【第十六話】碧刃の剣聖
〈サツキサイド〉
領主邸のエントランスホールで戦闘後のサツキたち。
「意外とあっさりと入れるものだね」
「うん、傭兵もいたけどたいしたことなかったね」
討伐した傭兵を拘束するヴェルとヌイ。
「……二人とも気を抜くのは早いわよ?」
サツキは階段上を睨んでいる。
そこに、アカマとシャーマンが拍手をしながら現れる。
「私の館を汚しよって……使えんものに金をかけてしまったな」
「どうだ?今ならこちらについても構わんぞ?」
「お前は美人だし、気の強い女は好きだぞ?」
サツキに問いかけるアカマ。
「……反吐が出る」
シャーマンが階段を下りてくる。
「今更、こちら側には来ないだろ」
「欲しいのなら組み伏せるしかあるまい」
「……しかし、さすが剣聖だな」
息が上がっていないサツキに目を細めるシャーマン。
「あの支部長と戦いたかったが……お前でも楽しめそうだ」
完全武装のシャーマンがサツキに正対する。
シャーマンは大楯と剣を構える。
「……ずいぶん大きな盾ね」
「そんなに自分の身がかわいいの?」
サツキも双剣を構える。
ヴェルとヌイはアカマを逃がさないように二階に向かう。
「コバエがうるさいが、お前から目を離せないな」
「――いい女だしな」
「……聞きなれてる言葉だけど、あなたから言われると吐き気が
するわね」
サツキとシャーマンの視線が交差し、周りの騒音が消える。
――まるで最初から音なんて無かったかのように。
サツキが挨拶代わりに水と風の魔弾と魔刃を飛ばす。
しかし、シャーマンの盾が打ち消す。
霧散するサツキの攻撃。
「ただの盾じゃないのね」
口角が上がるシャーマン。
「将軍というのは色々もらえるからな」
「金も武具も部下の成果もな」
「――これはドワーフの谷製だ」
「魔法を無効化する魔道具が組み込まれている」
「強度もあるからお前の攻撃は通らないぞ?」
サツキは近づこうとするも足が止まる。
サツキの目の前の地面が爆発する。
爆発の噴煙に消火用魔道具が反応し、水が降り注ぐ。
霧雨の中でシャーマンは剣を地面に突き付けている。
「よくわかったな」
「やはり、女は勘がいい生き物のようだな」
「――あなたの雑な魔力なら、わからないほうが難しいわ」
サツキは手数を増やす戦術を取る。
しかし攻撃は届かない
攻めあぐねているサツキに対し、シャーマンは地面からの火柱で
牽制を続ける。
いつしか、サツキの両サイドには、カーテンのように火柱が上がる。
――逃げ場がなくなる。
――熱が、一瞬で肺を焼く。
「……っ」
苦悶の表情を浮かべるサツキに対し、剣を投擲するシャーマン。
(ここで投擲――?)
一瞬の違和感。
(……違う)
次の瞬間、正面から気配が迫る。
「――ちっ!」
すでにシールドチャージをしかけているシャーマン。
盾の正面には無数の棘が出現している。
「――あんな簡単な手に引っかかるとはな」
「教えてやろう!戦闘中に相手から目を離すと死ぬってことをな!!」
シャーマンは勝ちを確信したのか、口角を上げている。
だが。
――サツキに焦りはない。
(……遅い)
「がっつく男は嫌いなのよ」
サツキは足元に剣を刺し、周囲の温度を“奪う”。
――次の瞬間、世界から熱が消えていく。
さらに、シャーマンの足元の水たまりを凍らせる。
「足元に注意しなさい」
「なんだと……!?」
勢いを止めきれずに、体勢を崩しながらサツキに近づいてしまう。
すれ違いざまに剣戟を浴びせるサツキ。
「――消火用魔道具の水か……にしては多いな」
血だらけになりながら立ち上がるシャーマン。
「私の部下はいたずら好きだから、水量を変えたのかしら……」
二階に目を向けるサツキ。
Vサインのヌイ
「攻撃を防いだのは褒めてやるが、今の隙で仕留められんとはな?」
「……せっかちな男も嫌いなの」
サツキはまた魔弾と魔刃を浴びせる。
「女ってものは、どいつもこいつも嫌いなものが多いな」
「俺はしつこい女は嫌いじゃないぞ?」
だが。
シャーマンは片膝をつき崩れる。
「……は?」
――シャーマンの足には、新たに無数の切り傷が刻まれている。
「正面しか見てないのね」
「それとも、盾と態度が大きすぎると気づかないのかしら」
再度、魔弾と魔刃がシャーマンに襲い掛かる。
シャーマンは気づく――
燕のような形の魔刃が盾を迂回し、死角から襲い掛かっていることを。
「盾の外からだと!?」
――シャーマンの腕に襲い掛かる燕の群れ。
旋回する魔刃により、全身に裂傷が刻まれていく。
シャーマンの顔から余裕が消える。
「くそっ!軌道が読めん……!?」
遂に盾を持てなくなるシャーマン。
「……知らないの?」
「魔法は“自由”なのよ?」
止めを仕掛けるサツキ。
「『碧刃:霊鳥』」
ナナセとの合わせ技よりも小型の霊鳥がシャーマンに襲い掛かる。
碧色の氷翼の羽ばたきを見て、死を覚悟するシャーマン――
しかし、霊鳥はシャーマンの足元に着弾し氷で拘束しだす。
「――殺しはしないわよ」
「洗いざらい話してね、犯罪者さん」
さらに氷の檻でシャーマンを囲むサツキ。
シャーマンを包む氷が、広がっていく音だけが響いている――
アカマを拘束しながらサツキを見ているヴェルとヌイ。
「とどめをあの氷の鳥にするあたり、支部長への当てつけだよね」
「間違いないね」
「その日のうちに取得するのもおかしいけどね」
「もっと素直になればいいのにね」
「無理だよ」
「高度な魔法の取得よりも高難易度だもん」
「――サツキ隊長にはね」
ヴェルとヌイが顔を合わせて笑いだす。
「――ヴェル、ヌイ?」
不意に名前を呼ばれて青ざめるヴェルとヌイ。
「明日からの訓練、覚悟しておきなさい」
「余裕みたいだからね?」
二人の反論を目だけで制するサツキ。
そんな部下をかわいがりながらも、サツキは領主邸の窓から港湾へ
目線を送る。
遠くで燃える港湾の炎を見つめるサツキ。
「――アルルちゃん……絶対、取り戻すから」
「ナナセ、ヒナノ……気を付けて」
――領主邸での決着がついたころ
孤児院に突入したナナセたちも佳境を迎えていた。
【第十七話へ続く】




