナセ。


「……性格悪い?」


「今更、自己紹介はいらないでしょ?……お互いに」


ガラスケースに向けて手を向けるナナセ


「……罠は……光と闇だけか」


「……トラップは解除したけど、その箱の解除は時間がかかるね」


「少しだけ、アルルちゃんを守っておいてね」


大矛を構えなおすガザミ。


ナナセから目が離せないオルフェが問いかける。


「せっかくお会いできたので教えてください……」


「なぜそこまで詳しいのですか?」


「――契約精霊が特別なのでしょうか?」


「姿も見えませんので」


オルフェと視線がぶつかる


「精霊の力は関係ないよね?」


「僕の相棒は、恥ずかしがり屋なんだよ」


「……珍しくはないでしょ。姿を見せない精霊なんて」


「……つれないですね」


「ご紹介頂きたかったのですが、恥ずかしがり屋なら仕方ありません」


「いつかお会いできる日を待ちましょうか……」


目を細めるオルフェに今度はナナセが質問をする。


「無理やり精霊を宿して何をしたいの?」


「――会いたい人がいるんですよ」


「その人物に会わせたい人も……」


「ただ、誰に会わせたかったのか、忘れてしまいましたがね……」


目を伏せるオルフェ


「……長生きなんてするものじゃありませんね」


「――長生きじゃなくて死ねないだけでしょ?」


オルフェの目が開く。


「成仏しないで肉体を乗り換えているのかな……」


「――たまには長生きしてみるものですね」


「優秀な若手に会うと、いつも心が躍りますね」


口角が上がるオルフェ。


「では、特別にもう少しだけ……」


「我々はある御方を顕現するための“器”を探しています」


「そのお嬢さんも、光か闇の属性の精霊付きでしたら連れて帰り

ましたが……」


「残念ながら、火属性の精霊でした」


「属性を弄ろうにもそのネックレスに籠ってしまいまして……」


「こんなに素敵な魔道具を用意されてるなんて思いませんでしたよ」


「作っておいて正解だったね」


「……!あなたが作ったのですか」


「魔道具にもお詳しいなんて……」


「――“器”をここに残してしまうのは、失敗だったかもしれませんね」


眉をひそめるナナセ。


しかし、オルフェからこれ以上言葉は返ってこない。


――どうやらおしゃべりは終わりのようだ。


聖典を開いて右手の人差し指と中指を立てるオルフェ。


「……魔導書?さすがに古すぎない?」


「慣れ親しんだ魔法が一番柔軟ですので」


「……間違いないね」


剣を構えるナナセが一直線に詰め寄る。


オルフェの魔導書が光り、魔法陣がいくつも展開される。


岩壁の波がナナセを襲う。


岩壁を切り崩すナナセ。


そのまま返す刀で水属性の魔刃を飛ばす。


魔刃を魔法陣で防ぐオルフェだが、後ろからの水流に気づく。


高台を作り回避しながら周りを確認する。


「海も利用するとは……」


「よそ見する暇あるの?」


剣を構えながら接近するナナセ。


「……えぇ、仕込みは既に終わっておりますので」


オルフェが足元に手を伸ばす。


地形が変わり、高台までの道が谷のようになる。


逃げ場のないナナセに高台から無数の魔法を浴びせさせる。


魔法壁や剣術で魔法を処理するナナセ。


「なかなか、動きがいいですね」


「……こんなのはいかがですか?」


オルフェの後ろに巨大な球体が出現する。


――魔法の魚の群れでできた球体だった。


球体から魚群が群れを成してナナセに襲いかかる。


「多いね……、『蒼鯨流』」


地中から水魔法のクジラを出現させて、魚の群れを飲み込ませる。


そのまま、クジラをオルフェに向かわす。


……しかし、オルフェの前でクジラは破裂する。


「見事なラングフィーディングでしたね」


「考えることは同じのようで、うれしいですね」


オルフェの言葉が届くとともに、ナナセの足元からクジラが現れる。


――ナナセを飲み込もうとするクジラ。


岩壁のドームを作り防御を固める。


「……固いですね」


「いつまで籠っているのですか?」


「――『双豹』」


身を潜めながら魔法を発動するナナセ。


岩壁のドームの裏から、火と雷の豹が現れる。


オルフェの迎撃用の魔法を避けながら、高台に迫る二匹の豹。


迎撃に集中するが、自身の影に違和感を覚えたオルフェ。


上空に向けて飛び上がる。


――オルフェの影が割れてナナセが現れる。


居合をオルフェに向けて放つが、魔法で床を作りさらに飛び上がる。


「うへぇ、これも対処する?」


「……困ったなぁ」


先に落下するナナセ。


ナナセに向けて右手を構えるが、反撃を諦めて防御に徹するオルフェ。


「簡単には反撃させてくれませんか……」


二匹の豹がナナセの肩を踏み台に、オルフェに襲い掛かる。


空中で爆発が生じる。


岩壁の上に立ち、上空を警戒するナナセ。


爆炎の中から、塊が焦げながら転がり出てくる。


塊に目を向けるが、同時にナナセの影から魔弾が飛んでくる。


「ちっ……」


魔弾をよけるナナセ。


――岩壁の上で睨みあう二人。


「時々は運動をしないといけませんね」


「……健康目的にされても困るんだけど?」


「どうやら、ここまでのようですね」


――キィンッ


不意に、甲高い射出音が響く。


ナナセは音がした方向に視線を向ける――


そこには、膝をついているガザミが目に入る。


――ガザミの背中には黒い魔力杭が刺さっていた。


(…………これは――まずい)


「アルルちゃん!!」


ガザミの後ろで、オルフェの部下が魔導弩を向けていた。


「……お父さん?」


アルルの声が、わずかに震える。


うつ伏せに倒れるガザミと泣き叫ぶアルル


血が、床に広がる。


――その色を見た瞬間、アルルの呼吸が止まった。


「やだ……やだ……やだぁぁ!!」


倒れたガザミに触れようとして――


アルルの手が、届かない。


見えない“壁”が、そこにあった。


「お父さん!!お父さん!!」


ガザミに動きはなく、アルルの叫び声だけが響く。


――アルルの内側から魔力があふれ出す。


ピシッ――


小さな音が、空間に走る。


ガラスに、細い線が刻まれる。


それは一瞬で広がり――


罅が、蜘蛛の巣のように走っていく。


――アルルの瞳が、ゆっくりと染まる。


「……やだ」


「もう――やだぁぁぁぁ!!」


荒々しく、悲鳴のような魔力が溢れ出す――


【第十九話へ続く】


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